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あけよんのプチユーモアエピ

秋の夜食

作者: あけよん

秋の夜長は落ち着いている。

外は適温より少し低いくらいの気温だ。

虫の音もする。

月が綺麗だ。

夜更かしをしてつい読書をしてしまうこともある。

そして何よりやたらとお腹が空く。

やっぱり私は根っからの食欲の秋なのだろう。


学生の頃、部活が忙しかった。帰りは他の部活より遅かった。

夏場はまだ帰る時でも明るかったが、秋になるととっくに真っ暗になっていた。

部活が終わってからは友達と歩いて帰っていた。そして途中コンビニに寄るのがお決まりとなっていた。そこでお菓子を買って食べながら帰るのだ。

しかし家はそこまで遠くはない。結局いつも、お菓子を食べきる事の出来まないいまま家に着く。

余ったお菓子は親に見付からないように鞄に入れておく。

そして何も食べてない顔をして夕飯を食べるのだ。お菓子を食べたとはいえ、なんの問題もなく残さず食べれる。その上おかわりもする。学生の頃はいくらでも食べられたものだ。

(この頃に戻りたい。今は少し食べ過ぎるだけで次の日胃がムカt...)

その後お風呂に入り寝る準備をして自分の部屋へと向かう。そして授業で出された課題をしながら深夜番組を見る。その時に帰りに買ったお菓子の余りを夜食として食べるのだ。この時間が何より好きだった。至福の時間だ。夜食はほぼ毎日食べていた。


しかしそんなある日ふと思った。


(お菓子じゃ物足りないな...)


深夜、家族みんなが眠っている中、私はこっそりと階段を降りキッチンへと向かった。戸棚を開けて漁ったら出てきた。カップ麺が。

こんな時間に食べて良いものなのかと抵抗はあったのだが、食べた。


この時だ。私が夜食の魅力を本格的に知ってしまったのは。


次の日から帰りのお菓子は少量で安いものを選び、浮いたお金でカップ麺を一つ買うようになった。そして夜食はこっそりとキッチンへ行きお湯を作りカップ麺を食べるようになった。そんな日々がしばらく続いた。


しかしそんなある日ふと思った。


(カップ麺じゃ物足りないな...)


戸棚を開けて漁ったら出てきた。レトルトカレーが。

炊飯器には余ったご飯が入っていた。ちょっと食べた程度じゃかーちゃんにはバレないだろう。カレーを湯煎し、一杯分のご飯の上にかけて、食べた。


この時だ。夜中の米が人をどれほど幸せにするかというのを知ってしまったのは。


次の日から帰りのお菓子は少量の安い物のままで、カップ麺をレトルト食品に変えて買うようになった。そして深夜はこっそりとキッチンへ行きレトルト食品を湯煎して、バレない量のご飯と一緒に食べるようになった。そんな日がしばらく続いた。


ある日の夕食、かーちゃんが唐突に言った。


「あんた最近太った?」


「へ?い、いや…?」


「なんか最近ふっくらしてきてるわよ」


「そうかな。体重は特には変わらないんだけどな。ダイエットでもしようかな。ははは」


バレるわけにはいかない。夜食は私の至福の時間なのだ。もしばれたらもうその時間は終わりを告げるだろう。それどころかきっと大目玉をくらうだろう。

しかしかーちゃんは鋭い。そりゃ毎日寝る前に炭水化物を摂取してれば太るだろう。実際私は5kg近く増えていた。まあ若気の至りというものだな。うむ。



(至福の時間だけは何としてでも死守しなければ)


シラを切り、その後は特に追求もされず、またしばらく至福の時間を過ごせるようになった。


しかしそんなある日ふと思った。


(レトルト食品じゃ物足りないな...)


戸棚を開けて漁ってみた、が、そこには興味を唆る物は何もなかった。さて、どうしようか。このままレトルト食品の毎日ではさらにマンネリして至福の感覚も薄れてしまう。かと言って今更カップ麺やお菓子じゃもう話にならない。何か良いアイディアでもないものか。うーむ...そして、閃いた。


(そうだ、しゃぶしゃぶをしよう)


次の日、帰りは友達とも帰らず一人でスーパーへ行き、お小遣いを躊躇無く使い、肉、野菜を買って鞄に隠して家へと帰った。そして夕ご飯は半分以上残した。


「あら、あんたもう食べないの」


「ちょっと体調悪い、ごめん、残すわ」


「...そう」


いつもはおかわりするのに残すのはちょっと怪しかったかな。

しかし今日の夜食はしゃぶしゃぶだぞ。夕飯なんか食ってられるか。


そして深夜。いつもみたくこっそりキッチンへ行った。そして鍋を用意して調理開始。今思えば一人で鍋をするのは初めてだった。野菜も適当に切り、湯だったところへ入れ、そして肉を泳がせる。こんな楽しい至福の時間が他にあるか。

そして最高の時、ポン酢にくぐらせた最初の肉を食べる。


「ハフハフ」


熱い、が、すかさずそこにご飯を駆け込んで一気に飲み込む。詰まるほどの一口がゆっくりと食道を落ちていく。


これだ。これこそが幸せだ。

きっと私はこの為に生きてるんだ。

もう箸は止まらない。



ところでうちのキッチンの戸は上半分がガラス張りの作りになっている。

食べ始めて少し経ってからだ。そこから鬼の形相をしたかーちゃんが黙って覗いているのに気づいたのは。







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