98 模擬戦
ユニーク1万人を突破致しました。
これも皆様の応援のおかげです。
本当にありがとうございます。
そう言う訳で訓練場へとやって来た。重臣達も全員一緒だ。訓練している兵も何事かと驚いている。
「模擬戦は2戦ほどを考えておりますがよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「こちらからはリンクルアデル騎士団の精鋭部隊である『ウィンダム』より2名を選抜します」
「私も戦闘服に着替えたいのですが...」
「もちろんです。先ほど城外で待機中の男爵家の所へ人を行かせております。そろそろ届くかと思いますので、あちらの部屋でお待ち下さい」
「分かりました。クロ、いいか?」
「もちろんです、お供致します」
そして俺はクロと一緒に着替えに向かった。
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「レイヴンよ、誰を出すのだ?」
「今騎士団の中で選抜中ですが、セイラムは確定です。後はカルディナかホークスになるかと」
「うちのトップ3か。どうなるか。ゾイド、ヒロシはどういう感じなのだ?」
「はっ、陛下、実は私自身は戦闘を見たことがありませんゆえ...何とも」
「そうか、其方も初めてか。お、来たようだな。しかしあれが奴の戦闘衣装か。雰囲気あるじゃないか」
「お待たせ致しました」
「そうかわかった。悪いが全力であたらせてもらうぞ。こちらからは騎士団御精鋭部隊よりセイラムと、ん? まだ決まっとらんのか! いい加減にしろ! すまんなヒロシ、みな模擬戦に注目しておってな」
俺はレイヴンさんの方へ眼を向けると男女が何か言い合っている。恐らくあの2人のどちらかなんだろうな。
「できれば、男性が良いんですけどね」
と言ったのがまずかった。聞こえてたのか女性がこっちに向かってきた。
「ちょっと、アンタどういう事?自信がないわけ?」
「控えろ!カルディナ!失礼であるぞ!」
「いや、構いませんよ。カルディナさんですか、すみません。女性を甚振る趣味はないんですよ。できればご勘弁願いたい。どうしてもやりたいならあなたの不戦勝で構いません」
「甚振るですって?相当自信があるのね?」
「自信と言うか、申し訳ない、その辺りの言い回しが下手なもんでご気分を害したのなら謝罪します」
横でクロが溜息を吐いている。助けろよ。
「という事だカルディナ。今回はこの俺、ホークス様に任せてもらおうか」
男の方も来たぞ。筋肉ダルマだ。自分で様付けとは典型的なオレオレ系だな。
「何言ってんのよ!序列では私の方が上のはずよ!」
「それも随分と昔の話だろう?古い話を持ち出すなよ」
「つい一週間前よ!このバカダルマ!」
バカダルマか...上手いなカルディナさん。でもそうなんだな、カルディナさんの方が序列は上なんだ。やるなカルディナさん。
という事は、お相手するのは序列一位と三位ってことだな。いずれにせよ舐めてかかるわけにはいかないな。セイラムって人は既に装備をつけててよく分からないが華奢な感じに見える。外見で判断するとダメなパターンだな。
まずは、ホークスさんか。俺たちは訓練場の真中へと進んで対峙した。
「お前の事は噂になってるぜ」
「ありがたいと言うか迷惑と言うか難しい所ですね」
「心配するな、商人の腕前は評判通りみたいだがこっちの方は今日で評価が変わる。そんなバカでかい武器で戦えること自体が信じられん」
「そうですか、期待してます」
俺は仮面をつけて相手を見据える。
「恐らく、セイラムさんと言う方が序列一位かと思うが、人を外見で判断してはいけないという事を学んではいないのかな?」
「なんだと?」
「それでは、はじめ!」
そんな会話が聞こえる筈もない騎士団員は号令をかけた。
「いくぞ!オラァ!」
ホークスは突っ込んできて剣を振る。大した剣速だ。だが...
俺は剣を剣先で避けると共に石突きの方で相手の顔面を横から強打する。バギ!という音と共にホークスの体は右側へとずれるが何とか姿勢を維持。
「グアッ、オオォ!」
ホークスは剣を振るいながら突進してくる。圧と剣速は大したものだが俺から言わせれば隙だらけだ。
悪いが実力が違う以上、手に持つ武器も実力が上の者が当然有利になる。接近戦でアッガスが俺に肉薄できたのは紛れもなく奴が一流だったからだ。
俺は間合いを守りつつ全ての剣撃を払っていく。
「正直ガッカリしたぜ、はぁ、もう十分だ」
「クソッ、当たらねぇ! 正々堂々勝負しろや!」
「お前、本当に序列3位なのか? 信じられんな。一度負けて反省してこい」
俺は石突きの方で踏み込んできた足の膝上を突く。膝上は装備の隙間であり関節部分だ、石突きと言えど鋭利な先端は確実に肉を抉る。
動きが止まったホークスに俺はそのまま大刀を横に振るう。技でもなんでもない、あえて名前を付けるとしたら大薙ぎか?
しかしその速度と圧力は剣の比ではない。剣先までの長さは剣の倍以上あるのだ、スピードは遠心力にも乗り加速する。
ズバン!
という音にホークスの剣は折れ、そのまま腕も切り落とし、胸の真中辺りで停止する。大量の吐血の後、ホークスは膝から崩れ落ちた。
その瞬間タリスマンが作動、ホークスの体を包み込んだ。これってどういう原理なのだろうか?言うなれば時空魔法だぞ? いや、深く考えるのはよそう。こういうモノがあるという理解で良いのだ。
「お前が序列3位でないことを願ってるよ」
勝負は驚くほどあっけなく終わったのだった。
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「なによ...あれ?」
カルディナは絶句していた。速すぎる。しかも最後の太刀、あれは払っただけではないのか? ホークスが正々堂々など喚いたのは聞こえていた。あれは違う。彼は真っ向からホークスの斬撃を全て受けとめた上で叩きこんでいるのだ。ホークスには見えていないのだ。
私は両方の手を握り締め悔しさに歯ぎしりする。何故私が戦えない? 戦士として生きる私に、女だからと舐められるほどの屈辱が他にあると思うのか? 悔しい、勝てずともせめて一太刀。そう思えてならない。
ん? 彼が私を...見ているのか? こっちへと歩いてくる。しかしこの姿を見ると彼はまるで鬼、いや死神のようだ。先ほどの飄々としたイメージとはまるで違う。真黒な装束、異様な武器と仮面、全身を包むオーラ。二の腕が泡立つのが分かる。
彼は紛うこと無き強者の部類だ。だからこそ尚、私は...
「カルディナさんだったっけ?」
「ああ」
「彼よりあなたの方が強いのだろう?」
「ああ、間違いなくな」
「先ほどは失礼な物言いだった。『女性だから』というのは禁句だという事をサティとの一件で学んだはずなんだが...いや、こちらの話だ。良かったら手合わせ願いたいがどうだろうか? ああなっても責任は持てないが?」
と言いながら、彼は運ばれていくホークスを指さす。もちろん願っても無い。今まで鍛えた武を試せるのだ。
「願っても無い、こちらこそ是非お願いしたい」
私はいつの間にか礼節を弁えた話し方になっているのを自覚していた。失礼なのは私の方であった。私こそ驕っていたのだ。
そして、私は今、彼と対峙している。
「それでは、はじめ!」
私は飛び込もうとして止めた。彼のあの構えは見たこともないが今出て行ったら膝から下が無くなるイメージがあった。グレイブに似ているか?かなり重そうな武器だが、なぜこれほど軽そうに操れるのか?
「さっきの奴よりやっぱりできるんだな。同じならもう終わってたんだが」
やはりか。どうやら試されたようだ。余裕か?いや、気を引き締めろ。外見や言動に惑わされてはいけない、私は剣を鞘に戻すと腰に巻いてある剣を抜いた。全力で、殺す気で挑まないと意味がない。
「行くぞ!」
左手で剣を鞘に戻した時に手にした苦無を投げつける。当然弾かれることは想定済みだ。
私は間合いを保ちながら攻撃を仕掛ける。
「この武器は...ウルミか?」
彼は剣を受けない、この剣を知っているのか?私の愛剣は『薄刃ベルトウィップ』受ければ剣は武器を巻きとり、時には捩り相手を刻む。
受けずに弾いた所で薄刃の動きは追撃を止めない。旋回させる隙を狙わせないよう左手の苦無で相手を牽制する。
「ここ!」
私は渾身の突きを放つ。薄刃を真っすぐ伸ばした刺突力は槍と変わらない。ベルトウィップのリーチは剣よりも長い。
彼はそのグレイブで刺突を弾こうとする、その瞬間を狙う!
「オフィディアスラッシュ!」
手首を渾身の力で捻り切っ先の軌道を強引に逸らす。切っ先は波打ち、死角から相手の体を貫く!
バシュッ!
恐ろしい反射速度で彼は大きく軌道を変えた剣先すら弾く...が私の方が早い!戻す薄刃は彼の脇腹を掠め、鮮血を散らす。すかさず次の一撃...を...
薄刃の陰から彼が視界へと入ってくる。その眼はそれだけで私を射殺すかのように捉え、
「相原家伝月影流薙刀術...青鷺火」
刹那、私は武器を破壊され、左手は折られ、首元に刃が添えられていた。
「ま、参りました」
私は敗北を認めたのだった。
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「すまない。舐めてるわけじゃなかったけど、思いのほか強くて怪我をさせてしまった」
「い、いえ。もしあの刃を止めてもらえなければ私は首を飛ばされておりました」
「ごめんね?」
「は、はい。あの...私はヒロシ様からみてどのレベルなのでしょうか?」
「俺なんかに様付けは不要だよ。カルディナさんの強さかぁ...そうだな出会った頃のサティ位かな。獣人化する前の。今で言えば相性の問題もあるけどウチのクロードと同じくらいかな?」
「サティさんとは狐炎のサティさんですか? 彼女と戦ったことがあるんですか。え? そうですか、数年前に...でも獣人化なしとは言えサティさんの強さには近づいているのですね。私の訓練が無駄ではないという事が分かっただけでも嬉しいです。ありがとうございました」
「いいよぅ、気にしなくても」
「カルディナ、気は済んだか?」
「レイヴン様、ご無理を聞いて頂きありがとうございます。でも狐炎のサティさんに少しでも近づいていることが分かって嬉しいです」
「お前はサティさんのファンだからな」
「えっ!」
「どうしたんですか?」
「いや、別になんでもない」
こんな所にまで親衛隊がいるのか。恐ろしい。
「それでは、次に入る前に少し休憩を入れよう」
「分かりました」
俺は皆と訓練場の外へと歩いた。カルディナさんのケガはポーションで治ってるぞ。
もちろん俺もな。
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