103 スローンオブスカイ
よろしくお願いします。
「ギルド長!サティさん!いま伝書鳩がアデリーゼから届きました!アデリーゼからリンクルアデル王室専用船が到着するらしいです。到着時間は恐らく午後2時頃になります」
コロナが部屋に飛び込んできた。王室専用船とは穏やかじゃないわね。
「なにぃ!着陸するなら国立公園だ。サティ、ゾイドは不在だから直ぐにNamelessにソニア達を迎えに行って、その後は男爵家にレザリア様を迎えに行ってくれないか?俺は警備と連携し国立公園に直ぐに向かう。コロナは今いる冒険者を最後にギルドを閉めて国立公園に行け。王族が乗船している可能性が高い。広域サイレンを鳴らし街中の冒険者には規則に則り特別警戒態勢をとるように報せるんだ」
「了解よ」
「わかりました!」
コロナは直ぐに出て行った。
「ケビン、何か聞いてないの?」
「いや、何も聞いていない。恐らく緊急に決まったのだろう。ゾイドやヒロシとの関連性も不明だが、奴らはローランドにいる筈だから関係ないとは思うが...」
「とにかく動くわ」
「頼む」
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「ソニアはいる? あ、ソニア! 大変よ!」
「あらサティ、どうしたの?まぁ上がってお茶でも飲んだら? 美味しいお菓子を買ってきたの。一緒に食べましょう。ね?」
「ええ、それはいいわね。いや、ちょっと違うのよ、聞きなさいよ。大変なのよ!」
「ほら、あそこのケーキ屋さんよ。すっごい美味しそう...え、大変?」
「ケーキは気になるけど、大変なのよ。アデリーゼから王室専用船がこっちに向かってるらしいわ。男爵不在だからソニアとレザリア様でお出迎えしないと。シェリーとロイは帰ってる?」
「ええ、帰ってるわ。でも王室専用船って本当なの?」
「アデリーゼから伝書鳩がさっき来たの。間違いないようね」
「大変、すぐに呼んでくるわ。シャロンはどうしましょう。連れて行くしかないわね」
「そうね、今日は店は閉める事になるわ。突然の来訪だからこれから冒険者、警備と衛兵で特別警戒態勢よ。サイレンが聞こえるでしょう?」
「それじゃすぐに準備するから待ってて。と言ってもこの格好で行けないわよね」
「ちょっと白の割烹着はまずいわね。なんでそんな格好してるのよ? まだ時間はあるから着替えたら?」
「そうね、そうしましょう。サティも着替えたら?」
「ダメよ。そうしたい所だけど特別警戒態勢だから、何かあったらソニア達を守らないと」
「そっか、ありがとう。頼りにしてるわよ」
「まぁ、その辺は任せておいて」
「アリス! アリス! ちょっと来て!」
ソニアはメイドのアリスを呼びながら中へと入っていった。馬車は男爵家へと向かいレザリア様にも同様に説明を行う。レザリア様は『まぁ、大変』と言いながらメイドと執事に指示を出す。子供3人は男爵家でお留守番だ。もちろん何かあった時の対応は万全である。
そして周りを警備で固めた馬車は国立公園へと向かった。
「あれかしら?」
ソニアが空の向こうの豆粒を指さしている。
「多分そうね。もう少しかかるわよ」
「サティ、こっちはオッケーだ」
ガイアスが一通り周りを見てきてくれていた。国立公園内は立ち入り禁止となり脇の沿道には市民が王室専用船を一目見ようと押しかけていた。ここに居るのは高位ランクの冒険者と警備、衛兵だ。警備と衛兵は公園内はもちろん外にもいて、出口から男爵家まで先導する形になっている。
やがて豆粒は次第に大きくなり国立公園上空まで来た。
リンクルアデル王室専用飛行船
王室、及び国賓を含む極めて限られた者のみが使用できる王室家御用達の飛行船である。真白な船体の横にはリンクルアデルのロゴと紋章が描かれている。通称名はスローンオブスカイ。リンクルアデル最大の飛行船である。全長75m、最大推進力85㎞/h。追風参考値としては120㎞/hの記録がある。最大飛行可能時間は気嚢の再充填なしで約30時間と記されている。
気嚢部にはリンクルアデル北部リンクウッドで取れる鉱石を使用。熱を掛けると発生するガスを利用し気嚢に充填している。推進と旋回には4基のプロペラを搭載し動力には魔石を使用している。左右1基、後方に1機、最後の1基は旋回用のプロペラで離発着時専用となっている。上手く追い風を利用できればプロペラは使用しないこともある。
客室部は大きくスペースが設けられており、バーやソファのあるラウンジ、個室にはベッドやシャワー室までもが完備されている。貨物室は更に大きく大型馬車4台、それに連なる馬や道具、荷物を含め様々なものが収納できる。特別な警護を任された者以外の警備や衛兵などは貨物室横に設けられた4部屋ある大部屋で待機する。
その雄大な船体に皆は圧倒されそれぞれに歓声を上げている。船体は公園上部で旋回し、ゆっくりと下降を始めた。
船体横部と後方に取り付けられたプロペラが停止して数分後、ハッチが開いた。ハッチが開いて現れたのはゴードン内務卿だった。内務卿は踊り場横で直立不動の姿勢を取り待機する。出てきたのはなんと第二王女であり御神子様でもあるレイラ・フォン・アデル様であった。周りは大歓声である。レイラ様は微笑みながら皆に手を振っている。
「わ、私、行った方が良いわよね?」
ソニアが緊張した面持ちで聞いてくる。
「そうね、レザリア様も一緒に行った方が良いと思うわ」
「サティも一緒に来てよ。ね?」
「分かったわ。護衛も2人連れて行きましょう」
ソニアとレザリア様を先頭に前へと進み、私たちは階段から15m程離れた場所で臣下の姿勢を取る。レイナ様はゆっくりと階段を降り始めるとその後に2人の護衛がついて出てくる。リンクルアデル騎士団の正装をしている彼女たちは『ウインダム』だろう。その後にゴードン内務卿が続く。続いて出てきたのはゾイド様だった。驚いたわね。なぜ一緒に乗っているのかしら?もっとびっくりしたのはその後だった。なんとヒロシがヒョコっと顔をのぞかせたのだ。クロと二人でキョロキョロしている。前の2人も『あら?』とか『何で?』とか言っている。
レイラ様はゆっくりと私たちの前まで歩いてきた。
「レザリア・ロングフォードとソニア・ロングフォードですね?突然の訪問にも関わらず出迎え感謝致します」
「勿体ないお言葉でございます、王女レイラ・フォン・アデル様。よくお越し頂きました。我らロングフォード市民一同、王女様ご一行を心から歓迎致します。不慣れなものでご無礼をどうぞお許し下さい」
流石レザリア様だ。ソニアもどっからどう見てもご令嬢の顔になっている。
「後ろのあなたがサティさんかしら?」
突然話しかけられて驚いた。
「はい、レイラ様。サティと申します」
「やっぱり、あなたがヒロシさんの奥方様なのですね」
「はい」
「また、後ほどゆっくりお話ししたいわ。ソニアさんとも一緒に」
「はっ、光栄です」
レザリア様が会話の終わりをみて声を掛ける。
「それでは、まずは男爵家へとご案内させて頂きますがよろしいでしょうか?」
「もちろんですわ。よろしくお願いしますね」
私は皆と共に立ち上がり、後ろを向いてガイアスへサインを出す。それに気づいたガイアスは衛兵に指示を出すと沿道の市民は波が割れるように動き出す。
その向こうからは男爵家の大型の馬車が2台、ゆっくりと入ってくる。馬車は少し手前で止まり、御者がドアを開けてレイラ様の到着を待つ。レイラ様はゆっくりと馬車へ近づき、中へ入る前にイザベル様とソニアに同じ馬車に乗るよう声を掛けた。2人は馬車へと乗り込みその後に護衛が続く。
ゴードン卿は次の馬車に乗り込む。男爵様が近づいてきてすまないが馬車の護衛を頼むと言ってきた。
そして最後。ヒロシが私の方へと近づいてきた。
「ただいま」
「もう、どういうことよ?」
「詳しいことは後でゆっくりと話すよ」
「仕方ないわね」
「でもただいまのキスは今でも良いかな?」
「そ、それも仕方ないわね」
ヒロシは私の唇に軽く触れて馬車に乗り込んだ。
引き続きよろしくお願いします。