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この話で累計100話となりました。
こんなに描き続けることが出来るとは考えてもいませんでした。
本当に皆様のおかげです。
ありがとうございます。(´;ω;`)
俺たちは門で衛兵たちの簡単な審査を受けて入城した。暁の砂嵐やシンディ、護衛達は案の定というか城壁の外で待機だった。
城壁の外と言っても野ざらしではなくキチンとした待機場所が用意されている。本来外来用の待機場所に通されるが今回は特別という事で来賓用の待機場所へと通されていた。俺もあっちが良い。
城の中を馬車はゆっくりと走っていく。入口へ到着すると執事やメイドが勢ぞろいしている。その中にも重臣の方達が何名かいるように見える。
赤いカーペットの上を俺たちは歩いてゆく。すると一人の男性がこちらへと歩いてきた。
「ようこそおいで下さいました。急に予定を変更させてしまい大変申し訳ない」
誰に言っているんだ?こっちを向いているが俺じゃないよな?俺はじいさんの方へと目線を投げて助けを求めた。
「これはこれは、ゴードン内務卿、大変ご無沙汰しております。こちらはヒロシという商人です」
「初めまして、ヒロシと言います。この度はお招きありがとうございます」
「おお、あなたがヒロシ様ですね。ようこそおいで下さいました。さぁ、皆さんもこちらへ」
おかしい、今俺を『様』付けで呼んだよな?これは明らかに変だ。先のレイヴンさんならわかる。途中までは呼び捨てでその後の流れで敬称を付けたからな。それが普通だと思う。まぁ、俺は貴族ではないが。
「ゴードン卿、ちょっと理解ができないことがあるのだがな?」
やはりレイヴンさんも気づいたな。
「レイヴン卿、よくぞ戻られました。皆さま、少し失礼してレイヴン卿と話をさせて頂いてもよろしいかな?皆さまは彼女たちについて行ってまず部屋で休まれると良いでしょう。私もすぐに参ります」
ゴードンさんは左手を上げて合図を出す。直ぐに数名のメイド達が近づいてきた。
そう言うやり取りを経た後、ゴードンさんと言う人はレイヴンさんを引っ張っていった。俺たちはというと頭の上に『?』マークを浮かべながらメイドさんの後についていくのだった。
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ゴードンに連れられて私は談話室へと向かった。腑に落ちないことが多々ある。何故謁見の場でないのか、先ほどのゴードンの発言。更にはチラッと見えたが公爵家までいなかったか?
「ご苦労レイヴン、よく戻ったな」
「はっ、陛下ありがとうございます」
ここは談話室で謁見の場だけではなく様々な部屋や施設が併設してある。でも、これ臣下が全員いるんじゃないのか?どうなってる?あ、やはり公爵家もいるな。
俺は聞いた。昨晩の出来事を。とても信じられん。創造神様がこのリンクルアデル城に降臨しただと?しかもあの男についてだが、夢でも見ているのか俺は。創造神様自らが個人の名前を出す神託だぞ?何者なのだあの男は...あ、聞いてはいけないんだったな。
しかし、欲をだして変にプレッシャーを掛けるような事をあの男に言わなかった自分を褒めたい。変に絡んでいたら、今頃俺はどうなっていたのか想像しただけで恐ろしい。
「しかし、リンクルアデルの危機とあの男に何の関係があるのでしょうか?」
ゴードンは陛下から合図をもらって再び話し始めた。
「それは、分かりませんね。だが推測できることはある。これは彼のパスの中身です。これからいくつか考えられることがあります。直接本人に詰問することはもちろんしませんが。こちらを見て下さい。
この加護の部分ですが、文字化けと言われる現象とは違い、閲覧不可となっている。少なくとも上級神レベルの加護はついているかと思われます。また、一部文字化けしてますが、『卵』という表記があります。アザベル様は『殻を破った』という表現を用いておりますことから、この読めない部分はもしかしたら『英雄』の文字が入る可能性があると考えてます。」
「なるほど」
「これから私たちが考えなくてはならないのは、先日あなた自身が言ってた事ですよ、レイヴン卿」
「何を言ったかな?」
「どうやって、この地に留めておくかです」
「あぁ、確かにそれだ。その通りだな。しかしあの飄々としたナリを見ていると、本当に気のいい青年にしか見えんのだ。戦闘も好んでするタイプではないと思う。正直アッガスの件も信じられんというのが本当の所なんだよ」
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「面をあげよ」
低い声が謁見の場に響く。このような場所に出るような作法は当然俺にあるわけがなく。前を歩くじいさんについていくだけだった。
この場所に今いるのはアルバレス・ローランド伯爵、じいさん、セバスさん、クロ、そして俺だ。本来執事は呼ばれないが今回は特別という事で共に謁見することになった。
国王との謁見。
これは大変名誉なことでセバスさんとクロの驚きようというか喜びようは大変なものだった。伯爵やじいさんは下賜される際に何度かこの場所には来ているのでそこまで喜ぶことはないが、それでも嬉しそうではあった。
だが、俺は違う。下手をすれば即不敬とされ首が飛ぶかもしれないんだぞ?そんな場所に来たがるほど命知らずではない。俺は王座の下で片膝をつき臣下の礼をもって陛下の着座を待つ。
雰囲気がそうさせるのか、この場所にいるという事が大変名誉であることは俺でもわかる。脇に並ぶのは重臣たち、衛兵、それに騎士までがいる。
「彼があの?」とか「本当にただの青年のようだ。」とかヒソヒソ話が聞こえてくる。事情はあるが基本はただの青年なんだよ、悪いけど。
陛下が入城するとそういう雑音はピタッと収まった。空気が一瞬にして張り詰めたように思える。これが国王が発するオーラか。
そして冒頭に戻るわけだ。
最初は世間話のような内容だった。遠い所からわざわざとか、伯爵家の料理は上手かったとか。緊張をほぐそうとしてくれてるのかな?
話の流れが変わったのは陛下が昨晩の出来事を話した時だった。俺はひっくり返りそうになった。今の俺はさぞ間抜けな顔をしているだろう。なんだ、この先の未来に関係するとか。俺の毒ガス兵器がバレているのか? 使う気はないぞ? あれは絶賛秘匿中だ。
チラッと横にいる伯爵と後ろに控えるセバスさんやクロを見ると皆一様に口を開けている。そうだろう、俺もそうなってる。じいさんだけは普通に見えるな。予想の範疇だったのか?本当に肝が据わった人だ。それが俺をいつも安心させてくれる。
アザベル様...本当に直接神託を授けにやって来たんだな。俺がこの世界に来て直ぐに会った際にそんな話をしていたのは覚えている。
「ヒロシよ、いやヒロシ殿と呼ばせてもらった方が良いか。其方の出生を含めた内容について何も聞くようなことはせぬ。それはここに居る皆も同じだ。ここに居る皆が状況を理解しそして秘匿することで了解している」
「あ、ありがとうございます。あと、名前はヒロシと呼び捨てで大丈夫です。でも俺、いや私にもアザベル様の期待している内容についてはよく聞かされてないんです。すみません、言葉遣いがなれておらず失礼な話し方であれば謝罪致します」
「はっはっは、言葉遣いなどそこまで気を使うこともない。気にするな。ふむ、今其方は『聞かされてない』と申したな。という事はそなたもアザベル様と話したことがあるのだな。いや、すまない。これも余計な詮索であった」
しまった、俺が余計なこと言ってどうすんだよ。まぁ、アザベル様が神託を授けた以上今更だけどさ。
「ゾイド・ロングフォード男爵」
「はっ」
「其方はよく判断を間違わずヒロシ殿、いやヒロシで良いか、を保護し大切にしてくれた。其方の決断は今となっては感謝以外の言葉が出てこない。ヒロシには悪いが、単純に道端に倒れていた男であろう? 本当によくやってくれた」
「勿体なきお言葉。私は家訓に従い、また私自身の矜持に従ったまでの事。これがリンクルアデルの為となるのであれば、それは私ではなくヒロシ自身の才覚でありましょう」
じいさん、かっこいい。思わず抱きついてしまいそうだぜ。
「そういう所が其方の良い所じゃ。其方にはヒロシを保護し、彼の商売の後ろ盾となり国家にも間違いなくプラスの効果を生み出しておる。ヒロシの商会はもはやアルガスで1番と言っても良いそうじゃな?従い其方には相応の褒美を考えておる」
「はっ、ありがたき幸せ」
「アルバレス・ローランド伯爵」
「はっ」
「其方も良くヒロシという商人について男爵へと話をしてくれた。其方の領地経営が問題なくできている証拠と言っても良いだろう。其方の話が無ければ今回の一連の話はなかったやもしれん。アザベル様も仰られていたが、因果とはどこで何がどうなるのやらさっぱり分からん」
「それが人生の面白さでございましょう」
「そうだな、その通りだ。其方には引き続きロングフォードと密に連絡を取って欲しい。往来には時間が掛かるとは思うが何とか頼むぞ。何か良い話でもあれば良いが」
「実は既にヒロシ殿とは商売の話をさせて頂いており、伯爵家としてはこれを認める事にしております」
「おお、そうか、流石アルバレス如才ないな。ヒロシよ、余にも何か良い商売の話はないのか?」
おっと、そう来たか。あるかそんなもん!そんな次々とアイデアが出来てたら苦労はしない。
だが待て、考えるんだ俺。このチャンスを逃したらダメだ。国のトップと商売の話ができるチャンスは人生においてそう巡ってこない。このリンクルアデルで一番の人だぞ? 考えろ考えろ考えろ。
「まぁ、そんな都合の良い話はないか」
「あります」
言っちゃったよ。
お読み頂きありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。