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いつもありがとうございます。
俺はそれからまた原液を作ることに集中した。
原液を作ったらそれを毒袋の中の精製水でゆっくりと希釈する。
正直割合は分からなかったが、精製水97%で希釈した。これは原液がその状態で100%と想定した事による。濃度が高いより薄い方が安全だから気にしない。結果的にそれが功を奏してやり直しは必要なかった。オイルを混ぜる必要があるが、これはオリーブオイルとココナッツオイルで試すことにした。
ゆっくりと20分程度混ぜ続ける。アロマで使用している溶液もここで少しだけ入れる。香り付けだな。やはり石鹸は良い匂いがしないと。これを1日寝かせて型から取り出す。適当な大きさに切り分け再び箱に均等に置いて1ヶ月ほど乾燥させる。
≪鑑定≫
高級石鹸 体や髪を洗うのに最適 ラベンダーの香り
出来たようだな。今回は死にそうになったり大変だったぞ。
髪を洗うと指通りがギスギスしそうだが、米ぬかより断然良いはずだ。リンス的なモノも今後開発したいところだ。兎にも角にも俺は石鹸を完成させたのだった。
「アリス!」
「はい!」
「ようやく石鹸が完成した。どうだ、使ってみたいだろう?」
「良い香りですね!使ってみたいです!」
「そうだろう、そうだろう。ではこれから一緒に風呂に行こう!」
「え、一緒に、、、ですか?」
「イヒッ、もちろん一緒にだ。さぁ行こう。隅々まで洗おうじゃないか、グフ」
「いえ、ちょ、ちょっと、さ、さ、サティ様ぁ!!!」
「イヒヒッ!、洗いっこしぃましょおうねぇ、、、グハァ!」
「ホントあなたは、、、毎回毎回なにやってるのよ?」
「ぐぉぉぉ、い、いつもの軽い冗談なんです」
「何が『洗いっこ』よ」
「あれは、その...お約束と言うかだな」
「私以外と『洗いっこしたい』ってそう言う訳ね?」
「いやいやいや!違う!違うんだ!断じてそんなつもりは。ホントに冗談なんだ!」
「怪しいわね」
「本当です」
「本当かしら?」
「誓って本当です」
「ソニアに言うわよ?」
「本当に勘弁して下さい」
ぶん殴られるかと思ったが...俺は耐えた。
俺の誠心誠意、真心を込めた謝罪が功を奏したようだな。(土下座)
その後、俺はサティと一緒に使い心地を確かめたのだった。一緒に、、、だぞ。『洗いっこ』だ。
羨ましいだろう?
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石鹸はまだ工場ラインで流すことはせずに商店での製作、販売となっている。だが売行きは絶好調で店頭に並べれば即完売という盛況ぶりだ。『プレミアソープ』と名付けられたこの石鹸はそこそこの値段を設定しているにもかかわらずだ。特権階級や富裕層の皆様に絶大なる支持を受けている。因みに予約販売はしない。商品の有無を店頭まで確認しに来てもらえることも客足を絶やさぬ秘訣だ。来たら何か買ってくれるお客さんも多いしな。だからなるべく公平性を出すために、各家庭で5個限定にしている。『お一人様』にすると家中のメイドが並ぶからな。『ご家庭』とさせてもらった。
こうした石鹸の売行きを見極めたいという意味もあるが、もう一つの理由は道路開発だ。今工場ラインを作って大きく商売を拡げようとすれば商業ギルドに通すことになるだろう。その場合多分バーバラさんが過労で倒れる。彼女が支える商業ギルドは道路建設にかかわる人材や資材の中継地点となっているのでその忙しさはハンパない。商業ギルドは未だかつてない好景気なのだ。商売なのでそんなことを気にする必要はないのだが、今は『プレミアソープ』の名前と希少性が上手く作用しているので、このまま噂などが広がるのを待つのも面白いと考えている訳だ。
『わたくし、プレミアソープを手に入れましたの。素晴らしいですわよ?』
『まぁ、わたくしは毎日通っているのにまだ買えておりませんの。羨ましいですわ!どうですの?その...使い心地は?』
『それはもう素晴らしいの一言よ。もう米ぬかでは洗えないわ!体にもその良い香りが...』
と言う話が、レストランなどで隣の席から聞こえてきたりする。そういう時はサティやソニア、クロなどと目を合わせてニヤリと笑ったりするんだ。商品の販売戦略が上手くいってる事を間近で知れる機会はそう多くはない。こういう時は冗談抜きで嬉しいものだ。
始まって数ヶ月、道路開発はありがたいことに順調に進んでいる。現場はたまに顔を出す程度だが、加盟店の会長さんがすっ飛んできて説明してくれる。俺なんかよりずっと年上なのになんだか申し訳ない気持ちになるが、考えても仕方ないので気にしないことにしている。ただ、礼儀をもって接しているぞ。
立入禁止はもちろん、粉塵対策などいくつかの理由から工事現場の出入り口付近は高い壁で囲っており、中が覗けないようになっている。その内の一つが犯罪奴隷を見せない事だ。ひたすら前進するだけの過酷な現場で足に鎖を付けた奴隷たちが作業をしている。石畳を敷く作業以外は全て突貫工事だ。その足に繋がれている鎖があるか無いかで作業環境は天と地くらいの差があると言っても良いだろう。工事が進むにつれて何名かの死者が出ているようだが、重犯罪者がどうなろうと俺の心が痛むことは全くない。
加盟店からの報告を聞きながらそんなことを考えるのだった。
そうだな、そろそろ一度ローランドの方にも顔を出してみるか。
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