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お待たせしました。
ある程度の方向性を決めると仕事と言うのは自然と走り出す。ただ時折自分の目でみて修正しないと気づいたら明後日の方向へと突き進んでいて困っちゃう時もある。ハッキリ言って自分で色々と仕事している時と比べたら相当面倒臭い。考えもなく言い出した自分を殴ってやりたい。だが起工式ももうすぐだ。これが終わると国家事業は動き出す。まずはそれまで頑張るしかない。
と言いながら、俺はいま冒険者ギルド『アルガスの盾』に来ている。じいさんも一緒だ。
「まぁケビン、土産話もこれ位にしてじゃ。この大きな土産話が出来る事になったのには理由があんじゃ。のうヒロシよ?」
「それは、『伯爵家でお茶を飲むだけのはずが気付いたら国王陛下と夕食を食べてた件』のことだよな?」
「そう、その件じゃよ」
「...」
「アッガスとの模擬戦はどこから漏れたんだろう?」
「ロングフォードの人間ではないじゃろう」
「...」
「誰だろう?ギルドじゃないよね?」
「ああ、ケビンがいる限りギルドから漏れる事など絶対に無い。ん?どうしたケビン土下座なんかして?」
「謝罪の意を体で表してるんだよ...です」
「はて?何の事じゃろうか?さっぱり分からんわい、のうヒロシよ」
「さっぱり分からんでございまするなぁ」
「俺だよ、悪かったよ! ワザとらしい三文芝居なんかすんじゃねえよ。仕方ねぇだろ! 報告義務があるんだよ!」
「おかげでエライ大変じゃったわ。報告義務があるなら仕方ないがのう」
「ホント大変だったんですからね。勘弁して下さいよ」
「ケビン、ワシは美味い酒が飲みたいぞ」
「はいはい、わかったよ」
「そういや、魔物が増えてたって言ってたのはどうなったの?」
「魔物や魔獣が森から出てくる頻度は増加傾向にある。強い魔物が森の奥で発生した可能性が高い。ダンジョン組からは特に魔物が溢れてきたという現象はここまで入ってきてない」
「でも、警戒するくらいってのは穏やかじゃないね」
「そうなんだよ。ヒロシ、討伐依頼受けてくれないか?」
「何を言っとるんじゃ。ヒロシは今大事な時なんじゃぞ」
「サティとも森に行こうって話はあるけど確かに今は忙しいんだよね。起工式が終わってからガイアスとコビーたちと一緒に行こうかな?」
「そうか、そう言ってくれると助かる。また日程については教えてくれ」
「了解」
そして忙しい毎日を何とかこなし、起工式の日はやって来た。
レイナは工場統括でありながら土木建築部に注力してもらう事になった。工場の方は各部のトップで出来る限り対応してもらう。
起工式は飛行船が停泊している広場で執り行われた。テレビがないのでこういう時には街中の人が集まってくる。その後に概要が街の案内板へと張り出される。江戸時代の街並みを思い浮かべて欲しい。
ゴードンさんが国家事業についての説明を行っている。この事業の為に新設された国家事業加盟店についての説明もあった。これを取得するために商業ギルドは多数の商会の人間で溢れかえったらしい。ギルドでは10組の候補を残したが最後に俺とゴードンさんとも面接をして最終的に4組だけとした。
「以上の事から今回の国家事業はリンクルアデル発展の第一歩となる事でしょう。そして今回の事業の取りまとめ役をする商会はNamelessとなる。またNamelessはリンクルアデルで唯一の国家御用達商会となり、その社長であるヒロシ殿には国王陛下シュバルツ・フォン・アデル3世よりメダルと常時入城許可を授与する。ヒロシ殿こちらへ」
俺が壇上に立つとゴードンさんは脇によけトレーを持っている。そこに上がってきたのはレイラ様だ。俺は目録とメダルを受取り民衆に向かって何度もお辞儀を繰り返した。だって、めちゃくちゃ緊張するんだぜ?さぞ滑稽に見えただろうな。泣きたいよ。
その後国家事業加盟店となる4つの商会も呼ばれて目録を渡されていた。商業関係と建築関係の2社ずつだ。彼らには彼らでこれから切磋琢磨してもらわないとな。当然ゴードンさんから加盟店についての説明はしてもらっている。そこには下請け法違反に該当する部分も含まれている。悪質な取引や雇用を行ったら即加盟店の看板は没収となる。
俺はレイラ様の最後の演説をボンヤリと聞きながら今の状況を考えていた。こっちの世界に来て数年。じいさんに拾われ会社を興し結婚までした。許嫁までいる。そして国王陛下とのつながりまで出来てしまった。何か夢でも見ている気分だ。隣には男爵家令嬢のソニアと妻であるサティが立っている。数年前とは状況はすっかり変わってしまった。頑張らないとな。
そして滞りなく式典も終わり、明日から作業が開始される。と言っても測量からだけどな。地図と位置を相互確認するのに時間が掛かるだろう。そう思うと一年六カ月は少々欲張りすぎたか。公共事業の遅れってのは常識とは言え大幅に遅れが出ないように気を付けないとな。
レイラ様ともちゃんと別れの挨拶をしたぞ。近い内にまたお城でお会いしましょうとの事だ。悪いけど伯爵家には行ってもお城まで行くかどうかは約束できないな。一度サティとソニアは連れて行くと思うけど。
子供たちは4人抱き合って別れを惜しんでいる。シャロンが入っているには驚いたが、この3人が良い子で本当に良かった。貴族と抱き合える平民の子供なんてまずいない。
そして歓声が鳴り響く中、飛行船はゆっくりと上昇していく。次第にそれは小さくなっていき空の中へと消えていった。
お読み頂きありがとうございます。
今日はもう一話新展開への繋ぎを投稿したいと思ってます。
書き上げられるように頑張ります。