1 プロローグ
秋中月見です、よろしくお願いします。
初めての投稿です。
色々突っ込みどころもあるかもしれませんので先に謝っておきます。
すみません(;^_^A
でも長く楽しんで頂ければ幸いです。
高校を出て30年、今年で48歳になる。
中小企業の町崎製作所に勤め結婚し子供を授かりそれなりにやってきた。バブルの好影響で海外進出に乗り出した町崎はASEAN諸国に工場を作りその規模を拡大していった。俺も30を過ぎたあたりから海外要員として海外現地法人で勤務してきた。
先日赴任先の上司が帰任となり、グループ社長よりここタイ現地法人の社長に任命された。所謂繰り上がり人事であるが、同族企業の中で社長になるのは大抜擢と言えるだろう。
歳も歳ではあるが、この会社では最年少での人事である。元々の上司(現地法人社長)はオーナーの血筋でにこやかな笑顔で俺を激励してくれた。
今年で60歳になる上司は会社に残ることはせず、後人に道を譲る考えであったと。それがお前になって本当に嬉しいと言ってくれた。去年はもう5年は働こうかと言ってた割にはどう言う心境の変化だと思ったが、まぁいい、俺はその言葉が聞けて良かった。
信頼してついてきて正解だった。
俺は嬉しかったよ。
そりゃそうだろう、多くのサラリーマンが目指す最高峰のポジション。その一角に高卒の俺が選ばれたんだから。嫁と子供、親兄弟含めみな喜んでくれた。母親は田舎の自分の兄弟にまで電話したそうだ。
高校を出てフラフラしてた俺が社長なんだからな。母親は嬉しかっただろう。俺もいい親孝行ができたと思ったよ。迷惑かけたからな。
俺が働くこの海外現地法人は合弁会社であり、主に営業や技術的なことを町﨑が担当し、現地の会社が製品にして顧客へと納める。間接的な仕事はウチ、直接的な仕事は現地会社が請け負うというスタイルだ。
これでもう25年やってきており、俺もここでのサポートは約10年になる。景気は悪いが頑張って新規受注を増やしてやる。俺は決意新たに頑張っていこうと思ったよ。
現地での引き継ぎも滞りなく進み今後の経営について話すため俺は久しぶりに日本へと戻った。そして意気揚々と本社に出向いた俺は辞令を受け取り社長と専務がいる部屋へと入っていった。
しかしその場で俺が聞いたのはおよそ想像を超える一言だった。
「相原君、君には今の会社を閉鎖する方向で進めてほしい」
「は?」
おいおい、一体何を言ってるんだ?
俺は直ぐには状況が把握出来なかった。
「あの、どういう意味でしょうか?」
俺は混乱しながらも何とか答えた。
彼ら、いやもういい、こいつらが言うのはこういう事だった。ここ数年現地側の会社との関係が良くないとのこと、また昨今顧客も価格競争で劣勢である。年々売上げが落ちている弊社としては、赤字に転落する前に、つまり今の黒字の状態のうちに会社を現地会社に譲渡したい。まさに今がその時であると。
俺がそれを聞いた時にまず感じたのは、『それ社長は俺でなくてもよくね?』だった。それを口にする瞬間だった、専務がこう切り出したのは。
「前任の町崎幸作君には会社を去ってもらうことになった。これからは新しい世代に変えなくては、いや絶対に変えていかなくてはならない。この不景気の中いつまでも甘い同族で幹部を占めダラダラと経営を続けるわけにはいかない。君を抜擢したのもこの改革の一環だ。君には就任早々辛い業務になることは分かっているがどうか頑張って使命を全うして欲しい」
なん...だと...
その辺りから俺は余り内容を覚えていない。怒りなのか絶望なのか諦めなのかいじけているのか、よく分からない感情が俺の頭だけでなく全身を包んでいた。
俺は一通りの説明を聞いたあと会社を後にした。なんだこの喪失感は。社長になって初めての仕事が会社閉鎖だと? ふざけんなよ? 明日は経営会議と会社の年末パーティーが控えている。どんな顔をして臨めばいいのか。
嫁に話すと激怒した。
まぁ、そうだわな。どう考えてもスケープゴートだ。幸作は会社を去ることになったとはいえ十分な退職金をもらったことだろう。あの笑顔は俺に向けられたものではなかった。自身の安寧と責任を回避できたことによる喜びだったのではないか?
幸作は同族ではあるが派閥争いに勝つことが出来ず、他の社長連中から疎ましがられていたのは事実だ。体よく切られたというのが本当の所なんだろう。そしてその部下である俺もこの1年でお払い箱になるだろう。
今回の人事より前から幸作一派は冷遇されているのは知っていた。その中で俺が社長になったもんだからこれから改善できると思っていたがこれはそんな事じゃない。
派閥の闇というものがどれだけ深い物なのか今になってようやく分かってきた。名ばかりの雇われ社長とは言えこれはれっきとした役員だ。役員と従業員の一番の違いは何か?
それは役員はクビにすることが出来ることだ。
現実に周りに一人の協力者もいない中でどこまで何がどれだけできる?会社の方針とは言え、閉鎖した会社の社長に未来はない。派閥の中心なら大丈夫だろう。しかし負け組の幸作一派には救いの道はない。
事実は曲げられ否定され、全ての責任は現地社長が取ることになるだろう。マンガではここから格好良く一発大逆転の道があるのだろうがここは現実だ。
断言しても良い、そんな都合の良い話はない。
おそらく1年後、会社閉鎖後に俺はまた転勤を申し付けられるだろう。いや、仲の悪い現地の会社に会社ごと譲渡する可能性もある。顧客のサポートとかなんとか理由はいくらでもあるからな。
それを俺が断った時、今の上層部はほくそ笑むだろう。断ればクビ、断らなくても体よく閑職に追いやることが出来るからな。
それで終わりだ。
俺の30年はいったい何だったのか。
最初は何話か継投します。
いずれストックが切れるかと思いますが、出来る限り継続できるよう頑張りたいと思います。
転移までに少々時間が掛かりますがよろしくお願いします。