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よろしくお願いします。
「あ、あああぁ、うわ! うわあぁ!」
「はいはい、ヒロくん。もう大丈夫よ」
「はっサティ! どこだここは? 俺は眠っていたのか? そうだ酷く嫌な夢を見た気がする。うん? なんか記憶が曖昧だな?」
俺はホスドラゴンに乗っているが、サティの前に座っている形だ。確か、センチピードデビルを発見したと言って...
「思い出した! あれだ! あのムカデの化け物がああぁ!!」
「こら、暴れないの。やっつけたからもう大丈夫よ」
「そうなの?そうかうまく逃げれたんだな」
「逃げるも何も全滅させたわよ」
「マジか。やはり森を焼き払ったのか?」
「しないわよそんな事。でも戻ってきたら放心状態なんだからビックリしたわよ」
「そう言えば、ボンヤリだが思い出してきたぞ。シンディとリーシアがメイスで殴り倒していたな。本当に全滅させたのか...」
「ええ、彼女たちも頑張ってくれたわ」
「ああ、モグラ叩きをしているような感覚で撲殺していたな。フルボッコ状態だった。鬼のような女だ。いや、悪口ではないぞ?命の恩人だ。俺は生きた心地がしなかったからな」
「ちゃんとお礼を言っときなさいよ?」
「うん、わかった」
そうか安心した。最後はちょっと締まらなかったが、まあ良い。街はもう目の前だ。俺はサティにもたれ掛かり、しばしの間後頭部に感じる双丘の感触を楽しむのだった。
「あん、もう、露骨に当てるんじゃないわよ」
「ごめんなさい」
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まずはギルドへとやって来た。現状の報告と討伐部位の査定のためだ。ぞろぞろ行くのもなんだから、報告はサティとガイアスが、査定はフィルとクロに頼んである。
俺たちはその間食堂で待つ事になっている。ポーターにはボーナスを渡したぞ。オークとオークリーダー、それにセンチピードデビルだ。あとはゴブリンやらコボルトやらが少々。結構タフな冒険に付き合わせたからな。それなり包ませてもらった。随分と感謝してくれたが、喜んでくれるとこっちも嬉しくなる。
そして今、コーヒーを飲んでケーキを食べている所だ。
「いや、リーシア助かったよ。危うく死ぬところだった。君には特別に俺のイチゴをあげよう」
「あ、ありがとうございます。でも驚きましたよ」
「シンディにも心配をかけたな。お前にはこのチョコレートをあげよう」
「私もびっくりしました。虫が駄目なんですか?」
「ああ、なんと言うか節足動物と言えば良いのか...足がいっぱいあるやつはダメだ」
「なんか大変だったんですね?」
「聞いてくれラース君よ。大変だったんだよ。あれは恐らくSクラスの魔物だろう? そうだろう?」
「何を訳の分かんないことを言ってんのよ」
「あ、サティさん。お帰りなさい」
「どうせ変なこと言ってたんでしょ。みなごめんね」
「「「いえいえ」」」
「しかし虫が苦手だなんて意外だったわ」
「たぶん一生慣れないと思う。トラウマになるかと思ったよ」
「まぁ次からギルドに依頼すれば良いわよ」
「陛下に頼んで騎士団に来てもらった方が良いんじゃないか?」
「何を言ってんのよ、バカね」
「バカだな。気軽に騎士団を動かそうとするんじゃねえよ」
「はっはっは、これはこれはガイアス君。バカにバカと言われるとはね...このやろおぅ!」
「うわ! なんだ、やめろ! 痛い! ちょっ、やめろ!」
「ちょっとアンタたち何やってんのよ!」
俺はサティにこっぴどく怒られたのだった。
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「アリス!」
「はい!」
「これより俺はまた研究の日々だ。よろしく頼む」
「任せておいて下さい」
ここはNamelessの研究室、という名の俺の工房だ。すごい機材がゴロゴロ置いてあるなんてことは無い。
ソニアさんにもちゃんと帰ってきた報告は済ませてるぞ。クロに俺のヘタレぶりをいきなりバラされたけどな。アイツは後でお仕置きだ。
では、作業を開始するか。とりあえず鑑定をかけてからとなるが、この毒袋を見るだけであのムカデを思い出す。
「コイツは正直触りたくないな」
「これの事ですか?」
「うわあぁ! 何でお前はそんなもん持ってるんだ!」
アリスがにゅっとセンチピードデビルの足をこっちに差し出した。
どこに隠してたんだそれを。
「えへへ、クロードさんが持って行くと面白いと言いまして」
「えへへじゃない」
クロのお仕置きはキツめに設定しておく。
毒袋と言ってもセンチピードデビルの毒袋の中身は無色透明な液体だった。これを唾液など体液と一緒に噴出していると思われる。
よし、気を取り直してまずは鑑定だ。『ヒロ、鑑定!』毎度のことながらどうして俺はこの言葉を選んだのか...
《鑑定》
センチピードデビルの前足 武具や装備に使用可能 食用不可
センチピードデビルの水袋 精製水 食用には適さない
は? 水袋に精製水?
おい、毒はどこにいった?
「旦那様、黙っちゃってどうしたんですか?」
「いや、今ちょっと考え事を...それで突くんじゃありません!」
アリスは両端をもって関節を曲げたり伸ばしたりしている。どうしてお前はそんなものを持つことが出来るのか?
「アリス、センチピードデビルの毒袋ってこれ?」
「そうだと思います。毒袋っていうとこれが出てきました」
「これって本当にセンチピードデビルだよな?」
「そうですよ、これです」
「足をこっちに向けるんじゃないよ!」
しかし困った。
毒袋から毒が出ないとはどういうことだ?
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