ついに奴が動き出す
ヒナセがこちらに気がついた。
「あっ、クマ」
「なにぃ!?」
ヒナセの言葉に、メイコが吾輩に飛びついた。
が、間一髪で避けた。危ない。
「見つけたわよ、このクソグマ! 逃げるなぁぁぁ!」
何を隠そう、吾輩は怒り狂ったメイコから逃げていたのである。
だが吾輩は悪いことをしていた訳ではない。スマホでやらねばならぬことがあった為、少々拝借していただけである。
あいにく、隠れている内に学内で異界に飛ばされ、小鬼に捕まった際にスマホはいずこかへ持ち去られてしまった。
「あっ待て! 私のロズ様のアクキーをどこへやったぁぁぁ!!」
スマホそのものを持ち出したことより、どうやらスマホケースについていた板の所在が問題らしい。
言い訳をする口を持たぬ吾輩は、逃げ惑う他なかった。
巨人が吾輩をつまんで「待ってほしい」とメイコを押し留めてくれなければ、吾輩の四肢はもがれていたやもしれぬ。
「あの! このクマさんのこと、もしかしてお二人はご存知なんですか!?」
「ご存知もなにも、うちのスマホのストラップよ」
「やりましたよ、シズさん! 貴重な手掛かりですよぅ!?」
巨人と奇妙な気配の女子はそれぞれシズ、ユメと名乗ると勢い込んでメイコに詰め寄る。
「あの、教えてください! 実は私たち、このクマさんを探していて……」
「待って。近い近い、ちょっと待って」
異界でも一切動じなかった流石のメイコもたじたじである。
「それより先に、逃げた方が良いと思うのよ」
「へっ?」
「あ、忘れてたにゃあ」
ヒナセも背後を振り返る。
「あの、ぼくたちチャイムが鳴ったと思ったら、お札だらけの暗い部屋に閉じ込められていてですね」
「ム……?」
「扉は開かないし、何か仕掛けでもないかとあちこち触ってて……もう怪しげに部屋の真ん中にあったから、ね」
まさか、とユメがおののく。
「う、動かしちゃったんですか……?」
メイコとヒナセは揃って視線をそらした。
まさかあんなことになるとは思ってなかったんだと言わんばかりに。
「いや、だって、動かせと言わんばかりに鎮座してるから」
「「………!!」」
絶句したユメとシズは顔を見合わせた、その瞬間。
ドシン……ドシン……
部室棟から煙と暗がりの中から重たい音が聞こえてくる。
固唾を飲んで見守るこちらの前で、その姿を現したのは。
ヒビの入った顔が痛々しく、目から涙が流れているようにも見える。
半身の割れた、信楽焼のタヌキであった。
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