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よろしくお願いします。
「うううううむ」
上手く濾過できない。
強アルカリ性と出た以上、スカベンジャースライムとかを利用して熱にかけるのは危険だと思う。仕方がないので濾過をすることにしたのだが、こんな鼻水みたいな液体が濾過できるのか?一段目のフィルターで目詰まりしとるわ!!
そもそも胃の中に物が入っていて消化するからドロドロなんだろう。ゴブリンと思われる腕が出てきた時には思わず叫んでしまったぞ。マジで人かと思ったくらいだ。こんなホラーな作業を一人でやって良いのか?こんな死体が出てくるような作業を従業員にさせても良いのか?皆辞めるだろう、俺なら辞める。
お腹を空かせた状態にすればどうだ?しかし現実的に考えて、生け捕りにした状態で飼うのか?あれを?無理だ。流石にじいさんでも魔物を街中で飼うなど許可しないだろう。そもそも俺が嫌だ。
でも待てよ?確か鑑定には強アルカリ性不純液と書いてあった。という事はまだ完全な液ではないと言えないか?更に不思議なのは確か水酸化ナトリウムは液体ではないんだが、、、結晶体だったはずだ。これらの事を考えるとスカベンジャースライムで煮ると原液だけが取り出せるような気がする。
煮るか、、、
俺は悩んだ末、スカベンジャースライムと一緒に煮込むことにした。不純物を取り除くならリーフスライムかな?いや違うな。ここはスカベンジャースライムだろう。上手くいけば大まかにでも分離が出来るはずだ。失敗した場合は、、、有毒ガスの発生もしくは過熱による大量の飛沫か。
うーむ、いきなり全部を煮込むのはリスクが高いな。少しだけ煮詰めてみよう。
煮詰める前に俺はテーブルの下と棚の上、そして鍋の横に実験用のマウスの箱を置いた。ガスが発生した際、空気より重いか軽いかで発見が遅れる事がある。それを確認せねばなるまい。
ラットくんには申し訳ないが有毒ガスの発生の有無を向こうの扉から見ているからね。大丈夫だ。俺の予想では有毒ガスの発生はない。安心してそこで野菜を食べていると良い。
「では、さらばだ!」
そう言うと俺は鍋に火を入れて、扉の向こうから様子を窺うことにした。待つ事30分、少量だからそろそろスライムとの分離が終わっているだろう。ラットくんたちは元気なようだな。しっかし、部屋が随分と臭くなってしまった。中にいるとやはり鼻がなれてしまうのか?
まあ臭いの事は今は良い。とにかくだ、、、よし、もう少し量を増やしてみるか。いや、その前に鑑定だな。
≪鑑定≫
センチピードデビルの胃液 強アルカリ性液 不純物あり
よーし、よしよし。内容物が多い分取れた溶液は少ないが、とにかく分離は成功だ。これで一気に作業が進むぞ。
俺はそれからと来る日も来る日もひたすら分離作業に没頭した。意識が朦朧としているがそんな事は問題ない。何故なら俺にはブルワーク24がある。24時間どころじゃない、ウヒヒ、日本人のワークホリッツ魂を見せてやるぜ。
「随分と溶液が溜まってきたな。そろそろ濾過作業に入るとするか。ヒヒヒ、溶液の濾過作業は前回の実験時に嫌というほど経験しているからな。よし、早速取り掛かろう。」
俺は一人でブツブツと言いながら濾過器のセットにかかる。カチャカチャと多くのビーカーやら濾過器をセットしながら俺は完成後の石鹸に思いを馳せる。グヒヒ、世界初の石鹸だ。間違いなく大金が手に入るぞ。バカ売れ間違いなしだ。イヒヒ、ウヒヒ。
カチャカチャカチャ、、、ポトン、、、ポトン、、、
順調に濾過は進み、透明な液体がビーカーへと注がれていく。
「クフフフフ、そうだもっと集まれ!キヒヒ、もっともっとだ!」
俺はバケツ一杯になった無色透明の液体に改めて鑑定をかける。
ドキドキして心臓が破裂しそうだ。どうだ?できてるか?できてるだろう?
≪鑑定≫
センチピードデビルの胃液 強アルカリ性原液 劇薬指定
「ブモオオオオォォォ!できた!できたぞ!!グヒィィイイ!」
「なんですか!今のオークみたいな声は!!社長?今叫んでましたよね?両手振り上げて何やってるんですか!」
アリスがドアを蹴り開け、すごい勢いで走ってきた。
「あ、なんだアリスか。どうしたんだ血相変えて」
「どうしたんじゃないですよ。何ですかこの山のようなブルワーク24の空き瓶は!!なにをやってるんですか!」
「え?何してるって、、、えーとあれだ、美容液を作ってるんだよ、、、イヒッ」
アリスはセンチピードデビルの足を俺の方へ向けて斜めに構えている。なんだその攻撃的な態度は。そんなものいつまでも持ってるんじゃありません。
「まぁちょうどいい所に来た。ちょうど美容液が完成したんだ。いやもう完成したといって良いだろう。そんな気がする。どうだ臨床試験をやってみないか?ん?奇麗な肌になりたいだろう?」
俺はバケツを引き寄せてアリスに差し出した。
「いや、、、、私は、、、、そのぅ、若いので美容、美肌とはまだ関係ないと思いますケド?」
「うーむ、それもそうだな。では数日貫徹している俺が試した方が良いな。ブルワークしか飲んでないからお肌も少し傷んでいるだろう。なに男でも効果は同じだ。クフフフ、まあちょっとまて、上着を脱いで、手と顔で良いだろう。キヒヒヒ、、、」
俺は、バケツに手を突っ込み、手や顔に液体を塗りたくっていく。
「こうやってもみ込めば効果絶大のはずだ」
「あれ?社長?」
「なんだ、塗りたくなったのか?」
「いえ、、、石鹸を作るって言ってませんでしたっけ?」
「え?」
「あ、いえ何でもありません。ホントだ肌の色が赤みを帯びてきましたね!」
「いや、違うぞ。俺は何をやっているんだ」
「何がです?」
「そうだ、俺は石鹸を作ろうと思ってたんだ。どこから俺は勘違いしていた?強アルカリ性の原液を体に直接塗布するなどとトトオオオオオオッ、アアア、熱い。肌が熱い!」
「ちょちょちょ、社長?肌が真っ赤に変色、、、社長!社長!」
「ギャァァァアアアアアア!!!熱い!肌が焼けるようだ!!グオオオオオオオ!!!」
ガラガラガッシャーーーン!
「キャアアアアアア、倒れた!ぶっ倒れたわ!社長しっかりして下さい!クロードさん!クローーーーードさーーーん!」
「む?その声はアリス!どうした!どこにいる?ここか?うおおお!ヒロシ様どうしたのですか!ヒロシ様!どうしたアリス!何があったんだ?体から煙が上がってるじゃないか!」
「何か研究したものを体に塗ったんです!それで急に苦しみだして!」
「なんだとぅ!!とにかく煙を消さないと。アリス水だ!水を持って来るんだ!いや、待て!ここに丁度水がある。それえぃ!!」
バシャーン!
「ギャアアアアアア!!オオオオオッォォオオ!!クアアアアア!!」
「クロードさん!それは水じゃないんです!それは水じゃないんです!」
「なにぃ!これがその薬品だとぅ!!ヤバいぞ!全身から煙が噴き出してる。どどどどうする!」
「ソソソ、ソニア様!ソニア様!ソニア様ァァァァァ!!」
薬品を頭からぶっかけられた俺は、体中を焼かれる痛みにそこらじゅうを転げまわり工房はパニックに陥った。
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「すみませんでした」
「分かっててもこれは許されないわね」
「本当にすみませんでした」
「ソニアがヒールを使えなかったら死んでたかも」
「返す言葉もありません」
「外にケーキを食べに行く直前だったのよ?居なかったら死んでたのよ?ソニアも何か言ってやりなさい」
「ヒロシさん、あまり心配をかけないで下さい」
「それはもちろん考えております」
「考えて結果がこれじゃ話にならないわね。何作ってたのよ」
「ええと、石鹸の素です」
「こんな毒薬で体を洗うなんて何考えてんのよ?」
「いや、違うんだ。それはまだ未完成で」
「毒薬ね」
「...」
「この工房は閉めた方が良いんじゃないかしら?どうソニア?」
「そうねぇ、ヒロシさん危ない事ばっかりやってるから」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。もう出来るんだ。本当なんだ。それだけはやめてくれ、この通りだ」
「どうするソニア?」
「うーん、ここまで言うなら本当なのかしら?でもねぇ...」
その後も二人の怒りは収まらず俺はサティとソニアにこっぴどく怒られたのだった。クロが何も言わないなと不思議に思っていたのだが、後から聞いたら水と間違えて薬液を俺にぶっかけたらしい。それについてクロを責めるつもりはないが...良く生きてたな俺。
兎にも角にも、長い説教を経て俺はもう一度チャンスをもらえたのだった。
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