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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
築城京也の場合

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98/107

「いつもより多く回しております!」ってやるアレ

 おれは嘘がつけない質だ。


 その場の雰囲気で取り繕うことができない。なんというか、人を騙している気がして気が引けてしまう。

 嘘を言うより正直でいた方が生き方としては絶対に正しいじゃないか。


「うそつき!」

「うそじゃねーよ! ホントだよ!」

「くにひこくん、またてきとーなこといってんだ!」

「はやくボールかえしてよ!」

「だーかーら! ホントなんだっていってるだろ!」



「ボールは、かさのオバケがもってったんだよ!」



 友達は、誰も信じていなかった。


 邦彦くんは小さい頃からこういうトラブルが多かった。みんなからは嘘つきって呼ばれていた。邦彦くんを遊びに誘おうとすると、友達は嫌がるからあまり誘えなかった。


「うそじゃねーし……」


 だけど、うつむいて言い返す邦彦くんの表情は、とても嘘を言っているようには見えなかった。


 一方で本当のことだとも思えず、昔は邦彦くんのことを遠巻きにして見ていたっけ。


 ところで、当時ワールドカップで日本が決勝に進出したとかで、おれの周りでもサッカーブームがやってきていた。おれも父さんにねだって買ってもらった新しいサッカーボールをみんなに自慢していた。


 ある日におれがいつもみたいにサッカーボールを持って近所の公園に遊びに行っていた時だ。


 突然突風が吹いた。


 目を開けていられないほどの風だ。砂が目に入ったかもと両目をこすって、もう一度開けた時には手にボールはなくなっていた。

 慌てて探すと、ボールはおれの背丈よりも大きく跳ねながら向こうの角を曲がっていくところだった。


 当然、おれは追いかけた。まだピカピカのボールだったんだ。


 だけどボールは全くバウンドの威力を弱めることなく進んでいき、ついに草がぼうぼうに生えた空き地の中に吸い込まれていった。


 家と家の間にぽっかりとできた空き地だったが、長い間人の手が入らなかったのだろう、見上げるぐらい高い猫じゃらしが鬱蒼とした、猫じゃらしの森と化している。


 どうしよう。

 勝手に入ったら怒られるかな?


 だけど、ボールを諦めきれなかったおれは意を決して空き地の中に足を踏み入れた。


 とても静かな住宅地だった。

 風が猫じゃらしをなでるシャラララという音しか聞こえない。

 草を描き分けてボールを探している内に、おれはどちらから入って来たかもわからなくなった。四方は草の壁である。


 その時、バサッバサッという音が前から聞こえてきた。

 大人だろうか。怒られると思って身構えたおれは、


 草の間から、ビニール傘が浮かんでいるのを見た。


「えっ」


 おれの目の前で、ビニール傘が空中で一人でに開いたり閉じたりしている。骨が一本折れているから少しぎこちない。


 草の壁の上に覗けた光景をよく見ようと、そっと猫じゃらしを横に避ける。


 ビニール傘の足元には大小いろんなボールが転がっていた。中にはおれのサッカーボールもあった。

 もっと近付こうとした瞬間、後ろから肩をつかまれた。


「何やってんだよ…!」


 邦彦くんだった。ささやき声で詰め寄られる。


 いつの間に近付いたんだろうと思ったが、音がしなかったからもしかしたらずっとこの近くでアレを見張っていたのかもしれない。


「ぼくのボールが……」

「バカ! あいつにきづかれるだろうが!」


 おれたちの上に影が落ちた。

 いつの間にか、ビニール傘がおれたちの上に覆いかぶさっていた。

 邦彦くんが隣で息を飲むのが聞こえた。


 パチン


 ビニール傘が折りたたまれ、

 大きく、振りかぶる。


「にげろ!」


 おれたちは同時に走った。

 後ろからブンブンと傘が暴れている。あんなのにぶたれたら大けがしてしまう。

 傘は猫じゃらしを薙ぎ払いながらおれたちを追ってきた。おれたちは死に物狂いで逃げた。


 どこをどう走ったか覚えていない。とにかくやたらめったらな方向に走って、偶然空き地から出ることができた。

 空き地の外までは、傘は追ってこなかった。


 アスファルトの上で両手をついて、おれたちは荒い息を繰り返した。

 早い鼓動を抑えきれないまま、おれは叫んだ。


「なにあれ……!」


 すげえすげえ! 傘が浮いていた! 傘がボールを集めていた! 邦彦くんは嘘を言っていなかった!

 おれは興奮しきりで、邦彦くんはちょっと引いていた。


「なにって、からかさおばけ知らないのか?」


 からかさおばけ、ーー唐傘おばけ!?


「さいきんのからかさおばけって、ビニールがさなんだ……」


 衝撃だった。


 唐傘おばけによくあるギョロリとした目玉も、持ち手の代わりの下駄を履いた一本足もなかった。だけどあれは唐傘おばけだ、間違いない。きっと現代に合わせて進化したのだ。


 ふと、おれは気になって尋ねた。


「そーいやくにひこくん、なんであそこにいたの?」


 邦彦くんは「別に……」と拗ねた目をそらした。


「ずっとうそつき呼ばわりされんの、ヤだし」


 もしかして、とおれは恐る恐る重ねて問うた。


「ともだちのボール、さがしてたの?」


 なんてことだ。

 邦彦くんは正直者だっただけでなく、自分を信じてくれなかった友達のために、あの怖い唐傘おばけに一人で挑んでいたのだ。


 なんだ、邦彦くんはいい奴じゃないか。


 みんなが言うみたいに嘘つきで意地悪なんかじゃない。みんなが、誤解しているんだ。


 それが分かって、おれはすごく嬉しかった。


 ニコニコしているおれから邦彦くんは顔をそらした。


「アイツがおこっているうちはちかづけないから、きょうはかえる」


 そっけなく邦彦は言ったが、照れているのを隠しているのが分かった。


「なんでボールあつめてるんだろうね?」

「かさの上でボールまわすのがはやってるらしい。うまくまわせたらモテるんだってよ」

「からかさに?」

「おぅ」

「ほかにもからかさおばけいるの……」


 ショックが強すぎて、挨拶もそこそこに邦彦くんと別れてフラフラと公園に向かった。


 サッカーボールはどうしたのかと友達に問われてようやく、おれは唐傘おばけにボールを盗られたままだったことを思い出した。



「えっ……と、かさのオバケにとられちゃった」

「えー」

「うそばっかりー」


 本当のことを言っても信じてもらえない。

 邦彦くんの気持ちが、その時少し分かった気がした。

次回11月17日7:00に更新します。

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