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ヒロシが外に出る所で第一章の区切りとしたいと思います。
これから徐々に外の世界に出ていくようになります。
よろしくお願いします。
ひとしきり泣いた後、俺は眠ってしまったらしい。
男のくせにとか言ってくれるな。俺は死んでしまったが、こうしてまた違う世界へとステージを変えて生きていかなくてはならない。地球ではすでに20年の月日が流れ、家族は既に俺の死から立ち直って皆元気に暮らしているとの事で安心した。
創造神様に感謝だ。俺も負けないように頑張らないとな。そんなことを考えながら俺は服を着替える。ジーパン、Tシャツにパーカーだ。当然だがこれしかない。
少し汗臭い気がするな、とか思うとまた頭の中で声が響いた。
”家内安全の能力より生活魔法の技術が発動しました。”
何か困ることがある度にスキルが付与されるのか? 楽して得られるのはなんだか申し訳ない。生活が安定したら神棚でも作ってお礼を言わなくちゃな。この声、機械的な声ではなく若い女性の声なんだよな。俺が男だからそうしてくれているのか、もともとそういう仕様なのか......野太い野郎の声よりよっぽどマシだから何も言うまい。
神様が言ってた通りスキルが付与されたら自分に何ができるのかわかる。俺だけの特典ではないにせよこれは便利だ。本当にご都合主義ありがとう。助かるよ。
俺は体と衣服に【洗浄】をかけた。風呂上りとまではいかないけど、少しサッパリした気分だぞ。使ってから思ったが俺って魔力があるんだな。
備え付けの鏡を見ていると、ロイが『おはよー』と言いながら飛び込んできた。後ろではシェリーがオロオロしているぞ。
「ちょっとノックしなさいって言ったでしょ!」
「ごめーん、お兄ちゃんおはよう」
「ああ、おはようロイ、あとシェリーちゃんもね」
「うん、おはようヒロ兄」
「二人も今起きてきたところかな?今から下に降りようかと思うんだけど」
「うん、私とロイもそうなの。で、ヒロ兄を呼びに来たの」
「そうかい、じゃぁ一緒に行こう」
そう言うと俺はは2人と手をつなぎながら階段を下りて行った。
「おはようございます」
「うむ、おはよう」
じいさんがテープルに座っている。既に食事を終えてコーヒーと飲んでるって感じだな。すぐ後ろには給仕がビシッて感じで待機しているぞ。レザリアおばあちゃんも隣にいて今日もニコニコしている。
「おはよう、ヒロシくん。昨日はよく眠れたかしら?」
「はい、お陰様で」
特に枕が最高だと、俺の持論を展開させていたところにソニアが奥から出てきた。
「丁度よかったわ。食事の準備をお願いしてたところなの」
席に座るとすぐに奥から給仕が食事をサービスワゴンに載せて出てきた。スープにパンに卵、ベーコンにあと野菜。飲み物は水とオレンジジュース、コーヒーだ。
「じいさん、本当に美味しい食事で有難く思っているのは本当なんだけど、この街ではこのレベルの食事ってのは当たり前なのかい?」
「ふむ、当たり前ではないの。一般でも似たものは食しているだろうが同じというわけではないと思うぞ」
「だよな、この雰囲気はどこかの高級ホテルみたいだもんな」
「ホテルってのが何か分からんが、恐らくその理解で間違いないじゃろう。あぁ昨日も話したが今日は食事を終えたら屋敷の方に移動じゃ。それでお前さんのこれからの事も含めて話をしようと思う。屋敷の者にも紹介せんとイカンからな」
「屋敷ってのはここから遠いのか?」
「なに、馬車で30分程度の所じゃよ。街を抜けたらすぐだ」
「ふーん、ホテルとレストランって儲かるんだな」
「ロイはね、そこから毎日学校に行ってるんだよ! シェリーも一緒だよ!」
「そうか、街まで歩いていくのは遠いんじゃないか? 毎日大変だな」
「ううん、学校までは馬車で行くよ?」
「おう、そうなのか。それはすごいな」
海外では学校まで親が車で送迎したりバスで乗合で行ったりするこはごく当たり前のことだ。俺はそのような感じの理解をしていた。
「じゃぁ、やっぱり皆さんは基本的にここには住まれてないってことですか? ええと、給仕の方やメイドさんも多分にいるように見えるのですが?」
「ここには2週間に一度くらいね。私はシェリーとロイと3人でここで暮らしても良いんだけどね。主人が亡くなるまではここに住んでたんだけど、以降は防犯上の理由からも屋敷に移ってるの。おじいちゃんとおばあちゃんもそうした方が良いって言ってくれて。感謝してるわ。ホントよ?」
「ソニアはつまらんことを気にするな。それにシェリーとロイもいる。当然じゃよ」
「そうよ、ソニアさん」
「じいさん、ホントいい人過ぎるぜ」
「うるさいわ」
そんなことを話しながら楽しい朝食の人時は過ぎていった。そして馬車の前、俺は服を着替えて立っていた。俺の服は素材は良いのだが目立つのだとか。
馬車に乗るんだから良いんじゃないの? と思ったが別に断る理由もないのでありがたく新しい服を頂戴した。簡単に言うとシャツにスラックス、それに革靴って感じだ。良いのか? 高そうだぞ?
「それでは出発しようか。セバス頼むぞ」
「心得ました、旦那様」
「じいさん」
「なんじゃ」
「旦那様、なんだな」
「そうじゃな」
外は晴れ。雲一つない青空だ。
ひょんなことからこの世界に来てしまったが、俺はこれから生きていかなくてはならない。
俺は左右に広がる道路と後ろに構えるホテルを見上げてから馬車に乗り込んだ。
お読み頂きありがとうございます。
閑話を少し挟んでから第二章のスタートになります。