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よろしくお願いします。
クロと髪の毛を引っ張り合っているとシンディが入ってきた。
「し、失礼します。すみません、お待たせ致しました」
彼女は何やら大量の書類を両手に抱えている。
「おう、来たな。まぁ座ってくれ」
「はい、それでは失礼します」
シンディは書類を脇においてソファに腰かけた。
「シンディはちょっと甘めのミルクティーでいいかな?」
「あ、クロードさん、ありがとうございます。すみません」
「良いんだよ、気にしないで」
おい!誰だお前は!いま歯がキラリと光ったよな?どこでそんな技を覚えたんだ。シンディは嬉しいのか恥かしいのか顔を赤くして両手でカップをもって固まっている。
「ごめん、ちょっと熱かったかな?」
「いえ、そんなことは。お、美味しいでふ。です」
「ふふ、お気に召して頂いて光栄だよ」
もう、お前は爆発しろ。今ここで。
しかし鈍感難聴系にしては中々やるじゃないか。これで天然だったら驚きだ。
『ふふ、二人は最近なかなかいい雰囲気なんですよ?』
『そうなんですか、ちっとも知らなかった』
『サティが言うにはシンディが結構積極的に動いているみたいね』
『へー』
『たまに二人で食事に行ったりしているらしいわよ?』
なるほど。クロちゃんにも春が近いという事か。素直に嬉しいぞ。でも俺はサティとソニアの情報網の方も気になります。今度お二人の女子会に参加させてもらっても良いですか?
「それで、どうだろうか? 今度のローランド行きへはシンディにも同行してもらおうと思ってるんだが?」
「護衛としての実力も付いてきていると思いますし、大丈夫だと思いますよ」
「そうだろう?前回のオークの時も問題なかったように思える」
「私もシンディが来てくれたら嬉しいわ。シェリーとロイも喜ぶわ」
「そうだな、シンディは面倒見が良いしな。じゃぁシンディ、それで良いか?」
「業務内容の報告かと思って来てみれば、ローランドの話になっててよく分かってないのですが...」
「そうなのか? いや、今度ローランドに道路建設絡みで行くことにしてね。それに同行してもらいたい」
「そうなのですね。私としてはもちろん構いませんが」
「よし、決まりだな。で、そっちの資料は何だ?」
「これは従業員の経歴などの詳細を纏めたものです。」
「へー、ちょっと見せてくれ。なるほど...これは良いな。履歴書みたいなものか」
「履歴書ですか?」
「ああ、まあ個人の情報がまとめられている書類の事だ。しかもこれにはNamelessに入ってからの勤務評価なども含まれている。人事考課にも十分役立つ資料だ。これシンディが作ったのか?」
「ええ、レイナさんと相談してこんなものがあった方が昇給や昇格時にも役立つと言われまして」
「これは素晴らしい。情報部は総務も兼任しているようだな。そうだな、総務部にしてその下に情報課を付けるのも良いかも知れないな。いや、それだと情報部として俺が直轄できなくなるか...まぁレイナとまた相談すれば良いか。とにかくこれは非常に意味のある資料だ。よくやってくれた」
「あの、その、ありがとうございます」
「とにかくこれにも人が必要だな。その辺りは何とかしよう。ローランドまではまた少し長旅になるがよろしく頼むよ」
「畏まりました」
そうして、俺たちは工場を後にして商会へと戻った。戻る前にソニアがケーキが食べたいというのでちょっと寄り道をしたがな。
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ある部屋の一室。
そこには二人の男と数名の奴隷がいた。奴隷たちは皆女性であちこちに傷跡がある。
「ローランドとロングフォード間を繋ぐ道を作っているだと?」
「はい、国家公共事業という名目でリンクルアデルが国として資金を捻出しているようですね」
「あの金は全て俺のモノだろう、違うのか?」
「正確には『まだ』でございます。ただ遠くない未来、全てはあなた様のモノに」
「だが、ローランドの小娘一人拉致できないではないか!」
「あれは実験の一つ。目的は既に達しております。魔物は十分に操れることは確認できております。隷属の首輪の量産を進めれば魔物とこの獣人たちで兵はいくらでも調達できます」
「そうか、そうだな。クックック、私がこの地を治めるのはもうすぐという事だ。そうだな?」
「仰る通りでございます。深淵の森内部での戦闘はできませんが、外れの方に魔物兵を忍ばせておけば容易に入ってくることもできません。あの地は自然の要塞のようなものです。後はもう少し準備を進めてまずは独立宣言を実行するのです」
「ああ、ああ、分かっている。あの老いぼれの言うことを聞くのもあと少しと言う訳だ。お前は引き続き情報を集め決起の日まで準備を進めるのだ」
「畏まりました」
男は一礼すると静かに部屋を出て行った。
「フハハハハ、俺の国ができるのはもうすぐだ。あの老いぼれの顔を見るのはもう我慢ならん。選ばれしものだけが、俺に選ばれた者だけが住まう夢の国。心配するな、お前ら薄汚い獣人も奴隷として俺の国に住まわせてやろう。せいぜい俺を悦ばせる事だ! フハ、フハハハハ!」
その眼には狂気が宿りおおよそまともとは思えない。何ごとか喚いたかと思うと男は女を蹴り飛ばし、窓際に立つと窓を開け放ち夜の闇を見つめる。
遠く見つめるその視線の先に映るもの、それはリンクルアデル城であった。
「まずは独立だ」
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