百年もすればタヌキだって目からビームを出せる
どれほどタヌキが奮闘しようとも、部屋の外へ逃れ出ようとする深淵を完全に抑え込むことはできない。
「逃げるぞ」
即座に下した巨人の判断は正しかった。
「シズさん!?」
「長く保たん」
メイコたちへ視線を配れば、彼女たちも異論はないと頷いた。
「あのタヌキ、何なんです?」
「封印」
メイコの問いに、シズは簡潔に答えた。
なるほど、あの深淵を長い間地面に縫い止め続けていたのだろう。メイコたちがずらしたが為に、封印が緩んだのだ。
メイコとヒナセが気まずそうに言葉を失う。
だがシズは「気にするな」と低く言った。
「どうせ呼ばれていた」
「……?」
メイコたちは首を傾げていたが、吾輩には分かった。
深淵はメイコたちに封印を解かせるためにこの空間に招き入れ、あの部屋に閉じ込めたのだ。
異界に呑まれ、人知れず消え去る他なかった吾輩が外へ出たい一心で願い続けた結果、メイコを招いてしまったように。
結果的に外へと連れ出してくれたメイコに、吾輩は恩と借りがある。
だからこそ、こんなことにならぬよう手を打ったというのに。
こうしている間も深淵の猛攻は止まらない。タヌキは手にしている瓢箪を振り回して応戦しているが、捌ききれなくなってくる。
グラウンドに着地したタヌキは、一瞬吾輩を振り返った。
互いに作り物の目でありながら、吾輩はかのタヌキの瞳に覚悟の色を見た。
静かに、首肯する。
同族のよしみである。
たとえ縁はなくとも、唯一吾輩だけがタヌキの意志を汲み取ることができた。
タヌキの目が光った。
比喩ではない、曇天の下でまばゆいばかりにタヌキの丸い双眸が輝いたのである。
逃げるまでの時間稼ぎはしてくれるようだ。
「た、タヌキーーっ!!!」
踵を返し、脱兎の如く逃げ出した我々の背中越しで。
タヌキの目から放たれた光線は、覆い被さらんばかりに襲いかかる深淵を薙ぎ払ったのだった。
タヌキ無双。
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