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いつもありがとうございます。
「あの...どうしてあのような危ないことをしているのですか? 私はそれが納得できないのです。強くなることは必要な事だと思います。それでもそれが死に直結するなど...」
「言いたくないですが、本当に余計な事をしてくれました。私は少し怒っているんです」
「でも...」
「あのようなチャンスは...ヒロシ様が実戦で修行を付けてくれるなんて事は殆どないんです。商会が忙しいから...実戦の訓練がどれほど貴重か」
「しかし強くなりたいからってあれは危険すぎます」
「あなたは何もわかっていない」
彼女はそう言うと黙ってしまった。でも、彼女には分かって欲しい、あれは無茶な事だと。
「事故が起きてからでは遅いのよ?」
「無茶をしているとでも言いたいのでしょうが、それを言うならあなたは冒険者ではありません」
「どういうこと?」
「あれが無茶をしているように見えると言う事自体が信じられません」
「だって...」
「私は説明が上手い方ではありません。それにヒロシ様に関することをベラベラ話す気もありません。失礼な物言いは謝罪します。ただ私の訓練の邪魔はしないで下さい」
そう言うとシンディさんはテントの中へと戻っていった。どういう事だろうか。私は本当に余計な事をしただけだったのだろうか?
次の日、モヤモヤが収まらずガイアスに聞いてみた。
「まぁ、あれは100%お前が悪いよな」
「なんでよ!」
「あの状況でヒロシさんが後に居てシンディが死ぬようなことがまずない。断言できる。お前は単純にシンディの訓練の邪魔をしただけさ」
「でも、オークリーダーなのよ? サティさんやヒロシさんならわかるわ。あの異常なまでの強さがあればそれは問題ないでしょう。でも...」
「分かってないなお前は」
「同じことを昨日シンディさんにも言われたわ」
「信じられないだろうが、仮にシンディが危険な状態になった場合だ。それでも余裕でオークリーダーを始末できるだけの実力があるんだよ。普通にな」
「そんなの信じられるわけないでしょう!」
「お前、オークリーダーが後ろに蹴っ飛ばされるの見ただろ?」
「見たけど...」
「なんでシンディの後にいるヒロシさんが、彼女より先にリーダーを蹴っ飛ばすことが出来るんだよ?」
「それは...でも判断を間違えたら死ぬかもしれないわ。」
「それをさせないための訓練だろうが、バカかお前は。でもヒロシさんは飄々してるからなぁ。見た目では分かり辛いんだよな。悔しいが俺も含めてあの人の実力はお前が判断できるようなもんじゃねえんだよ」
「ガイアスもなの?」
「ああそうだよ! 前に俺はそれが分からなくてボコられただろうが! 言わせんなよ! 丁度いい、ラース! ちょっと来てくれ」
「一つ聞きたいんだがリーシアはラースが隠れている時、どこにいるか分かるか?」
「分かるわけないでしょ。隠蔽と気配遮断のスキル持ちよ?ガイアスは分かるの?」
「正直俺も分かんねぇ。暗殺をやらせたら上級クラスだと思うぜ」
「ガイアス呼んだ?」
ラースはフィルと一緒にやって来た。
「おうラース、悪いが昨日の話をしてやってくれよ。ちょっとリーシアがな...」
「ああそう言う事ね。リーシア、昨日のあれは100%君が悪いよ」
「あなたもそう思うの?」
「俺もそう思うよ」
「何よ、フィルまで! で、昨日の話ってなに?」
「昨日、ヒロシさんがオークを倒しながら歩いていただろう?あれワザと止めをさしてないんだよね」
「どういう事?仕留め損なったからあなたが弓矢で射殺してたんじゃない」
「やっぱりそう思った? ガイアスにも同じことを言われたよ」
「どういう事よ?」
「あれ、ヒロシさんから当ててみろって言われたんだよね。多分僕の弓の腕を試したんだと思う」
「はぁ? 声なんて聞こえるわけないでしょ!」
「違うよ、あの人僕がいる所が分かってるんだよ」
「そ、そんな訳あるはずがないわ」
信じられない。スキルを使ったラースを森の中で見つけるなんてできっこないわ。しかもどれだけ距離が離れてたと思ってんの?おまけに彼は森から愛されているのよ。
「信じられないだろ?僕もびっくりしたよ。最初はこっちの方を向いて軽くオークの頭を押したんだ。で、なんとなく僕はそこに弓を当てたわけ。そしたら今度は肩を叩いてこっちを見るんだ。それも当てたよ。でもワザとオークの前に立つ位置を変えたように思えたんだ。で、もしかして見られてるのかなと思って場所を変えたんだよ」
偶然じゃないのかしら?射線に入ってるのよ。当たる可能性があるじゃない。
「そしたら、今度は足の辺りを叩いて、こっちを見たんだ。場所を変えた僕を探す素振りもなく一発でだよ?目が合った時には寒気がしたよ」
「そんな、バカな...」
「本当さ。森の中でも僕には勝ち目がないと思ったよ。流石リンクルアデル最強だけある」
「どういうこと?」
今度は隣のフィルが話してくれた。アデリーゼのリンクルアデル城内で行われた模擬戦でヒロシさんはウインダムのトップ三人を撃破したらしい。もちろん戦場ではない。殺気や怒りや、時の運まで含めたら生死を掛けた決闘とは違うだろう。だが条件は相手も一緒だ。しかも一人は即死級のダメージだったとか。ドレスカーナのアッガスに続いてウインダムまでも...セイラム様も敗れたというのか。リンクルアデルの天才剣士と名高いあのセイラム様が。
「あの人の強さについては俺たち個人Bクラスでは理解できないんだよ。その人の弟子となったシンディはそら死に物狂いで学ぶだろうし、学びたいだろう。他にも理由はあるんだろうが、いずれにせよお前はその邪魔をしたってわけだ」
「そんな...」
「クロードの場合は一応執事だから良いけどな。シンディの場合は、ヒロシさんは護衛対象だ。護衛対象が護衛より強いってのはちょっと悔しいぜ。リーダーは別としてもせめてオークくらいは余裕で任せてもらえないと、どっちが護衛されているかわからねえよな?」
「彼女はそれを言っていたのね...それを私は」
「ま、ちゃんと謝っとくんだな」
「僕も謝っておいた方が良いと思うよ?」
「早くいけ」
フィルに急かされて私は走ってシンディの元へと向かった。私は悪いと思ったらすぐに謝れる女なのだ。
シンディは笑って許してくれた。
それから歩きながら二人で色んな話をして色んな考えをぶつけ合って。私は彼女とはいい友達になれると思ったのだった。
あと半日ほどでアッガスに到着する。戻ったら一緒にケーキを食べに行く約束もした。
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