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よろしくお願いします。
「やあ、よく来たね」
「これは、ローランド伯爵。わざわざお出迎えて頂くなど申し訳ありません」
「はは、ヒロシ君。そんな堅苦しいのはもう良いよ。ソニアさんもお疲れ様」
「伯爵閣下、先日はありがとうございました、またお出迎え頂き感謝致します」
ソニアは伯爵に御令嬢モードで挨拶している。サティもちゃんと紹介しないとな。
「先日は連れて来れなかったのですが、こちらは妻のサティです。よろしくお願いします」
「ローランド伯爵閣下、お会いできて光栄です。サティと申します」
「サティさん、初めまして。あなたの事を知らない人はリンクルアデルには居ませんよ。こちらこそお会いできて光栄だ。さぁ、中に入ると良い。お前たち、護衛の皆さんもお通しするんだ」
「「畏まりました旦那様」」
俺たちは伯爵の後に続き屋敷の中へと入っていった。子供たちは再会を喜び直ぐに庭へと出て行った。シャロンも連れてきてやりたかったが仕方がない。シンディとメイド衆が後をついて出て行った。
俺たちの話と言えば、商会と俺の事に関することが多かった。サティとの結婚、許嫁のソニアの話。そして商売に関する事。Namelessローランド支店は当然ながら既に営業を開始しており、エミリアさんもそこで働きだしている。
あ、混同しないようにもう一度言っておくが、元々ロングフォードやここは『アルガス』という領地だ。街の名前は街を治める人の名前で呼ばれているに過ぎない。この街の場合はアルバレスとかローランドとか呼ばれている。
ロングフォードからの噂はここローランドでも広まっており、開店当初から客で溢れかえっているとの事で本当にありがたい話だ。当然伯爵にもロイヤリティが入り始めておりこちらも喜んでくれた。常に品薄の状態でエミリアさんは頭を悩ませているという。もちろん商売に対する姿勢はロングフォードと同じだ。ギルドとも相談して価格も合わせているし、競合店を潰すような事はしない。ちゃんと共存できている。
「ローランド伯爵、道路建設の方は如何でしょう?」
「伯爵は要らないよ。ローランドと呼んでくれないか。作業自体は順調だ。ゴードン卿が頻繁に視察に来ているから加盟店の商会は手抜きなんかできないよ」
「ちょっと悪いことしちゃったのかな?」
「それはないね。遅延なく進めてさえすればゴードン卿へのアピールもできる。商会も必死だよ。今の所誰も損をしていないというのが私が見ていて感じる所かな」
「そうですか、なら良かった。あと、つまらないものですがこちらをお持ちしました。Namelessの新商品です。ローランドではまだ出回ってないはずです。ロングフォードでは店頭に並べると即完売になるほどの人気ぶりです。是非お試し下さい」
「へー、興味あるね。これかい?良い香りだ。プレミアソープ?石鹸と言うのかい?これは楽しみだな」
「奥様もきっと気にってくれるかと思います」
「分かった、後で渡しておくよ。それで陛下にもお会いになるんだろう?いつ向こうへ行くつもりだい?」
「ローランドさんが良ければ明日は一日ゆっくりさせて頂いて明後日に行けたらよいと考えております」
「もちろん大丈夫だ。こちらから城へは直ぐに手紙をだそう。おい、紙と筆を!」
ローランド卿は直ぐに手紙をしたためて執事さんに渡してくれた。元々常時入城可能だから返事を待つ必要はないとの事だ。
子供たちは伯爵家で面倒を見るから置いてていいとの事だった。確かに移動ばかりでは疲れるだろうな。ここで遊んでいる方が良いか。伯爵家のメイド衆およびシンディと護衛達が面倒をきっちり見てくれるそうだ。
明日は一日ゆっくりさせてもらって城へと向かうとするか。
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どうしてこうなった?
思えば今朝ローランドさんの奥様であるサマンサさんが同行すると言い出した時に予想するべきだったのかも知れない。いや、サティとソニアがサマンサさんの馬車に乗るように言われた時に気付くべきだったのかも知れない。ちなみにローランドさんは追い出されて、俺の馬車に乗ってきた。男は弱い生き物だ。もしかしたら陛下に渡したお土産と共にサマンサさんが部屋から消えた時に気付くべきだったのか。待て待て、城に入ってから顔を合わせていないサティとソニアに対してもだ。サマンサさんに半ば拉致されるように連れて行かれてしまった。
陛下に紹介するつもりだったのに...
それは俺が陛下とゴードンさん、レイヴンさん、ローランドさんと話をしていた時だった。
「失礼致しますわ」
そこには王妃様を先頭に6名の女性が立っていた。あれ? サティとソニアもいるぞ? 王妃様と一緒だったのか。
「どうした、マリー。まだ話の途中だぞ?」
王妃様の名前はマリーというらしい。
「失礼すると言っているではありませんか。ご一緒してもよろしいですわよね?」
なんか怖い。サティとソニアが粗相でもしたか?
「まぁ、それは構わんが。おい、皆の席を用意してくれ」
「畏まりました」
この場合の席を用意するというのは、椅子やら机やらを持って来るのではない。元々広い部屋で席などいくつでもあるのだ。この場合は椅子を引いたり飲み物を用意したりする事だ。メイド達は馴れた仕草で女性陣を誘導し着席される。さりげなく座る場所を指定している辺り優秀だ。
「女性陣が集まると華やかで良いな。で、どうしたのだ?ん?何か良い匂いがするな?」
「そう、この香りについてですわ」
女性陣から漂ってくるラベンダーやオレンジの香り。どうやら石鹸を使ったらしいな。サティとソニアが俺と目を合わせようとしないことも気になる。ちょっと待て、今まで皆で風呂に入っていたとでも言うのか?
「先ほど、皆で入浴を楽しんでおりましたの」
入ってたのか。
「そうか、朝から入浴するのも悪くはないな」
「そこでそこのヒロシさんから頂いた『プレミアソープ』なるモノを試してみましたの」
「なんだそれは?石鹸と言うのか。体を洗う時に使うのか。ほほう、つまり米ぬかのことだな」
「これはそのようなものと一緒にして良いものではありません!」
うわ、ビックリした。陛下たちも驚いているようだ。口が開いているぞ。
「ど、どうした?分かるように説明してくれると助かるのだがな」
「この『プレミアソープ』と言う石鹸、素晴らしいですわ。体の皮が一枚剥がれ落ちたかと錯覚するほど体が奇麗になります。その泡立ち、その香り。非の打ち所がありません。しかも洗い終わった後でも肌が瑞々しく保たれるのです」
「そ、そうか。良い事ではないか」
「問題は、ヒロシさん。あなた、この石鹸を平民にも売り出すつもりだそうですね?」
おっと、こっちに矛先が向いてきたぞ。どうする、何やら機嫌が悪そうな雰囲気だ。でも嘘をつく訳にもイカンな。まずは答えてからだな。それしかない。
「ええ、まぁそのように考えておりますが...」
「いけません!」
「ええっ!」
「あれは平民に卸さずに富裕層以上の者限定にするべきです。販売するなとは言いません。その価格を考えるべきだという事ですわ!」
原価はこれまたタダみたいなもんだからな。どうするか。陛下が何事かゴードンさんに耳打ちしたぞ。今度はゴードンさんは俺の方に耳打ちする。
「何とかしろとの事です」
陛下...そりゃないですよ。
だが生産に手間がかかっているのは事実だ。スライムのように頻繁に手に入る保証もない。実際に高値で販売している。一個銀貨100枚だ。はっきり言って庶民では簡単に手に入るものではない。これを俺は工場設立後は銀貨10枚位で良いかと思っていた。
「銀貨10枚など以ての外です」
ソニア、圧力に勝てなかったか。わかる。俺でも無理だ。
「ええと、既に販売しておりますので、それでは銀貨100枚を維持する事で如何でしょうか?」
これで工場設立の夢は消え去った。そんな高いもん誰も買わんわ!でも、富裕層への販路は確定したようなもんだ。これはこれで良いだろう。原材料調達の難しさもある。逆にそれをネタに値上げを行うチャンスもあるかもな。グフフ。
「それで結構よ。あと、あなた美容液なるモノの開発を考えているようね?」
あ、サティとソニアがさっと目を逸らしたぞ。
「えーと、なんの事でしょうかね?」
「後で私の部屋に来なさい」
「なんだ、ここで話せばよかろう?」
「あなたは黙っていてください!」
「...」
世界が変わろうと、立場が変わろうと変わらないものがある。それは女性は強いという事だ。陛下の目が物語っている『何とかしろ』と。
「分かりました、後でお伺いさせて頂きます」
「良い事? 一人でおいでなさい」
「一人でですか? ...いえ、何でもありません。分かりました」
怖くて何も言えなかったよ。お妃様クラスとなると圧がハンパない。
お読み頂きありがとうございます。
ブクマ、評価など頂けたら嬉しです。
毎回言うのも心苦しいのですが、、、(´・ω・`)
引き続きよろしくお願いします。