君の名は
本来開かないはずの陶器の口がパカリと開き、コーッと息が吐き出される。
皆が固唾を飲んで見守る中、タヌキの置き物は重々しい足取りで外へ出てきた。
一目見た瞬間、此奴は吾輩と同類だと気が付いた。形無き存在が器を得て現世に留まったモノ。正確には、吾輩の上位の存在であるが。
あのタヌキは作られてからかなり年月が経っていると見た。
長きに渡って保管され、大事に手入れされきたのならば魂を得ていたとしてもおかしくない。
タヌキは先程までの鈍重な動きからは想像もつかぬほど高く跳躍する。
パァンーーッ!!
いつの間にか我々に向けて迫っていた黒い影を蹴り弾く。
「た、助けてくれた……?」
影は触手のようにうねりながら、しかしタヌキからの予想外の反撃を受けて部室棟へと返っていく。だが、一本が戻っても二本、三本と飢えた手のように扉の向こうから出てくる。
その度にタヌキは跳ねる。
パァンーーッ!!
パァンーーッ!!
「お、」
深淵より出し闇を再び深淵へ還さんとタヌキは飛ぶ。それこそが自分を創り、そして大切に扱われてきたことへの恩返しだとばかりに。
そう、此奴の名は。
「お漏らしタヌキ……」
救世主を呼ぶにはなんとも締まらぬ名であった。
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