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もう1話投稿できそうです。
よろしくお願いします。
色々と話をしていると夕方になってしまった。沢山ためになる話が聞けたと思う。
結果、俺は国籍があるとはいえ衣食住全てにおいてなし。当たり前だが職もない。完全に生活能力がないわけだ。このまま放りだされたら生きていけない。という事でじいさんが保護してくれることになった。なんていい人なんだ。本当にありがたい。
市民パスについては国籍がリンクルアデルなので再発行するだけだ。一度発行していることになってるところが怖いぜ。問題は出生元のニホンだがこれもそんなに大きな問題にはなりそうにない。そんなことを話しながら俺はじいさんと馬車に乗り宿屋へと戻った。市民パスは受付でコロナさんからもらったぞ。
夕食はステーキだった。ワインも出てきたりした。じいさんはギルドでのことを皆に話して聞かせ、皆も一緒に喜んでくれた。この家の者たちは警戒心ってのがないのか? 昨日倒れてた人間を保護するとかないだろ? と思ったが考えても仕方がない。俺は素直に皆の好意を有り難く受け入れた。
料理は本当に美味しかった。この国の料理が上手いのか、料理人の腕が良いのか。
「何から何までありがとうございます。それにしても本当に美味しいですね」
「うちのシェフは優秀なのよ? おかわりもあるからいくらでも食べてちょうだいね」
シェフときたか。でもレザリアさんは嬉しそうだ。
「小僧、いやもうヒロシでよいの? 明日には一度屋敷に戻る。そこでこれからの事を話そう」
帰る家はお屋敷なんですか?
「あ、はい。分かりました。呼び方もヒロシで構いません」
「「じゃぁ、ヒロ兄だね」」
そこ、ハモらない。
「私はヒロシ君かヒロシさんで良いかしら?」
全く問題ございません。
「ええ、皆さん好きに呼んで頂ければ良いですよ」
皆、細かいことは聞かず普段通りに接してくれている気がする。こんなどこから来たのかも怪しい人間に何故良くしてくれるのか。本当にありがたい。これも創造神とやらのお導きってやつか? そんな事を考えながら俺は楽しいひと時を過ごしたのだった。
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その夜。
俺は部屋に戻り机に座って考えていた。何をってここまでの経過をだ。今日の朝目が覚めて、今しがたこの部屋に戻ってくるまで驚きの連続だ。正直頭がパンクしそうだが、何故だろう。もうほとんど受け入れている自分がいる。
実はギルドで思い出したことがある。
文字化けのパスを見た時だ。家内安全やら一騎当千の文字を読んだとき、ふざけてんのか? って思ったが、その時にひとつ俺の記憶が蘇ってきた。ああ、そうだ。確か一月前くらいの話だ。パソコンの前でアンケートに答えたことがあったよな。
確かその時に能力ってところにそんな四字熟語をいくつか書き込んだ気がする。気になるのは、家族とは会えないとか、適合率とかそんなことがたくさん書かれていたはずだ。だから覚えているんだ。そして、これらが3月18日午前0時に執行されるってこともな。
何の冗談かと思っていたが、飛行機に乗ったのは3月17日、火災が発生したのは夕食を食って一寝入りしたころだから丁度日付が変わる18日午前0時頃だったんじゃないか?
察するところあの飛行機は墜落することが決まっていたのか。または墜落させたのか。それが運命なのかどうなのかは分からない。
ただ一つ確実なのは。
「俺は......死んだんだな」
という事実だった。もう二度と元の世界には戻れない。もう二度と家族とは会えない。愛しい妻にも可愛い息子にも会えない。嫁さんは高校からの同級生で本当にどうしようもない俺を支えに支えてくれた。
子供は男2人だ。こんな俺をとーちゃんと呼び、いつもくっついて歩き、時には困らせてくれたもんだが、それ以上に俺の人生に間違いなく大きな喜びを与えてくれた。
生きがいと言ってもいいだろう。俺と嫁さんは元気に育つ子供たちに翻弄されながら、それでも楽しく暮らしてきた。そんな子供たちも二人とも大学生だ。上の子は帰国した翌週に卒業する予定だった。
俺は仕事の合間に卒業式に出れたらなぁなんて考えていた。これまで海外暮らしが長く子供の行事ごとにはほとんど出れなかったからな。二人の卒業式には何としても出たかった。でもそれもとうとう叶わなかったな。
嫁には散々苦労を掛けた。幸せだっただろうか。俺と言う人間を信じてついてきてくれた彼女は幸せだっただろうか。こんなことなら少しでも多く家族と話しておくべきだった。
俺は恵まれていたんだな。失って初めて気づくって本当なんだな。最後の言葉がLINESでの『明日帰る』って......本当にこんなことになるとはな......
「ちくしょう......」
俺はしばらく声を殺しながら泣いた。
”通信を開始します”
「は?」
読んでくださってありがとうございます。