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<7>悪役令嬢は攻略イベントをさりげなく潰します。

 シャーロット達の受け持ち分担分の公会堂も、図書館も、教会も、広場を少し行った先に同じ並びにあって、事前にエリックとリュートが面会の予約を入れていたくれたからか、さくさく話は進んだ。

 もしかしてお昼ご飯までに終わっちゃうんじゃないかしらとシャーロットは思っていたが、その通りとなり、11時半には分担分の調査は終了してしまった。

「思ったより順調ですね。」

 サニーが下書き用のファイルをポーターカバンに片付けながら、懐中時計をカバンの中から探し出してにこにこと見ている。

「ええ、お昼ご飯にしましょうか。」

「喫茶店を探すんですね。」

 公会堂の前に在った街の案内図の描かれた看板まで戻り、三人で指を差して探す。

 街は、街の入り口の門の前の噴水池の広場から放射状に3方向に広がっていて、西側と東側と真ん中に市場があり、同じようなものを扱う店が街全体に最低3軒はあるといった具合だった。

 東側の喫茶店にまずは行くことにして、シャーロットは簡単にノートに地図を写し取った。

「姫様、その地図で目的地に行けたらすごいです。」

 ローズに揶揄われるような簡単な地図だったけれど、要所は押さえてあるので何とかなるだろうとシャーロットは思った。きちんと皮革製品の工芸店もチェック済みだ。

「私も地図を把握しましたから、大丈夫ですよ。」

 サニーも何かをメモに取っている。こっそりと覗くとシャーロットよりもひどい地図が描かれていた。

 あれでちゃんと目的地には着くのかしらと、シャーロットは首を傾げた。


 可愛い赤色のレンガ造りの喫茶店に入ると、意外にもシャーロット達以外に学生の姿は見当たらなかった。

「他の人達はどこで食べるんでしょうね、」とローズが首を傾げた。

 お昼からパフェを食べるのは私達だけだからじゃないかしら、シャーロットは思ったが黙っておいた。自分の提案に二人を巻き込んだので、申し訳なく思えたからだった。

 席に通され、窓際にローズ、隣にシャーロット、向かいの、入り口が見える席にサニーが座った。ウェイトレスがじろじろと三人を見比べていたけれど、シャーロットは学生だけで入るには年齢に無理がある店だったのだろうかと内心冷や汗をかいていた。何も言われなかったので、気にしないことにした。

「お決まりになりましたら、お声をかけてくださいね」

 にこやかにウェイトレスにメニューを渡されたのも初めてだし、お水の入ったコップを並べられるのも初めてだった。おしぼりタオルをそれぞれ貰った。あったかいおしぼりに、シャーロットは緊張が少し解れた。

「パフェ、ありますよ、シャーロット、」

 サニーが嬉しそうに指を差す。イチゴパフェにチョコバナナパフェ、ミニパフェにプリンパフェなどというものまである。

 メニューは文字と値段と一言の内容紹介の一覧表だった。言葉と値段でイメージするのね…とシャーロットは眉をひそめて考える。文字で食べ物を想像するなんて、喫茶店とは恐ろしいところだ。絵は重要だと思う。

「イチゴパフェ…、」

 ミカエルが好きそうだな~とシャーロットは思った。

「決まりですか?」

「はい?」

「イチゴパフェと何にしますか?」

「はい? ああ、それと紅茶で、」

 なんだかよく判らないうちに決まってしまったと思ったけれど、パフェには違いないのでシャーロットはまあいいかと思う。悩むよりはよかったかもしれない。

「では私はミニパフェとナポリタンとコーヒーにします。」

 ナポリタン?! シャーロットの知らない言葉だった。メニューにはトマトとベーコンとピーマンのパスタと一言添えられていた。

「私もミニパフェとナポリタンと紅茶で。帰ったら寮の仕事を手伝うんで、しっかり食べていきます。」

 二人の食べるナポリタンとやらをじっくり観察して帰ろうとシャーロットは思った。自分も欲しいと言わないところがシャーロットの乙女なところだった。食べきれないのは恥ずかしかったのだ。


 注文を終えて待つ間、サニーの質問タイムになってしまった。

 サニーはローズの苦学生ぶりに驚いて聞いていた。それはもちろん、ある程度は聞いていたシャーロットにとっても同じだった。

「そうですか…、」

 サニーは深いため息をついた。

「今日はフリッツのプレゼントを買う事にして、正解だったように思います。」

 サニーはシャーロットの瞳をしっかり見る。

「シャーロット、つくづくあなたを国に連れて帰りたい。あなたのような慈悲深い女性には初めて出会います。」

 そんなこと言われてもなあ…、シャーロットは困惑する。サニーについていきたくないのだ。サニーはハンサムだとは思う。性格も穏やかだし、容姿もいい。でも、好みではなかった。

「姫様は昔からこんな感じなんですよ?」

「昔から、という程あなた達は付き合いが長いのですね?」

 それはほんと、とシャーロットは頷く。

「友達だからっていつもばあちゃんへ土産を持たせてくれたし、姫様のお使いも楽しかったし。」

「ほほう…、友達。」

 サニーの目が鋭く光った気がした。

「知り合いではないよね。」

「そうですね。」

 ウェイトレスが失礼しますと話に割って入ってきて、それぞれの前に注文通りに並べた。

 シャーロットは目の前の大きなパフェを食べると他には無理そうな気がして、ナポリタンはやめておいて正解だと思った。

 サニーとローズの頼んだナポリタンは、皿一杯に盛られたトマトソース色のパスタにベーコンとピーマンと玉ねぎが乗っていた。トマトソースの甘い香りと黒コショウの引き締まった香りが味覚を擽る。

「私はこの国に来て初めてナポリタンを食べたのですが、病みつきになってしまいました。」

 サニーがほくほく顔でフォークに絡めて食べている。

「ナポリタンは昔から好きなので、あってよかったです。」

 ローズの言う昔はどこまで遡るのかシャーロットには見当もつかなかったけれど、好きなものがあってよかったねと思った。

 シャーロットのイチゴパフェはミニパフェの4倍はありそうで、たっぷりのクリームとイチゴが盛られ、土台となるアイスクリームにイチゴジャムがかけられチョコレートとウエハースが刺さっていた。

 一口食べて甘さに無言になったシャーロットだった。私は甘いもの苦手かもしれない…と思いつつも黙々と食べていく。残すのは何となく気が引けた。

「手伝いましょうか?」

 ナポリタンを食べ終えたサニーが紙ナプキンで口を拭ってから、黙って食べているシャーロットに尋ねる。シャーロットは微笑んで首を振る。猫かぶりはこんな時でも止められなかった。

「まだこのスプーンは口をつけてませんから、大丈夫ですよ?」

 シャーロットが無言で見つめていると、サニーはシャーロットのパフェのアイスにスプーンを入れる。

「あまっ。」

 でしょー、とシャーロットは無言で頷く。では私も、と、ローズもスプーンでシャーロットのパフェのアイスをひと掬いする。

「あまーい、姫様甘いよっ」

 やっぱそう思うでしょー、と涙目のシャーロットは頷く。半分以上は食べたんだからね、と褒めてほしい気分になるのだった。

 それでも何とか食べ終えたシャーロットは、いつもは砂糖を入れる紅茶もそのまま飲み干し、渋っと思ったが口が甘くなっているからだと納得した。

 いつも飲む紅茶が高級品である自覚がない公爵令嬢シャーロットは、パフェに紅茶は合わないという結論を出したのだった。

 そんな様子を、ウェイトレスも店中の客もしっかり見つめているとは思ってもいないシャーロット達だった。

 『マリライクスのバッグを持つとモテるらしい。ハンサムな男子を二人連れた綺麗なおねえさんが喫茶店でイチャイチャとパフェを食べていた』、と後日、街の噂になっている事も知らない。


 喫茶店での会計を済ませ、次に時計屋に向かったのだが、途中で鉱物雑貨店に入った。ガラス窓越しに鉱物のアクセサリーを見つけたシャーロットが瞳をキラキラさせたのをサニーもローズも気が付いていて、中に入ってみようと誘ってくれたのだ。

「綺麗ねー。」

 シャーロットは小さな鉱物の細工物を覗き込むようにして見て回る。サニーもローズもシャーロットを気遣い、離れて静かに鉱物の細工物を見ているので、浮かれているシャーロットは恥ずかしくなってしまう。ローズがトートバッグを持ってくれたままなので、シャーロットは狭い店内も気ままに見て回れた。

「シャーロット、」

 アメジストのさざれ石のブレスレットを手にしたサニーが近寄ってきて、シャーロットの手を取り、そっと嵌める。手首に嵌ったブレスレットを目の高さに持ってきて、シャーロットは眺めてみる。1センチ角程の小さな紫色の石が連なっていて、同じ紫でも、深い色の石もあれば透ける石もあって見ていて飽きなかった。

「綺麗ねー、」

 思わず微笑むとサニーと目が合った。背が高いサニーはシャーロットよりも頭一つ分背が高かった。

「私の国ではこの石は絆を深める石です。あなたに贈りたい…。」

「そんな、高額なものを頂いては…、」

 シャーロットは断る常套句を口にする。貰って困るものは貰いたくない。 

「さざれ石なので、大したことないですよ、」

 近くにいた男性店員が声をかけてくる。「若い人たちには友情の証にと言ってお揃いで仲間内で買っていかれたりもしますよ?」

 余計な事を…!と思うけれど、シャーロットは諦める。友情の証なら仕方ない。

「では…、私も、サニーとフリッツに贈りたいです。」

 シャーロットも二つ手に取り、サニーとローズの手首に嵌める。

「今日は楽しかったので、御礼です。」

 シャーロットの微笑みにサニーは顔を赤くした。

 お会計を済ませ、それぞれの腕にアメジストのさざれ石のブレスレットをつけて店を出かけた時、シャーロットはピンクのさざれ石のブレスレットを見つけてしまう。ミカエルが喜びそうな、可愛らしいピンクのさざれ石のプレスレットだった。

「ちょっと先行ってて、」

 一人で店内に戻り、ピンクのさざれ石のブレスレットを手に取り、会計を頼む。シャーロットの上気した顔を見て、店員は何度も頷いた。

「ローズクオーツは本命用ですね。」

 ローズクオーツ? 本命? シャーロットにはさっぱり意味が分からなかったけれど、包んで貰ってワンピースのポケットに入れた。

 そんな様子を同じ店内にいた客や男性店員が見ていて、『マリライクスのバッグとさざれ石のアメジストのブレスレットを持つと幸運になるらしい。本命の男の子にはローズクォーツのブレスレットを渡すのがモテる女子になる秘訣らしい』という噂がたったのには、もちろんシャーロットは知らなかった。


 目抜き通りの隅にある時計店は、吹き抜けの天井高くまで壁時計が掛かっていて、カチコチとどこからか聞こえる音が静かに響いていた。

 奥の方に、店主なのか職人なのか、気難しそうな老人が手元の灯りに目を凝らしながら時計を修理している。

「こんにちはー?」

 ドアのベルの音よりはささやかな声で来店を告げると、老人が上目遣いにシャーロット達を見た。

「なんのよう?」

 時計屋に来たんだから時計に用があるんだけどなーとシャーロットは思ったが、黙っておく。喧嘩を買いに来た訳ではない。

「壊れてしまったので、修理して貰えないかなと思いましたの。」

 ローズからトートバックを受け取り、目覚まし時計を出す。老人に目覚まし時計を渡すと、裏返して螺子を開き、中を覗いた。

「ああ…、これは時間がかかるけど、直るよ。」

「よかった…。」

「時間がかかるけどいいかい?」

 時計だけに時間がかかるのね、とシャーロットは心の中で笑う。

「はい。大丈夫です。」

「そうだな…、一週間くらいほしいな。」

「大丈夫です。」

 大丈夫とは実に便利な言葉である。

「ハーディ、こっちに来てくれ、」と、奥の工房の方へ声をかけた。

 親方、何ですか?と聞きながら、奥から出てきた前掛けをした若い男性は、眼鏡を直しながらシャーロットを見つめた。興味深そうにシャーロットを観察している。

「こちらのお嬢さんに、伝票書いてもらってくれ。」

 ハーディはがさごそと伝票の束を出して、万年筆を手渡してくれる。シャーロットよりは背が高くて、年も20代前半のようだった。

 シャーロットは名前と寄宿学校の住所を書いた。この方がいつもいるから連絡が取れやすいと思ったのだ。伝票の控えを貰って、大切に財布の中に忍ばせる。

「寄宿学校…、どおりで。君はお姫様なんだね。」

「姫様は姫様ですよ?」

 ローズが笑いながら茶化す。

「御供が二人もいるでしょ?」

「それもそうだ、」サニーも笑う。

「来週、伺ってもいいですか?」

 シャーロットが尋ねると、親方もハーディも頷いた。

「それまでに何とかしとくよ、お姫様。」

 来週は課外活動じゃないから、どうやってこようかしら…、とシャーロットはぼんやりと思案するのだった。ひとりで来れるのかしら。


「さざれ石のブレスレットでもう十分なんですが、本当にプレゼント買いに行くんですか?」

 ローズが遠慮がちに言ったけれど、シャーロットは気にしないで目的の皮革製品の工芸店へと向かった。サニーはにこにことついてくる。

 店の入り口の前で、シャーロットはローズに宣言する。

「実用的で丈夫で長持ちして買い替えをしなくていいもの、って、ここが最適だと思う。私、お財布がいいと思うの。いいなと思うものがあったら教えてね、」

「え、姫様。」

 慌てるローズを気にかけず、シャーロットは店の中に入った。店というよりは工房の中が一部販売所といった風情の店内には、ごつい男性が何人か作業をしていた。頭には黄色い布を巻いて、揃いの紺のエプロンをつけていた。

「いらっしゃい、」

 一番髪が長くて一番細身の男性が声をかけてくる。

「何を探してるんです、お嬢さん、」

 やわらかい物言いに、シャーロットはドキドキしてしまう。大人の男性だわ…と思う。

「お友達にプレゼントでお財布を探しているのです。見せて貰ってもいいでしょうか?」

「こちらへどうぞ、」と案内された一角には、皮製品の雑貨がいくつも並んでした。皮に色を塗っているらしく、渋い色合いの赤やこげ茶、黒色と色はいくつもあった。

「素敵…。」

 シャーロットはどれもロータスに似合いそうだなと思う。ローズの顔を見れば、困ったような表情で、悩んでいるようにも見えた。

「選べないですよ、姫様。」

 どれも素敵だよね、とシャーロットは思う。

「こんな高価なもの、いただけません。」

 他の商品の値札を見て見当をつけたのか、ローズは全力で辞退しようとしている。

「これまでお祝いしてあげられなかった分も含めて、だから、こんなもんよ?」

 ここ2年程ロータスとは会えていなかった。それを含めるとしても、シャーロットには物足りない気がしていた。

「これが一番素敵、」とシャーロットは焦げ茶色の財布を指差す。

「あなたの瞳の色と同じだわ。」

「そうですね、それにしましょう。」

 サニーが微笑む。ローズは何かを言おうとしたのか口を開け、何度も瞬いていた。

「では私は同じ色の小銭入れにしましょう。揃いで使ってもらえるように。」

「ではこれとこれを。プレゼント用に包んで貰ってもいいですか?」

 シャーロットとサニーが会計をしている間、ローズは黙って窓辺に立ち窓の外を見ていた。

「どうしたの?」

 シャーロットが尋ねると、泣きそうな顔になったローズが呟いた。

「私は…、前世でも誰かに誕生日を祝ってもらう事などなかったのです、姫様。ずっと楽しいことなど自分には関係ない事なのだと思って生きてきました。でも、今日は楽しくて…、こんなに楽しかったのはいつからぶりなんだろうと思ってしまって…、」

 シャーロットはぽんぽんとローズの肩を叩く。

「私はこれまでも、この先も、あなたと友達よ。あなたが生まれてくれて、私は嬉しいわ。」

「姫様…」

 シャーロットは考えていた。本当は実用的でも丈夫でもない薔薇のコサージュが欲しかったのかもしれないけれど、言えなかったんだとしたら、ごめんね、ローズ、と。

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