表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/153

<12>悪役令嬢、意外にモテるようです

 さざれ石のアメジストの紫色のブレスレットは美しかったけれど、くれたのはサニーなので、シャーロットにとっては悩みの種の一つでもあった。友情の証という理由で3人でお揃いではあったのだけれど、ああいう事をされてしまうと、どう考えても違うように思えてしまうのだ。

 机の引き出しにしまうと、ため息をつく。今日はミカエルはミチルの日で、さっきから黙々と自分の机で勉強に励んでいる。

「ため息なんかついてないで、シャーロットも勉強頑張るんだよー。」

 背中越しに励まされる。

 期末テストが近付いていた。勉強会というイベントは発生しなかった。シャーロットはいつも通り、ミカエルと一緒に寮の自分の部屋で勉強していた。

 ミカエルは今回も、2年生と1年生の分を何とか日程を調整して受けるつもりらしかった。選択授業の関係で可能だったようだ。

「そうね、」と適当に返事をして、シャーロットは腕組みをして考えていた。

 実はあまり期末テストを心配していなかった。日頃からミカエルの分のノートと自分の分のノートを2冊作って授業に取り組むシャーロットは、割とどうにかなりそうな気がしていたのだった。

 ミカエル様様なのよね…、と思う。お城での学びの場でも、ミカエルに助けて貰っていた気がしてならない。

 ミカエルが補習になったら、自分も責任もって夏休みを返上して寮生活をしようかな、と思うシャーロットなのであった。


 期末テストは無事に終わり、成績順位表が週明けの教室の前の廊下に張り出されていた。ミカエルは2年生で15位、1年生で7位だった。シャーロットは3位だったので、ミカエル様様だった。ありがたいわーと思わずミカエルの名前を見つけて拝んでしまった。

 ちなみに1年生の1位はサニーで、2位はエリックである。リュートは10位で、ローズは75位だった。今回の期末試験から補習が始まるため、100人中の順位で80位からその対象となるので、ぎりぎりといった具合だろう。

 シャーロットの順位を見てローズは、「さすがです、姫様、」と褒めてくれた。ローズは、「私は理想的な結果です、」と笑う。

「最低限のコストで最大限の成果を狙う、これが最良のコストパフォーマンスなのです。」

「コスト?」

「ああ…、えっと。少ない勉強量で、寮の仕事もこなして補習を受けなくていい成績を確保して、どうどうと補習から回避する、って感じです。」

「なるほど…!」

 また後ほど、と去っていくローズは、コストとか、シャーロットにはよく判らないことを言っていた。同じ前世持ちのミカエルなら理解できるのかな、と首を傾げる。

「シャ-ロットお姉さま、勝ったんだから、なんか寄越せ、」

 近寄ってきた弟は突然理不尽な要求をしてきたので、シャーロットは無言でせせら笑う。ミカエルの努力に比べたら、エリックの2位など大したことはないのだ。

「あー、そういうの良くないんだぜ。弟を無視するの、良くないんだー、」

 エリックはシャーロットに文句を言う。

「そうだな、今度の誕生日、ちょっと期待してるから、そういう事で、」

 どういうこと?! 意味が分かんないこと言いだしたなとシャーロットは思う。首を傾げてエリックを見つめる。 

「私の誕生日にも期待していいのかしら?」

 ふふっと笑うと、エリックは「じゃあ、交換会だからね」、と約束してくる。弟とお誕生日プレゼント交換会なんて、どんな罰ゲーム?! 

 つい、シャーロットは顔を顰めて、エリックに、え、嫌だ、と、うっかり本音を言いそうになってしまった。いかんいかん。ここは学校で、ここでの私は大人しくてお上品な公爵令嬢。

 エリックが絡んでくると、つい、実家での、自室での私、が出てしまう。猫をしっかり被り直して、ホホホ、と笑みを無理やり作る。

「今まで交換会なんて、やったこと、あったかしら?」

 二人の会話を聞いていたのか、サニーも話に割って入ってきた。

「私は1位でしたよ? シャーロット、」

 あー、はいはい、そうですねー、とシャーロットは聞き流そうとする。

「おめでとうございます。」

 社交辞令なお愛想で十分でしょう、と微笑む。

「私には、何か、くれないのですか?」

「はい。」

 うっかり即答してしまって、しまった、大人げなかったと反省する。しまった。いかんいかん。猫がずれている。改めて猫を被り直す。

 しょんぼりした顔のサニーに、少し気の毒になってしまうシャーロットは、優しく微笑みかける。

「サニーのお誕生日、知りませんもの。」

「私は8月5日です。」

 嬉しそうにサニーが答えると、エリックが興奮して言った。

「おお、俺の誕生日と近っ、俺は8月25日だよ、」

「シャーロットは?」

「…私は、9月24日です。」

 仕方なくシャーロットが答えると、サニーは嬉しそうに微笑んだ。

「しし座とてんびん座は相性がいいんですよ? 知ってました?」

「いいえ、」と微笑んでおく。どうでもいい情報だった。

 ミカエルの誕生日の2月14日さえ覚えておけば、シャーロットには十分だった。みずがめ座とてんびん座だって相性がいいんだよ? 知ってた? と思うけれど内緒にしておく。

「ねえねえ、3人で、夏休みに交換会しない?」

 交換会が好きな弟は、サニーとシャーロットに提案する。

「学食で待ち合わせて、お互いにプレゼント持ち寄って、さ。」

「いいですね、夏休みは私は帰国しない予定です。」

 サニーは意味ありげにシャーロットを見つめる。「いくつか、この国での公務があります。」

 シャーロットは走って逃げだしたくなる衝動を抑えて、黙って聞いていた。め、めんどくさい…、弟と夏休みにわざわざ外で会うとか、めんどくさい…! しかもサニーもだ、絶対めんどくさいことになる…!

「あー、成績上位の人達が、なんか楽しいこと決めてるよー?」

 今日はミチルの日なミカエルがやってくる。「ナニ楽しそうなこと決めてんのさー、混ぜてくれたっていいじゃんかー」と、ぶーたれている。か、可愛い…、ミカエル可愛すぎる…! シャーロットはキュンキュンしながら冷静になろうと努力する。

「じゃ、そういう事で、3人のお楽しみね。日にちはまた決めよう、」

 エリックは教室に入っていった。

「ミチル、健闘しましたね、」

 サニーはミチルを誉める。王者の余裕だ、とシャーロットは思う。1位はなかなか取れないもんなー。

「まあね~。」

 ミチルは得意そうに笑う。シャーロットはハラハラしてしまう。ミチルがミカエルだとどうして気が付かないんだろう…!

「サニーは1位だったじゃん? シャーロットに、エリックみたいにおねだりすんの?」

 にやにやと質問するミチルに、シャーロットはドキドキしていた。け、牽制かけてる?

「ええ。誕生日に、何か貰います。」

 へー、と笑うミチルに、絶対あとで荒れる!とシャーロットは思う。

「ミチルも、何か貰うんですか?」

「そうだね、」

 ミチルは人差し指を口に当てて、ウインクした。「秘密、だよー?」

 か、かわいー!!! シャーロットは顔が真っ赤になって、あまりの可愛さに泣きそうになった。もうね、私、十分ご褒美貰った気分だから、と、心の中で身悶えしながらシャーロットは砕けそうになる腰を必死で支えた。感情のふり幅の大きい日である。

 予鈴が鳴って授業が始まったので教室に入ると、隣の席に座ったミチルが、体をくっつけてきた。

「な、何?」

 さっきからキュンキュンが止まらないシャーロットは、頬が赤いままだった。

「シャーロット、僕、シャーロットが欲しいって言ったらどうする?」

 囁く声にシャーロットは溶けそうになる。

「ミ、ミカエル…?!」

「冗談だよっ」

 揶揄うのやめてよねー、と思うけれど、シャーロットは我慢する。冗談だよという割には冗談に聞こえなかったからだった。

 ぽむぽむとミカエルの頭を撫でる。揶揄われたことへのお返しだった。

「何?」

「ちょっと、ときめいてみた?」

 くすりと笑って尋ねてみた。

「好きな子にして貰わないとダメなんでしょう?」

 顔を赤くして黙ったミカエルがまた可愛くて、シャーロットは今日は、ほんと、キュンキュンがとまらないとしみじみ思うのだった。


 王族用の寮の部屋に一緒に帰ると、さっそくシャーロットはミカエルに捕まってしまって、キスをせがまれる。ソファアに押し倒されて、身動きできない。

「え、15位だった気がするけど?」

 シャーロットが逃げようと抵抗すると、ミカエルはぶーたれる。

「ミチルで7位だったじゃん。」

 しまった、両方で、と約束をしておけばよかった。シャーロットが思っても遅いのである。

「ご褒美、ご褒美、」

 ミカエルの催促にシャーロットは流されてしまう。

 いかんいかんと思いつつ、約束を破るのもいかん…とも思っちゃうのだ。

「ミカエル、目を閉じて、じっとして、」

 シャーロットは仕方なくミカエルの頬に手をあて、目を閉じて大人しく待つミカエルの唇にそっとキスをする。

 唇を離そうとした時、ペロリと唇を舐められる。

「な…!!」

 薄目を開けてシャーロットを見ていたミカエルと、目が合う。

「ごちそうさま、」と笑うミカエルに、顔を真っ赤にしたシャーロットは恥ずかしすぎて両手で顔を覆ってしまう。

 な、舐められた…!! 

 真っ赤になってしまうシャーロットなのであった。


 夏休みの間も学生寮は普通に学生が住んでいて、確かに実家に帰る者もいたが、部活の関係で残ったり補習や補講の関係で残ったりする者がいて、あまりいつもと変わらなかった。

 ミカエルも家に帰らないで寮に残っている生徒のうちの一人で、今日はミカエルと週末を過ごすためにシャーロットは寮に戻ってきていた。

 シャーロットは7月の半ばに夏休みが始まってから、実家である公爵家の王都の屋敷に戻っていた。寮にいる理由がなかったからだった。同じようにエリックも屋敷に帰ってきていて、シャーロットにとってはめんどくさい事に、なにかしらと絡まれていた。朝昼晩と食事時に、弟のくだらない話に付き合うのである。

 王族用の寮の部屋に行くと、ミカエルが待っていてくれた。

「シャーロット、久しぶりだね~」

 ミカエルは部屋に入ってきたシャーロットに、嬉しそうに抱きついてくる。ミカエルはミカエルの格好をして制服姿だった。シャーロットも学生寮の中にいるので、制服姿で、二人は抱きしめあって笑った。

「一週間ぶり?」

「うん、一週間ぶり。」

 週末、土日二人で過ごす約束をしていた。ミカエルは月曜日から金曜日まで補講を受けていた。

「今日ね、理解度の確認テストだったんだ、疲れた。」

 ソファアに二人して座って、ミカエルの話を聞く。

「これで、1年生の分の必修科目の補講は終わった、かな。」

 夏休みに特別講座として開かれる、2年生3年生対象の補講は、基本的に1年や2年の時に家庭の事情で試験を受けることが出来なかったり成績が悪く単位の獲得に失敗した者が対象で、この補講の確認テストでいい成績が取れれば単位として認めて貰うことが出来るのだった。

「あとは選択科目の補講なんだ…、」

 よしよし、とシャーロットはミカエルの頭を撫でてやる。賢くなりますように、と心の中で呟いておく。ミカエルはこの夏の補講で、ミカエルとしての1年生の分の単位と、2年生の分の保険的な単位を獲得できるだけ獲得するつもりらしかった。

「まあね、ミチルとして1年生の授業に出てるから楽勝っちゃあ楽勝なんだけど、それなりに大変だった…」

 夏休みのすべてにかけて、ミカエルの頑張りはまだ続くのだろう。せいぜい応援してみよう、とシャーロットは思うのだった。その理由が、早くミチルの姿に戻ってほしいから、というのは内緒である。

「お城での公務もあるし、なんとかして終わらせちゃいたいんだよね。」

 秋から冬にかけては社交のシーズンなので、何かしら王族としての公務が待っているミカエルは、公務のため休む必要が出てくる。病弱説を返上すべく、それなりに努力する予定らしかった。

 今週末の土日はそういうお城の王子様としてのお仕事が入っていなかったので、1学期の終業式の際に、二人で一緒にいたいねという話になったのだ。

 寄宿学校に入学してからはずっと、一緒にいない方が少ない生活をしているので、この一週間はシャーロットにとっても新鮮な一週間だった。今晩の夕食を学生食堂で食べるところから、二人の時間が始まるのだ。

 シャーロットは街にいって、エリックとサニーの誕生日プレゼントも買いたかった。一人で行くのも嫌だけれど、ミカエルの前で堂々と買いたいというのもあった。

「明日、街に一緒に行かない?」

 ミカエルが提案する。

「行きたい。買いたいものもあるし。」

「1位になったサニーと、2位になったエリックへのプレゼント?」

 やっぱり聞いてたんだな…とシャ-ロットは思った。まあ、説明の手間が省けて助かったけれど。

「そうなの。一緒に選んでくれる?」

「もちろん、」

 ミカエルは上目遣いに笑う。

「僕の婚約者に手を出そうとするサニーには、僕が選んであげましょう。」

 か、かわいー、可愛いよ、ミカエル…、久々にキュンキュンが止まらない。シャーロットはこういう悪戯っ子なミカエルに弱いのかもしれないと、ちょっと自覚する。

「それに、」

 ミカエルは何か思い出したのか、遠くを見て、シャーロットに目線を戻した。

「からくり屋敷、たぶんやってるでしょ、第一土曜だし、」

 にやにやと笑うミカエルに、まさかな~と思うシャーロットだった。

ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ