もしもし
築城京也
瑞明高校、二年A組。
イメチェンと称し、高校デビューと共に金髪ピアスと化す。「オバケに会うたびピアスを開ける」という自分ルールを作ってしまったせいで、耳がピアスだらけになっており次は鼻かヘソと公言している(が邦彦に阻止されている)。
おれが学校の指定の駐輪場から出てくると、邦彦くんがあくびをかみ殺して歩いているのが見えた。
前から思うんだけど、邦彦くんっていっつも仏頂面だからブルドックに似てるんだよね。眉間にしわ寄せてる辺りとか、一見鋭そうだけど目が大きいところとか。
おれがいつものように大声であいさつすると、ブルドックは低い声でうなった。
「邦彦くん、寝不足?」
「あぁ……朝から鬼電してくるバカがいんだよ」
そう言っておれに着信履歴を見せてくれた。
非通知十六件……うわぁ。
「もしかしてストーカー? 邦彦くん、モッテモテー」
「なんでてめぇはそういう方向に頭が向くんだ?」
いつもならここで景気づけに一発飛んでくるんだけど、本当に眠いらしくて邦彦くんは顔をしかめただけ。
おぉ、これは相当疲れてるな。
「菜子ちゃんじゃないの? 邦彦くん、登録してないでしょ?」
邦彦くんはメール無精の上に電話無精。基本的に他人の連絡先は登録しないんだ。
あ、ちなみにおれは邦彦くんに登録してもらっている貴重な一人だよ! 幼馴染っていうアドバンテージだね! テスト前はいろいろ重宝するんだよ。
邦彦くんはスマートホンをいじりながら、
「さすがに晴海だったら分かるっての。あいつの番号は表示されるし、俺も覚えてる」
菜子ちゃんは生粋の邦彦くんラブだけど、実は邦彦くんもまんざらじゃないんじゃないかなっておれはにらんでる。なんだかんだで普段つるんでるし。
今どき電話番号を覚えているって、気のない女子相手じゃあり得ないですよ?
その時、邦彦くんが盛大に舌打ちした。
遅れてバイブ。着信だ。
邦彦くんは画面をごつついた指でなでて、電話を耳に当てた。
「はい」
『もしもし、私メリーさん』
かすかに電話の奥の声がおれにも聞こえた。
ちょっとかわいい声。具体的に言うと、よくアニメで聞くようなロリ声ってヤツ?
『今、校門の前にいr……』
「うぜぇ」ブチッ
思いっきり邦彦くんが通話を切った。
「良かったの?」
「放っていても、あいつしつこく追いかけて来んだよ」
忌々しそうに呟いて、さっさと邦彦くんは教室に歩き出した。
こっそりおれは校門の方を見たけれど、制服姿の人がぞろぞろ歩いているだけでさっぱり電話の主は分からなかった。
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