地獄的挨拶は昭和風なお笑い界伝説のアレ
ーー軽快な音楽が、聞こえる。
おれは目を覚ました。
ありゃ? いつの間に寝たんだっけな。
しかもこんな教室のど真ん中で。
ドンドコと太鼓を、否、椅子を手で打ちつける音が囲んでいる。
おれはようやく周囲を見回す。
音に合わせてハカみたいな民族踊りを踊って輪を作っている小鬼たち。その頭に灯した蝋燭の灯りが不気味に揺らいでいる。
輪の中心には、おれ。
「わ、ぁ」
明らかに「何か」への供物を捧げている儀式の真っ最中である。そして供物は自分なのだと理解してしまう。
え? なんで?
パッと思いつく出来事がいくつかあってどれか分からない。
やっぱり昨夜にやった一人かくれんぼがダメだったのか? ちゃんと終わらせる前に寝落ちしちゃったもんな? 朝になってから風呂場の人形を回収したけど、やっぱりそれがいけなかったのだろうか……。
うろたえていると、輪の外にいる鬼たちのボスと目が合う。
教卓にドッシリと座っている大柄な鬼が、ジャラジャラと石を連ねた飾りをつけた槍を構えてこちらを見下ろしている。
下顎から見える牙が凶悪で格好いい。
本物だ。
地獄絵図とかでよく描かれる鬼だ!
零感のおれにもちゃんと見える、ということがすごく嬉しい。
だけど嬉しさを押し殺し、鬼に対して敬意を込めて手の平を見せ「ウガ」と挨拶をする。
鬼は反応しない。
やっぱりダメか? 鬼への挨拶の方法はどんな妖怪図鑑にも載っていなかったしなぁ。などと考えていると鬼がうっそりと動いた。
首元に水平にした手を当てる。
『ウガ』
ーー鬼への挨拶は「アイーン」が正解だったらしい。
次回11月14日7:00に更新します。
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