124 リンクルアデル第一王女 アンジェリーナ・フォン・アデル
頑張ってあと一話投稿します。
よろしくお願いします。
「失礼致します」
「よく来たわね、そこに掛けて楽にして頂戴」
マリー様の私室。俺は言われるままソファへと腰を掛けた。メイドがすぐに飲み物の用意をしてくれる。
「美容液とはどのようなものなのかもう一度説明をお願いできるかしら?」
マリー様はすらっとしたスタイルの美しい淑女だ。その遺伝子は先日お会いした第二王女にも間違いなく受け継がれている。やはりどの女性も『美』に対する意識は高いのだろうな。ただ、何故あの場で言わず、わざわざ場所を移すようなことをしたのかが分からんが。
「まだ構想段階ではありますが、お肌に潤いを与え、維持し、また施術を行う事で体型に変化を与えることが出来るものです。潤いと維持に関しては個人で可能ですが、施術に関しては個人で行う事は出来ません。エステティシャンと言われる施術士による施術が必要です」
「変化とはどのように変わるのかしら?」
「もちろん施術を受けて頂く方にも食事管理や適度な運動など協力頂く面は多々ありますが、基本的には健康的に痩身体型になって頂く事を目標にしております」
「施術士に関しては何人位いるのかしら?」
「こちらに関しては美容液が完成した後で私の方が育てる形となります」
「あなたはその技術を既に持っているというのね?」
「持っているというか...まぁ、そうですね」
持ってない。持ってないのだ。昔嫁さんがエステに行って体験した施術方法を強要されていたレベルだ。そういう意味ではあれやこれやと色々なサイトも見てきたのである程度知識としてはある。半分詐欺みたいなものだが、食事療法と運動、美容液のコンボを真面目にやれば大抵は痩せるはずだ。この方針で行く。
「どういう理屈で痩せるのかしら?」
早速聞いてきたか。仕方がないがある程度話すとするか。
「私はこのシステムをエステと呼ぶことにしております。施術士はエステティシャンと言います。様々な施術メニューをこなして頂き『太りにくく痩せやすい』体質への変化を促す訳です。同時に施術によって体内の脂肪分を燃焼させます。前もって言いますと、一度で完成しません。最低でも三カ月は必要になると考えております。適切な食事と運動で筋肉を刺激して代謝を高める事によって美に対する意識を作り、そして外見の美しさをご自身で維持していくのです。メニューとは大きく食事療法、運動、そして美容液による施術と三つとなります」
「美容液はいつ完成するのかしら?」
「それはまだ何とも」
「すぐに完成させるのです!」
「え...いや直ぐにと言われましてもまだ研究も始めてなくてですね。それにマリー様は、その何と言いますか、ええと、今のままで十分お美しいと思いますが?」
「あら、嬉しいわね。でも対象は私ではありません」
「と言いますと?」
「ミランダ、アンジェリーナを呼びなさい」
「でも、奥様アンジェ様は...」
「良いから呼んできなさい!良い事? 余計な事は絶対に何も言っては駄目よ。私が呼んでいるとそれだけを伝えなさい」
「はっ、はっ、ただいま」
ミランダさんと呼ばれた人は慌てて部屋から出て行った。アンジェリーナさんは王女様かな? きっとそれはそれは太っているのだろう。アホでもわかる流れだ。まだ美容液も効果も分からない状態で無理難題を押し付けられるのか。どんな無理ゲーだこれ。帰りたい。このまま走ってロングフォードまで帰りたい。
「何をブツブツ言っているのですか?」
「あのアンジェリーナ様とは? すみません、レイラ様は存じ上げているのですが」
「アンジェは第一王女です。年齢は先ほど聞きましたがソニアさんよりアンジェの方が少し年下のようですね」
「そうですか」
「詳しく聞きたいですか?」
聞きたくありません。帰らせて下さい。
「アンジェはまだ結婚できずに城に籠っている状態です。縁談も受けず外に出る事もせず。また、この何年かはもう話にも出ませんが、その身に能力や技術を未だ宿しておりません。陛下も私も心を痛めているのです」
止めて下さいこれ以上ハードルを上げるのは。そこの窓をぶち破って逃げますよ?
「口には出しませんが、容姿を気にしているのは明白です。そして自らを卑下しているのです。後継ぎはフランツがいるとは言え、このまま城の中で生涯を過ごすなどあまりに不憫。私は一人の親としてアンジェを助けたいのです。分かってくれますね?」
『分かってるよな?お前何とかしろよ?』って目で見るのは止めて下さい。もう逃げるしかない。そしてサティとソニア、子供たちを連れて旅に出よう。ドルスカーナでも良いな。しばらく身を隠してゆっくりしよう。
「はは、もちろんですよ。まぁ美容液が出来たらまたお話しましょう。それでは長居をするのもわる...」
「奥様、お待たせ致しました」
来たんかーい。
「アンジェ来たのね。さぁこっちにいらっしゃい」
「嫌です」
嫌なら部屋にお戻りになっても良いのですよ? アンジェさんの方に顔を向けたら終わりだ。俺はガン見体質なんで目を離すことが出来なくなるだろう。気を悪くされたら不敬となる。ここは鉄の意思をもって一点見つめだ。テーブルの上にあるティーカップの模様から目を離すな。
「アンジェ、大丈夫よ。こちらへいらっしゃい」
「また私の事を見て笑うのね。この体を、何も持たない無能の私を! もう嫌なのよ! お母さま、お願いだから放っておいて頂戴!」
「可哀そうなアンジェ。大丈夫よ。母を信じて。大丈夫、大丈夫よ。さぁこっちへいらっしゃい。彼がきっとあなたの力になってくれるわ」
この時、俺の中に設定していたハードルが見えなくなった。恐らくあの空の向こう側まで伸びて行ったんだろうな。どうしよう、どうしたらいいんだ。逃げるに逃げれない。流すに流せない。過去最大級のピンチだ。ふふ、脇汗が酷いぜ。正直泣きそうだ。
「さあアンジェこちらに座ってご挨拶を。ヒロシさん、娘のアンジェリーナよ」
「アンジェリーナですわ」
俺はゆっくりと顔を前へと向けた。恐らく壊れたドアのような音がしている事だろう。
「初めまして、ヒロシと言います」
俺はアンジェリーナを見た。
お読み頂きありがとうございます。
ブクマ、評価を頂ければ嬉しいです。
次話投稿は今夜10時頃を目途にできれば良いなと思います。
引き続きよろしくお願いします。