自由恋愛応援します!
シリーズは帳尻合わせで難儀しておりますが、じわりじわり進んではいるのでのんびりお待ちいただければと…!
他の女にうつつを抜かす婚約者にも。
無垢を装いながらしっかりちゃっかり人の婚約者を落としにかかる子猫ちゃんにも。
関係ないくせに何やかんや騒ぎ立てる周囲にも。
ほとほと愛想が尽きてくる。
学生の内だけの恋人ならもっと上手くやればいいのに。私もそれくらいの度量の広さは持ち合わせている。
子猫ちゃんのしっかり男を逃さないだけの胆力には頭が下がるが、もう少し空気を読んでいただけると非常に助かる。
1番面倒なのは第三者だ。周りはもっとすべきことがあるだろうと何度内心思ったことか。
暇なのか?暇なのね。
そもそも小さい頃から知り合う異性は家族と婚約者と使用人くらい。そんな閉鎖的な世界から、いきなり共学の学園に放り込まれるわけ。制限をする親はいなくなる一方で、誘惑は多くなる。思春期の男女が惚れた腫れたの騒動を引き起こすのは考えなくても分かるだろう。それならいっそ学園で婚約者を決めればいいのに。
別に元々恋愛体質というわけでもない。政略結婚っていうのも時代錯誤だし、いいと思うんだよね。好きな人には好きだと言えばいい。それで両思いなら素敵なことだし、ダメなら他にもチャンスはある。男も女も星の数ほどいるのだから。何でそこまで躍起になるのかイマイチよく分からない。
自分に興味のない男にそこまでの熱量を向ける意義はあるのか?そこまでの価値はあるのか?それなら落とせる男、失礼、自分と相性の良い方を見つけるべきでは?
そのため単刀直入に斬り込むことにしたのだ。
「お呼び立てして、申し訳ありません。リュート様、シルビア様。来ていただきありがとうございます。」
麗しのガーデンテラス。学内の憩いの場である。そこの1番いい席をコネで押さえさせてもらった。
「いきなりどうした。」
婚約者の顔は険しい。別に虐めるつもりも嫌味を言うつもりもないのに。こちらのカーテシーを目に入れたままスルーしたのでこちらも好きにさせていただくことにする。これでも学園入学まではそこそこ仲良かったのよ。恋愛関係ではないけれど。彼女最近虐められているらしいから気を張っているわけね。
「まずはどうぞお掛けになって。シルビア様、よかったらこちらの新作メニューもぜひ。」
ふわりと笑みを浮かべて促す。憮然とした態度で腰を下ろす彼とメニューに目を輝かせながら座る彼女。対象的で面白い。悪い子じゃないのよね。何を考えてるか分からない裏で手を回す貴族よりもよっぽど好感が持てる。それでもコブ付きに手を出すんだから素質はあるわよね。将来が楽しみだわ。
注文を頼んだ後、どちらからともなく姿勢を正した。
「今回お呼び立てしたのは、他でもありません。婚約のことです。」
眉を釣り上げた男と身を竦ませた女。そう大した話はしない。私が聞きたいのはひとつだけ。そう、
「私がお聞きしたいのは、彼女を婚約者に据えて私と婚約を解消する気があるのか否かという一点に過ぎません。」
「え。」
「は?」
「自由恋愛大いに結構じゃありませんか。そもそも私もあなたの家も新たな権力は必要としていない。仲の良い家同士に同じ年頃の男女が生まれたから婚約と相成ったのです。それなら解消するのも一つの手ではありませんか。」
「「はあ?」」
「シルビア様の目の前で言うのも何ですが、もし学生の内だけの暗黙の了解と考えていらっしゃるのなら、私も私でそういう方を見つけます。」
「は?」
「だってパーティーのエスコートなどもあるでしょう?あなたにだけ愛しの方がいて私だけ肩身の狭い思いをしろとおっしゃるの?」
あらあらと扇で口を覆う。ぽかんと間抜けな顔をする婚約者に、笑えてきた。
「ですが、婚約解消される可能性があるのなら私も新たな方を見つけていないと不公平だと思うのです。」
「言いたいことはわかった。…君は別に僕に好意を抱いてるわけではなかったのか?」
「好意を抱いていないかと言ったら嘘になりますね。」
「…なら。」
「しかし、恋愛対象としてあなたを愛しているかと問われたら否と答えます。」
スパッと切り捨てる。目を白黒させる婚約者に笑いかける。人間としてはお慕いしておりますよ、と。
「それに、シルビア様。あなたを非難する周囲の方はいますが、私はそこまで嫌いではありません。」
「え。」
「少しでも良い方と結ばれたいと考えるのは道理ですから。まあ、婚約者のいる方にすり寄っていくのはどうかとも思いますが。逃げも隠れもしない態度は好感がもてますわね。もっと貴族の女性は恐ろしいことをなさりますから」
彼女に手を出された男の婚約者たちみたいに。あれはあれで貴族らしいけど。面倒くさ過ぎる。あの情熱を他で生かせたら世紀の発見でも出来そうなものなのに。惜しいわね。
「つまるところ、私は婚約者があなたである必要はないのです。よい家庭を築けそうと思っていたので婚約者でおりました。
だから、どうするのか彼女と話し合ってください。答えは遅くても今年度中にはいただきたいのです。」
一度きりの自分の人生。
自分の悔いないように生きたい。
それなりに幸せな結婚はしたいし、子供も欲しい。
めいっぱい可愛がりたいし、夫にも子供は可愛がってもらいたい。
貴族の夫人らしく家を切り盛りするのでもいいし、好きな語学を生かして外交官として立身出世するのでもいい。領地の薬草の知識を生かして薬師を目指すのもやりがいがありそうだし、商家に嫁ぎ帳簿と睨めっこするのも案外興味深い。
人生何があるかわからないのだからパートナーだって決めておく必要もないんじゃないかしら?
つまり何が言いたいかって?
「自由恋愛応援します!」
ってだけ。
私の書く主人公の女の子はどうして可愛らしい子になってくれないのか。