<134>エリックルートは続いていくようです
翌日は良く晴れて、シャーロットはジョシュアとバランを連れて朝から公務に出かけた。
美容担当の侍女達に頼んで、いつもならピンク系でまとめてもらうお化粧をローズ系に変えてもらい、お気に入りのスズランの香水はやめて、母の好きなフリージアのブーケのような香水を吹きかけてもらった。黒いタイツを履いて、柔らかい新芽のような黄緑色のニットのアンサンブルのスーツの上に上質な黒色のコートを着ていた。今日はいつもとは気持ちを切り替えたかった。
王都にある国内最大の礼拝堂の前で、遠く東方の国の使節団と待ち合わせをしていた。執事のジョシュアとバランとに守られながら、茶色の皮のポシェットの中から懐中時計を出して姫様人形とまふまふキツネを眺めていると、時間通りにシュトルクは遠く東方の国の貴族や軍人といった使節団を従えて現れた。シュトルクは黒いタートルネックのセーターを中にチャコールグレイ色のスーツを着て黒いトレンチコートを羽織っていた。背が高い使節団の集団の中にいると私が背が低いのが目立ってしまうわ、とシャーロットは思った。
「おはよう、シャーロット。今日はいつもと少し雰囲気が違うな。」
口紅の色に気が付いたのかしら? シャーロットは少し驚いてシュトルクを見つめ返した。
「そうですか? 今日はご案内係として一生懸命勤めさせて頂きますわ。」
猫を被って微笑んだシャーロットに、シュトルクは腕を差し出した。
「ほら、ここに手を添えて欲しい。案内係が傍を離れるのは良くないからな。」
案内係が寄り添って案内するのも良くないと思うけどなあ、とシャーロットは思った。躊躇っていると、シュトルクがシャーロットの手を取って自分の腕に添えた。ブルーノもこういうの、好きだったわ。シャーロットはふいにブルーノの碧い瞳を思い出した。
礼拝堂の案内係がやってきて、お辞儀した。
「今日はようこそいらっしゃって下さいました。私がご案内しますので、皆様、ついて来て下さいませ。」
使節団に通訳とジョシュアが説明すると、案内係に従って2列になって歩き出した。シャーロットはシュトルクと真ん中辺りに並んで歩いた。すぐ後ろにはバランとジョシュアが異国の軍人達と一緒に付き従ってくれていた。遠く東方の国の平均身長は高いのか、誰もシャーロットよりも頭一つ分は背が高い。バランとジョシュアも背が低い方ではないけれど、この集団の中では背が低いと言えた。
「今日はお姫様達はいらっしゃらないんですか?」
シャーロットがそれとなくシュトルクに尋ねると、シュトルクは少し顔を顰めた。
「兄夫婦も妹達も、城でこの国の美術品や文芸を味わうのだと言って、朝からラファエル姫達とお茶会をしている。もちろん、この国の王子も一緒だ。」
そっか、ミカエルはそっちの接待を任されちゃったんだ。つまんないわね~。シャーロットは少し口を尖らせた。おじさんばっかりなんだもの、女の子と一緒がよかったわ。
「この礼拝堂は古そうだな。」
石造りの回廊の上には赤い絨毯がひいてあった。礼拝堂自体は高い窓の明かりが主で、ほとんど照明がなかった。中庭には光を遮るような木すら植えられていない。水を湛えた噴水池があるだけだった。
「案内係が設立年を説明してたでしょ? 聞いてなかったの?」
「君が説明してくれないなら聞かない。」
やれやれ。シャーロットは心の中で溜め息をついた。見目麗しい王子様は、今日も朝から我儘だ。
「説明が聞こえるように、もっと前の方へ行きましょうか?」
「いや、これでいい。警護の者達もこの方が都合がいいだろう。」
「ねえ、」
シャーロットはシュトルクを見上げた。
「案内係は私ではなくて他の者でもよかったんじゃないのかしら?」
傍にいるだけじゃないのかな。
「君と一緒にいたかったから、これでいいんだ。」
それ、観光に意味あるのかな。
シュトルクは優しくシャーロットを見つめた。
「来月、またこちらに来る用事がある。その時は街を案内してほしい。」
ちょっとそれは無理かも。シャーロットは寂しそうに微笑んだ。
「街の案内を頼まれても出来ないわ。私、あんまり出歩かないもの。」
「どうして?」
「私が街へ出ると警備の為に警護の者が増えてしまうでしょう? 私は一応公爵家の娘だし、王太子殿下の婚約者だもの。だから、出歩かないの。」
平然として答えたシャーロットに、シュトルクは意外そうに言った。
「君は案外真面目に自分の役割を果たしているんだな。この前の舞踏会のように病気と偽って公務もすっぽかすのかと思っていた。」
「酷い言いようね。」
シャーロットは顔を顰めた。
「私はもともと舞踏会は欠席すると伝えてあったわ。三日も公務が続くのは疲れるもの。」
「そうか。通訳はそういう細かい機微を伝えるのが苦手なんだな。」
異国の王子のシュトルクとこの国の通訳との間には身分の壁がある。その間にはおそらく、何人か仲介する者が存在するのだろう。どこかで伝言ゲームが間違っちゃったんだわ。シャーロットは肩を竦めた。
「もしかして花束も通訳に頼んだりした?」
「ああ、よくわかったな。」
「豪華な花束って言ったの? それとも高価な花束?」
「私は華やかな花束と伝えた。君は、その方が好きだろう?」
あれは値段が高いだけの花束に思えた。
「花の好みは特にないわ。でも、お花、ありがとう。」
シュトルクは機嫌良さそうに微笑んだ。
「では、私が一緒に街を探検したいと言ったら、ついてきてくれるのか?」
「そうね、」
シャーロットはブルーノと街を散歩して歩いた冬の日を思い出した。あれも、街探検だったんだわ。たったひと月ほど前の出来事なのに、もう戻れない。
悲しく思えてきて俯いたシャーロットに、シュトルクは優しく尋ねる。
「怖いのか?」
「いいえ、行くわ。そういうのは好きよ?」
一緒に迷子になって一緒にドキドキする相手は、この人じゃなくてもいいのに。シャーロットは無理やり笑みを作って微笑んだ。
礼拝堂の古い地下水廊の一部を見学して、階段を上り屋上から王都の街並みを眺めた。お城から見る景色とはまた違って、屋根の上を歩く猫や鳩が飛ぶ様子を間近に見られた。
「あの辺りがシャーロットの屋敷の方角だろう?」
柵に手をかけ、シュトルクがシャーロットを抱き寄せて指を差した方角を見ても、シャーロットにはさっぱりわからなかった。
「あのね、あなたと違って私、背があまり高くないの。そんなことを言われても良く判らないわ。」
見えるのは空と屋根ばかりだった。
使節団は誰もが背が高く、くすくすと忍び笑いをしながらシャーロットとシュトルクの会話を聞いている。シャーロットが柵から離れようと手を離すと、突然シュトルクがシャーロットを抱き上げた。
「きゃあ、」
シャーロットはシュトルクの首を抱き締めた。
「ほら、これで見えるだろう?」
恐る恐るシュトルクが顎で差す方向を見ると、自分の屋敷の見慣れた屋根が見えた。
「見えたわ。ありがとう。もう大丈夫だから。」
抱きかかえられたままシュトルクを見つめると、シャーロットを見てシュトルクは囁いた。
「お礼は?」
「ありがとう?」
「それだけじゃ足りない。」
キスなんか絶対しないから! シャーロットはシュトルクの耳に唇を寄せた。
「シュトルク様、ありがとうございます。」
言い終わったシャーロットがじっとシュトルクを見つめて微笑んでいると、根負けしたのか降ろしてくれた。
階段を下りて礼拝堂を出ると、すぐ近くの公会堂を見学した。古くからあるこの国での音楽の最高峰の建物で、高い天井にまで届きそうなパイプオルガンの演奏を聴くことが出来た。
大胆な演奏とは打って変わって背が低くて小柄な老獪な演奏者は、ちょこんとお辞儀してシャーロットの手を取って、「お会い出来て光栄です、青い姫君」と言った。
「あなたのお陰で、私は手に入れたかった楽譜を手に入れることが出来ました。」
首を傾げたシャーロットに演奏者は言った。
「異国の地を歩めなくても、代わりに楽譜を輸入出来るようになったのです。」
シュトルク達使節団の面々は満足そうに微笑んだ。
「青い姫君に感謝します、」そういうなり深々とお辞儀した。
「私も、お会いできて光栄です。素敵な演奏をありがとうございました。」
シャーロットはまた青い姫君だよ、と思いながら猫を被って優しく微笑んだ。青い姫君っていったい何なんだろうね。みんな勝手にシャーロットの上に理想を重ねていくのだろうか。自分ではない誰かの代わりにここにいるようで、シャーロットは虚しく感じた。
公会堂の職員総出で見送られながら、シャーロットはシュトルクと馬車が停めてある礼拝堂まで一緒に歩いた。
「君はどこへ行っても、何色の服を着ていても青い姫君なんだな、」
呆れたように言ったシュトルクにシャーロットは微笑んだまま、首を傾げた。
「あなたの国に行っても、そう言われたりするのかしら?」
「言われるだろうな。」
絶対行かないから! シャーロットは心の中で誓った。
「この後は、お城へ戻るんでしょう? 」
「ああ、ペンタトニーク公も交えて貿易で名を成す商人達と会食をする予定がある。この使節団のほとんどは、そっちが目的な者達ばかりだよ?」
シュトルクはにやりと笑った。
「君の公爵領からも商人達が来ていると思うが?」
「さあ、どうでしょう。私はそういうことは知らないの。父や弟が知っていればいいことだから。」
シャーロットは微笑んで答える。「私はいつか嫁ぐ身だから、そういうことには関わらないの。」
ミカエルと結婚したら、自分の実家の領地のことだけではなく国全体の産業を見ることになるだろう。その時に、偏りがあってはならない。頼ることはあっても贔屓をすることは出来なかった。シャーロットは静かに微笑んだ。
「そろそろお別れね。今日は楽しんでいただけたかしら?」
「まあ、それなりに。君は来ないのか?」
「私は学校へ帰らないといけないもの。お昼は自分のうちで食べるわ。」
シュトルクは無言で微笑んだ。
「では、これを。」
侍従に1冊の青い本を持ってこさせた。シュトルクはにやりと笑った。
「今度会った時、感想を聞かせてほしい。」
あら、宿題を出されちゃったわ。シャーロットは受け取りながら苦笑した。
シュトルク達が馬車に乗り込んだのを確認すると、シャーロットも公爵家の馬車にジョシュアとバランと一緒に乗り込んだ。
「何事もなくて良かったですね、お嬢様、」
ジョシュアがほっとしたように言うと、バランも頷いている。
「そうね、家に帰ったらやっとゆっくりできそうね。今日はありがとう。」
シャーロットはにっこりと笑って、膝の上に置いた青い本を撫でた。
動き出した馬車の窓からシャーロットがぼんやりと大通りを眺めていると、修道女達の集団が歩いているのが見えた。この近くには修道院がある。そこから歩いてきているのだろう。
粛々と歩く修道女達の中に、ローズの顔を見つけた。ローズは髪を短く切っていて、おかっぱ頭になっていた。琥珀色の短い髪のローズは黒いワンピースを着ていて、白い頭巾を被り灰色の修道服を着ている修道女達の中で目立っていた。
「どうしてあんな頭をしているのかしら…、」シャーロットは思わず独り言を呟いた。
あれじゃ、髪が結えないじゃないの。舞踏会に出られないわ。ローズのせっかく伸ばしていた髪の長さを思うと、もったいない気がしていた。
交差点で止まった馬車の中から手を振ると、ローズの傍に付き添っていた修道院の院長が先に気付き、会釈してくれた。シャーロットも会釈すると、ローズが小さく微笑んだ。その様子を傍にいた別の修道女が窘め会釈するように言ったのか、不満そうな顔をしてローズが会釈してくれた。
うっかり手も振れないじゃない。いろいろ大変そうだわ、とシャーロットは思った。
馬車が動き出そうとすると、馭者が気が付く前に馬車の中に男性が乗り込んできた。
「シュトルク!」
びっくりしてシャーロットは思わず名を叫んでしまった。にっこり嬉しそうに、シュトルクはシャーロットの隣の席に座りこんだ。
「シャーロット、公爵家へ帰るんだろう、一緒に行こう。」
コートのボタンを外しながら、シュトルクは息を整えるように言った。
「あなたは主賓じゃないの? この後、会食があるのではないのかしら?」
「そんなものは爺共に任せておけばいい。」
向かいの席に座っていたジョシュアとバランが、殺気立った表情でシュトルクを睨みつけていた。
「大丈夫よ、この人は何もしないわ。あなた達がいるもの。」
シャーロットは微笑んで場の緊張を和らげた。
隣に座ったシュトルクは足を組んで座ると、コートを脱いだ。
「走って追いつかなければ諦めようと思っていた。間に合ってよかった。君のうちで、君と食事がしたい。」
馬車はもう走り出している。シャーロットは溜め息をついて頷くしかなかった。
家に帰ると馬車寄せまで出迎えてくれた執事達に訳を話して、昼食の場を設けてもらった。エリックはすでに寮に戻っているらしく、父と母は驚きながらも歓迎していた。
ジョシュアとバランに改めて礼を述べると、シャーロットはシュトルクの対応を他の執事に任せた。
「食事の用意が整ったら呼んでね、」と告げると、シャーロットは自分の部屋に戻って部屋の鍵をかけ、本を枕にソファアに寝転がった。眠くて堪らなかった。
昨日は寝たようで寝ていなかった。ブルーノの顔が思い出されて苦しかった。いつかはそんな日が来るだろうとは思っていたけれど、こんな形でその日を迎えようとは思ってもいなかった。頭では割り切っていても、心が付いてこれていなかった。
明日から学校でどんな顔をして会ったらいいんだろう。ソファアに横になりながら眉間に皺を寄せて瞳を閉じていたシャーロットは、いつのまにかすっかり寝てしまった。
目が覚めると、時計は2時過ぎだった。
おなかすいた…。
食堂で料理長に何か作ってもらおうと廊下を歩いていると、応接室から楽しそうな声が聞こえてくる。
「何かしら?」
通りかかった侍女に尋ねようとすると、「お嬢様、お昼はどうなさいますか?」と先に尋ねられた。
「ありがとう。もうじき寮に帰るから、おやつをお願い。サンドイッチとか、そういった軽食が理想的なの。すぐに用意できそう?」
「奥様からはご用意をすでに言い遣っております。大丈夫です。では、お部屋に用意しますね。」
「あら、お母さまが? 助かるわ。ありがとう。」
私が寝てしまうのは予定のうちだったのかしら、とシャーロットは照れくさく思った。
楽しそうな応接室も興味あるな~と思いながら部屋に戻ると、早速侍女達がおやつの用意をしてくれた。何故か二人分あった。
「起きたようだね、シャーロット、」
部屋のドアをノックしながらシュトルクが入ってきた。部屋に入るなり花瓶の花を見た。
「もしかしてこれが私が頼んだ花か?」
「ええ…。」
言い難い趣味の悪さでしょ?
「改めて何か送り直すよ、これは忘れてくれ。」
シュトルクは姿勢を正して座るシャーロットを見つめた。
「まだお帰りではなかったのですね?」
「ああ、君が起きるのを待っていた。」
「起こしてくださればよかったのに。」
待っていられるとは思ってもいなかった。少しだけ、いなくなってくれていることを期待していた。
「君が私の名前を呼んでくれたら、考えよう。」
「王子様は王子様でしょう?」
「シュトルクと、さっきは呼んでくれた気がするのだが?」
「そうでしたかしら?」
あれは咄嗟の驚きだった。シャーロットはなかったことにしたかった。
「私も一緒にお茶をしよう。いいかい?」
「嫌と言ってもそうするのでしょう?」
「よくわかっているじゃないか。」
シャーロットと隣り合うように椅子に座ると、シュトルクはテーブルの上にあるコーヒーとサンドイッチ、果物の盛り合わせを眺めた。
「君のうちの料理人はいい腕をしているな。君と食べたチョコレートもいい味だった。君と一緒にいると質の良いものが食べられる。」
「あなたは王子様なんだから、なんだっていいものが食べられるでしょう?」
「いいものが食べられる環境にいても、それを選ぶ者の舌が肥えていなければ、美味いものなど食べられない。ここは舌の肥えた者がいるのだろう。」
壁際に控えていた侍女達は指摘するように一斉にシャーロットの顔を見た。
「ほら、ここの者達は正直だ。君だろう、シャーロット。」
自覚のないシャーロットは首を傾げた。公爵家に集まってくる高級な食材を一流の料理人が調理した料理を食べて育ち、週4日もお城に通って舌を磨かれて育っているシャーロットは、家族の中で一番味付けに細かかった。感想を口にしないものの、食べ残したり食べている最中に表情が変わるので、給仕をする侍女達はその様子を料理長に伝えていたのである。
「よくわかんないわ、」
シャーロットは聞き流しておしぼりで手を拭うと、サンドイッチを手に取ると頬張り黙々と食べた。シュトルクもおしぼりで手を拭い、サンドイッチを摘まんだ。
「やはり美味い。君が傍にいれば私の食環境は劇的に変わりそうだな。」
誉めてもらったのだろうと理解できたシャーロットは、食べながら目を細めて笑みを作った。
コーヒーにフレッシュと砂糖をしっかり入れて飲むシャーロットを見て、シュトルクは何も入れないコーヒーの香りを楽しんだ。
「いい香りだな。」
コーヒー党のシャーロットは好きなものを誉めてもらうと嬉しかった。シュトルクと食事をしていても、回数を重ねるごとに慣れて来たのか心地よく感じていた。味覚が近いのか、美味しいと思うものが似ていた。シャーロットはシュトルクと目を合わせて微笑んだ。
「君と毎日こうして食事したい。」
「船の上で?」
「陸の家でも。」
シュトルクは何を考えているんだろう、シャーロットはコーヒーを飲みながら思った。
「あのね、私はもうじき学校へ帰るわ。」
「ああ、そのようだな。」
リンゴのウサギを摘まんで、シュトルクは答えた。この人もよく食べる人だわ。シャーロットはウサギの頭から食べるのか体から食べるのかを観察していた。シュトルクは赤い皮を剥ぎ取ると、そこから食べた。この場合、頭からなのかしら?
「あなたはどうするの?」
「私も帰るよ? さっき城から馬車が来ていたな。」
「用意がいいのね。」
「ああ、侍従達にはそのように言ってから別れていたからな。」
シャーロットの分の果物も食べてしまうと、シュトルクは満足したように言った。
「また一緒に出掛けよう、また一緒に食事もしよう。来月が楽しみだ。」
「それなんだけど、あなたを選ばなかったわよね、私。」
ここはきっちり確認しておかないと。この人は何を考えているのだろう。
「そうだな、あの時はそういう選択をしても、まだ時間はあるだろう? 君が卒業して結婚するまで、あと2年もある。」
「その2年の間にあなたが先に結婚してしまうかもよ?」
「そうなるかもしれないが、今のところ相手が君しかいない。」
ふっと微笑むと、シュトルクは言った。
「いっそのこと、今から結婚してしまうか? それでも構わないが?」
「遠慮しておきます。」
シャーロットがにこやかに微笑むと、シュトルクは面白そうに笑った。
ありがとうございました