プロローグ
春の穏やかな天気。
中学2年になった【風間 茜】は、海の見える霊園にて、1年ぶりのお墓参りに来ていた。
茜は母のお墓掃除をしおわると線香に火をつけて、隣でキョロキョロと辺りを見渡し暇そうにしている弟【風間 蒼汰】に声をかける。
「さてっ!蒼汰もお母さんに挨拶しよっか」
「はーい」
母のお墓の前に2人が並び手を合わせる。
茜は今までの事を心の中に思い浮かべる。
私達に今は両親がいない。
母【神崎 綾子】は蒼汰を産んでから、体調を悪くし亡くなってしまった。そして父【風間 秋】は仕事を家で出来る職に変え、まだ小学生にだった私と産まれたての蒼汰を必死に面倒を見てくれていた。
父は自分が家で仕事をしているからと、私は好きな習い事をしなさいと塾にも行かせてもらい、不自由なく生活ができていた。空いた時間は、蒼汰の面倒や家事を積極的にして、大変な時もあるけど私達は確かに幸せだった。
だけどその幸せは一昨年、突然と壊れた。
父が夕飯の支度をしていると、アチャーとおどけて外に出る準備しだした。蒼汰と一緒にお風呂から出た私は、父に訪ねたら醤油を切らしたからコンビニへ行ってくると言って出ていった。
それが私達が見た最後の父の姿だった。
それからは大変だった。
色々ありすぎて、正直思い出したくないくらい…。
警察や市役所の人に色々聞かれたり、初めて合う父方の親戚に嫌味を言われたり、今まで仲の良かった友人が距離をとったり……。
それからはまとめて親戚の家に引き取られたが、正直扱いは悪かった。でも父の口座に結構なお金が残っていた為、親戚の人が後継人になり、養育費をそこから出してもらえるようになってからは、金蔓になると思ったのか、私達だけハブって豪遊してされていた時期もあったんだ。
まぁでも、スマホで暴言や私達の食事風景を動画に残して、それを近所の人や伯父さんの会社に突撃して泣いて訴えたら、周りの方に同情されて改善させたから良かったけど、私達のこれからを考えると親戚はあまり頼れないと思い、2人助け合いながら過ごしていた。
そして今日は母の命日。母を誰よりも好きと公言していた父がもしかしたら居るのではと思っていたが、お墓は草だらけで汚れいたので父も来ていないようだ。
私は母に語りかけるように心の中で誓う。
蒼汰の面倒は任せて!頑張るから!…と。
茜は母への決意表明を終えると弟に話しかけ、母に別れの挨拶を済ませ、少し遅めの昼食を取ることにした。
霊園から少し離れた場所にある公園で、買ってきたお弁当を食べると、蒼汰が遊びたそうにソワソワしている。まだ5歳児の蒼汰にとって見慣れぬ公園は素敵な遊び場にみえているのかもしれない。
蒼汰に服が汚れない様にとしっかり言い聞かせ、近くのブランコに遊びに行かせた。
蒼汰が時折私を呼びながらはしゃいでいるのを見ると嬉しく思う。私もまだ中学生だし、甘えや我儘を言いたいときもある。でも父と母がいる時に、私達は甘えや我儘を言えてきたが、蒼汰には母の記憶すらない。3歳の時に父もいなくなり、周りから好奇な目で見られてきた。
だから蒼汰は私が甘えさせるんだ、我儘も言わせよう。幸せにすると私はそう決めたんだ。
それを楽しそうに遊ぶ蒼汰を見て改めて心に誓う茜だった。
暫くして楽しんだのかこちらに戻って来るのが見えたので、飲み物の準備をし、声をかけようと再度蒼汰を見ると違和感を感じた。
はしゃいでる蒼汰。
だけど何かおかしい。
蒼汰を見ていると私が見ているのを気づいたのか足を止め手を振ってくる。
そして私は違和感に気がついた。影だ!蒼汰の歩いてくる後ろの影が円状に広がっている。いや、影ではなく黒い穴ように見えた。
「後ろ!!」
私は思わず叫びながら蒼汰に駆け寄り、私の声を聞いて蒼汰が振り向く。無情にも黒い何かの広がりは加速し、蒼汰を足元まで広がり、蒼汰は穴へ落ちてゆく。
私は迷うことなく飛び込み蒼汰にしがみつきながら、神様に祈った。
神様お願いだから、これ以上家族をバラバラにしないでと……