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お待たせしました。
よろしくお願いします。
朝から俺はNamelessの工場に来ている。
「レイナそう言う訳なんだがまたよろしく頼むよ」
「もちろんです、社長。任せておいて下さい」
「人の方は問題ないのかな?何人か人も入れたし昇格もさせたけど機能してる?」
「はい、工場の方は今の部長クラスで対応できてますね。国道の方も加盟店の方が慣れてきているというのもあり、作業自体は順調に進んでます」
「そっか。レイナはもう実質No.2みたいなもんだからある程度人に任せてさ、自分はある程度自由に動けるように対応してね」
「お言葉ですが、そうしようと思う度に社長が次々と仕事を持って来るので息をつく暇がありません」
「そ、そうか、それは何と言うか済まないな」
「いえ、このような仕事を任せてもらえるなど以前では考えてもみませんでした。忙しいと言いつつも毎日が充実しております」
「そう言ってくれると助かるよ。よろしく頼む」
工場の中を歩きながら俺はレイナと話している。従業員たちは俺を見る度に手を止めて礼をしてくるもんだからビックリしたよ。
レイナにそんな事しなくても良いよとは言ったのだが、これは譲れないらしい。また、従業員も自発的にしているのでそんな事を言うと逆に文句を言われる可能性があるんだとか。工場のラインも日々拡張されて行っており自分で言うのもなんだが、かなり大きくなっている。いや、正直に言うと大きいのだ。悪いが従業員の名前も把握できないくらいに。
「レイナ、いつも後手になって悪いんだが、従業員に制服を作ろうか」
「制服ですか?」
「ああ、馴染みがないかも知れないがNamelwssの名前が入った作業服だよ」
「それは素晴らしい考えですわ! 絶対に従業員も喜びます。また新しいことを...流石社長です!」
こちらの世界では工場などない。Namelessのように人を大量に雇っていること自体無いのだ。商会の人々はいつも普段着で仕事をするのが普通の光景だ。
「いや、なんと言うか、こっちとしては基本的な所をいつも後回しにだな...」
「早速やりましょう! 今日から始めます!」
「お、おう。じゃあ悪いけど頼むよ。なんか頼んでばっかりだな俺」
「とんでもない!社長に頼られる事は光栄な事です。ああ、こうしてNamelessはまた商会としての最先端を走るのですね」
感動の眼差しを向けるんじゃない。俺は申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「そうだな、商会名と制服のデザインはアンジーに任せよう。予備も入れて一人三着だ。上下な。これは支給だから従業員からお金を取る必要はないぞ。あぁ、本店の売り場の方はまだ必要ない。工場専用だ」
「なんとお優しい。だから従業員は皆社長を慕っているんですよ。もちろん了解です。後は?」
「え?慕ってくれてるの?照れるな? 後は...そうだな。この際だから会社のロゴを考えるか」
「ロゴですか? なんですかそれは?」
「ああ、Namelessと言う商会の何と言うか目印だよ。Namelessの印を商品に載せることで他店の商品と差別化が出来るだろ?それを会社の制服とか看板とか商品に書くんだよ。そのうち皆がその印を見たら、それだけでNamelessの商品だなと分かるようになる。偽物が出回らないように『無断でこの印は使うことが出来ない』と商業ギルドに通達を出しておくんだ。これでブランドイメージも上がる。当然悪い品を作れば簡単に下がるけどな。これもいくつかアンジーにデザインの候補を作っておくように指示を頼む」
「なんと...素晴らしい...」
いや、ホントなんかゴメンな。
「他には?」
「まだ要るのか!? ええと、そうだな...うーんと、な、名札はどうだ?」
「名札とは?」
「首から引っ掛けても、胸につけても良いんだけど、名前を書いたプレートを体につけるんだよ。そこには会社の名前やロゴの他に、名前と所属と階級とか色んな情報を載せて、誰がどこの部署で働いているというのが誰にでも分かるようにするんだ。実際人数が多すぎて俺も名前と顔が一致しない人が多いからな。名前が分かるというのは、俺だけじゃなく部署同士やお客さんが来た時とか色々便利なんだよ。ちなみに大きさはこれ位だ。これは本店も含めて全員分頼むよ」
俺は簡単に指で大きさを示す。
「本当に素晴らしい。社長、私は今嬉しさの余り叫びたい気持ちです!」
「え、そんなに! なんかホント悪いな」
「社長まだまだ何かあるのではないですか?」
「え?いや、あの...まぁあるが今回はこれ位にしておいたらどうだろうか。」
「そうですね。出過ぎた事を言ってしまいました」
いや、ホントは無いんだよ。マジでごめんな。
「あと、情報部のシンディに社長室に来るように伝えてくれ。アイツどうだ?頑張ってるか?」
「畏まりました。こんな事を言うのは失礼ですが、読み書きそろばんが出来るとは思っておりませんでした。その上戦闘もできるとは...正直優秀な方ですね。流石社長が連れてきただけありますね」
「苦労してた頃もカール兄妹に教えてたからな。元々頭は良いんだよ。ただ、知っての通りアイツにはクロと一緒にやって欲しい事があるから、それなりの対応で頼むぞ」
「もちろん心得ております」
「仕事の内容については...」
「それも当然秘匿事項と認識しております」
「なら結構」
そうして俺はアリスと別れ社長室へと戻ってきた。部屋ではソニアとクロが待っていた。
「お疲れ様です、紅茶にしますか?」
「そうだな、それで頼むよ。ソニアってさ、経理の方どうなの?」
「レイナが人を連れてきてね、その人達が全部やってくれちゃうのよ。私は最後の帳簿を確認するくらいだわ」
「まぁ、レイナならそうするだろうな。スマン愚問だった」
忘れてしまいがちだが、ソニアは男爵家御令嬢で本来働かなくていいんだよな。どっちかって言うと男爵家の行事ごととか外交面ですることが多いはずだ。そっちに顔を出しつつも、Namelessの仕事も手伝ってもらってる。なんと言うか時間の使い方が非常に上手いのだ。
「財務状況は問題ないわよ?」
おまけにめちゃくちゃ賢い。
「労務関係も大丈夫よ?」
もう、俺は居なくても良いんじゃないだろうか。
「ヒロシ様はもう居なくても大丈夫っすね?」
「うっせぇわ!」
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