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よろしくお願いします。

「慣れないわね」


 サティが馬車の中で呟く。


 最近馬車に乗る機会が多いとは言え、俺も馬車の長距離は慣れない。旅慣れている人は違うだろうが、このメンバーで長距離を乗る者はいない。


「今日はこの辺にするか。子供たちも長く馬車に乗って疲れているだろう」


「そうね、明日には着くし急ぐ必要もないわ。早めに野営の準備をする方が良いわね」


 俺たちは順調に進んでいた。明日にはローランドに到着予定だ。ただシェリーとロイは長旅で若干お疲れの様子だ。早く寝床を確保して外にいる方が気も休まるだろう。


 ちなみにテントはサティ、ソニア、と俺、クロ、子供二人で別れている。子供が懐いてくれることは嬉しいのだが、二人に乗っかられると重いのだ。動きを取ると起こしてしまいそうで俺はまっすぐ伸びたまま寝続ける事になる。ハッキリ言って寝不足気味なのであった。


 朝は近くの川で顔を洗い体を拭いてリフレッシュだ。子供は元気が良いので川に石を投げたりして遊んでいる。シンディと護衛は常に子供の近くに居るぞ。


 俺はその様子を見ながら出発の準備を進める。

 

 街はもうすぐそこだ。



-------------------------------------



 リンクルアデル城、シュバルツ国王の部屋で4人の男が集まっていた。国王シュバルツ、軍務卿レイヴン、内務卿ゴードンの3人が一人の男の話を聞いている。


「今、アルバレス・ローランド伯爵家にあのヒロシという男が来ているようですな」


「そう連絡が入っておる。近々この城にも連れてくるだろう」


「正直私は感心致しませんな」


「また、その話か。その件についてはもう決まったことだ。異論は認めぬ」


「しかし、いくら神託が降りたとはいえ国王のメダルなど聊か行きすぎではありませんか?どこの馬の骨とも分からない男にそこまでする理由が分かりませんな」


「では、あの男を野に放して他国の手に渡しても良いと申すか?単騎でロイヤルジャックとウインダムを退け、自ら富を手に入れる知恵を持つ男だぞ?」


「あれはあくまで試合の上でのこと。手抜き試合を真に受けるなど陛下らしくありませんな。手にした金もロングフォード男爵の入れ知恵でございましょう」


「其方はその眼で見ておらぬからそう言う事を言えるのだ。もしその場でその眼で見ていたならば、そのような事は決して思うまいよ。他の公爵をはじめ大臣達も目にしているのだぞ」


「私は見ていないからこそ言えるのです。陛下をはじめ、揃いも揃ってその男の魔法にかけられていたとしか思えませんな。あと、読めないパスですか?それは偽物なのではないですか?」


「貴様...余を愚弄する気か?」


「まさか、可能性を説いたまでです。パスで正確な情報は読み取れない。戦闘においても実際今のウインダムの一番隊の隊長は15だか16歳の華奢な男でしょう?リンクルアデルの守護を任すには聊か早いのではないですか?私の護衛団ジャッジメント(王の審判)の方がよっぽど優秀かと思いますが?」


「それはいくら何でも言葉が過ぎますでしょう!」


 レイヴンがたまらず声を発する。陛下に対する言葉もそうだが何より騎士団の頂点を否定する言葉など許されない。


「いや、これは済まないレイヴン卿、ウインダムを否定するわけではない。ただ、そのヒロシとか言う男に対して大層ご執心な事だと思いましてな。災いの種を自ら招き入れる事にならなければ良いのですがね?」


「どういう意味だ?」


「言葉通りの意味ですよ、陛下。その者が城で暴れれば下手をすればリンクルアデルは簡単に墜ちるのではないですかな?」


「ヒロシはそのような男ではない!」


「神託があるとはいえ昨日今日あった男にご執心ですな。まあ、よろしいでしょう。しかし王太子殿下もまだお若い。変な男に足元を掬われて陛下に倒れられでもすればリンクルアデルの土台が揺るぎかねない。私はそれを危惧しているのです。そのようなことが起こればリンクルアデルはどうなってしまうでしょう?」


「何が言いたいのだ?新しい王が必要とでも言いたいのか?」


「まさか、そのような事。ただ王太子殿下では国を導くにはあまりに幼い。あくまで私はそれを危惧しているだけです。くれぐれもお気をつけて下さい」


 男は目を細めて三人をぐるりと見渡す。


「おお、もうこんな時間だ。少々話すぎましたな。それでは私はこれで失礼致します。ごきげんよう」


 男はドアを開けて振り返ることなく出て行った。残された三人は男の真意を測りきれずにいた。


「陛下、いくら何でもあの言いようは言葉が過ぎるのではありませんか?」


「わたくしもそう感じずにはいられません」


「ゴードン、レイヴン、言いたいことは分かる。そしてヤツの言う事もな」


「陛下...」


「すまぬな、あれでも公爵なのだ。余の一存で簡単に処罰できるものではない」


「あの言いようはまるで国を乗っ取るかのように聞こえますぞ」


「ゴードン、知っての通り奴は本来王になっていてもおかしくない男だ。頭も切れ、武の腕前も大したものだった。本当に出来た男だったのだ。余がもし倒れてもリンクルアデルは安泰だと思っていたのだ」


「しかしフランツ王太子殿下がお生まれになった」


「そうだレイヴン。それからだ。そこから歯車が狂いだしたような気がする」


「殿下の護衛を増やした方が良いと進言致します」


「そうだな。アザベル様が仰った言葉。あの不吉な言葉はリンクルアデルから始まるのか...」


 シュバルツはそう言うと、少し何かを考えるしぐさをして言った。


「これよりアラン・フォン・アデル公爵を監視下に置け。関連する全てに関して謀反の動きが無いか極秘裏に調査するのだ」


「「畏まりました」」


「アラン、もはや元には戻れないのか...」


 二人は臣下の礼を取り陛下に答えた。


 しかし、最後の言葉には何も返す事は出来なかった。




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