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よろしくお願いします。
森にそう何度も入ったことの無い俺としては、今の状態が普通なのかどうかの判断が付かない。ゴブリンやホーンラビットなどの魔物には遭遇するが警戒するほどでもないと思う。
出てくる魔物を倒して討伐証拠品を袋に入れる。初日はそんな風に過ぎていった。フィルとシンディが袋をポーターに渡すと『たくさん採れましたね!』と喜んでいる。傍で聞いてたら山菜採りみたいだが、袋の中には耳がいっぱい入っているんだぞ。
その感覚が俺にはまだ分からないと感じるのだが、その話を以前酒を飲みながらクロと話したことがある。クロはウンウンと聞いてくれていたが、『今つまみで食べてるのってゴブリンの耳ですよ?』って言われてひっくり返った。スルメみたいな味がして美味いと思ってたのに...少し吹っ切れた俺がいたのだった。
そんなことを話しながら俺たちは今焚火を囲んでいる。ポーターさんはテキパキと食事の用意やテントの設営までもしてくれる。
それは何故か?
ギルドからポーターの依頼報酬が出るが、パーティーからの討伐報酬、いわゆるボーナスを出してくれるパーティーがあるからだ。もちろん義務ではないので成果が出ないと渡さないパーティーもある。
だから良い環境を作って成果を残してくれるようにサポートにも力が入るわけだ。しかも、今回のパーティーはサティと天空の剣なもんで、ギルドが出したポーターの依頼に低ランク冒険者が殺到したらしいぞ。
「ガイアス、魔物の数だけど、これって多いのかね?」
「んー、それほど多いとは思わないな。いつもと変わらないって程度だ」
「そうかぁ、でも入ってまだ一日だからな。これからかも知れないな」
「ああ、明日から森はもっと深くなってくるからな。荷車で進めるのもここらまでだろう」
「そっか、ポーターも大変だな」
「まあ、そうして鍛えられていくからな。下っ端は色々辛いだろうが、その経験が無ければ上は目指せないもんだ。これも修行さ」
「ガイアスってたまに良い事言うよな。正直見直したよ。最初はただのバカだとばっかり...」
「う、うっせぇよ。それにバカは余計だ!」
そんなこんなで夜は更けていく。状況が動いたのは二日目の午前だった。
朝食を済ませて森の中を進む。ガイアスの言う通り森は深くなりとうとうポーターも荷車を置き、背中に荷物を背負い始めた。たまに開けた場所もあるが、基本的に獣道も無い道なき道を進んでいく。
今回は森林での戦闘を想定しているため装備はいつもと違う。言ってしまうと俺だけが違う。
足元が悪い中を歩くので、いつもの装備では動きを阻害されてしまうのだ。山には山の、海には海の服装があるように戦闘服にもそれは当て嵌まると言えるかも知れない。
騎士団は足場の良い所での戦闘は得意だろう。城や市街地、平原などだ。しかし、そのフルプレートの装備のまま山や森の奥深くまで徒歩で進軍を続けられるか? 答えはノーだ。彼らは体力を温存するため装備を外さざるを得ない。隊列の前後は装備をしていても中の者は外す。そして休憩ごとに装備と隊列を交代しながら進軍を行う。戦争時など敵との戦闘が始まる事が分かっている場合は違うが、騎士団が森などで不覚を取る大きな原因は奇襲と夜襲だ。山中で多くの死者を出す原因は大体このパターンらしい。
そう、問題は俺の装備なのだ。以前狂犬との戦闘に際して装備や武器をじいさんに作ってもらったのだが、あれは比較的戦闘が行いやすい場所を想定して作られていると言って良いだろう。コートを着て森の中をひたすら歩くなど無理すぎる。たまに森には入っていたのだが、そこらの木やら枝やらに引っ掛かって大変だった。だから今回はどちらかと言うと動きを阻害し難い装備に変更した。
長々説明したがハッキリ言うとクロの色違いだ。ただ俺のは暗器の仕掛けはないし、模様など細かい部分の違いはあるけどな。
じいさんが紹介してくれた武器屋には毎度無理を言って申し訳ないと思っている。だが、俺の武器や装備を文句も言わず仕上げてくれる商店だ。色々なリクエストを言っても必ず完成させてくれる頼りになるおっさんだ。それからと言うもの武器に限らず装備や小物に至るまで俺は全面的にこの店を信用して仕事を出している。
歩き始めて数時間、そろそろ休憩でもするかと思い始めた時だった。
「この先にオークの群れがいます!その数10体」
斥候に出ていたシンディが帰ってきた。
「オークが10体とは多いな。やはりおかしい」
「そうね、もしかしたら近くに巣を作っているのかも知れないわ」
「オークって普通巣を作らないの?」
「作るわ。でもこんな街から半日程度の所ではなくもっと奥の方に作るのよ。それはそれで問題なんだけどね」
「奥なら良いんじゃないのか?」
「ダメよ。群れが大きくなるとオークの中からリーダーが出てくるの。大きくなるごとにリーダーは種族進化をするわ。リーダー、ジェネラル、エンペラーね。大体全ての魔物はこのように分けられているわ」
「そっか、流石サティだな」
「フフ、もっと褒めて良いのよ?」
「その10体が先遣隊みたいな役割をしてたら、あまり状況は良くねぇな。間違いなく巣があるし、リーダークラスが発生しててもおかしくないぜ」
「そうか、では討伐は絶対としても作戦が必要だな。天空の剣はいつもどうしてるんだ?」
「俺らはいつも風下に移動して近づいていく。それまでにラースが戦闘場所に矢を放ちやすい場所に移動。狙撃場の確保だな。それで俺たちが接触するまでに敵を減らすという感じかな?リーシアはヒーラーなので俺たちの後方で待機。攻撃には積極的に参加しない事になっている。彼女は風魔法が使えるからエアバレットでの遠隔攻撃だ」
「まぁ、セオリー通りの良い攻撃だと思うわ」
そうなんだな、と思いながらリーシアを見るとその手にはメイスが握られている。華奢に見えるがこんなゴッツイのを振り回せるのか?
「ヒロシさん、大丈夫です。ちゃんと扱えますよ?」
心の声が出てしまっていたのか、リーシアは律義に応えてくれた。そりゃ使えなかったら持ってないよね。すまんかった。
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