対峙
お嬢を捕らえようとーー否、叩き潰そうと握られた拳が何度も振るわれるたびに鎖が軋む。
「やめたまえ、今我々が戦っても決着がつかない。それに勝手に飼い犬に手を噛まれたのはそちらだろう? 八つ当たりされてもね」
『……っ!』
「悔しかったらそこな鎖を引きちぎってここまで来てみたまえ。もっとも、できるものならばな」
一際大きく拳が振り上げられ……まるで地団駄でも踏むように床へ叩きつけられた。
床が放射線状に砕ける。
腕は人間の頭ほどのコンクリート片をつかみ、ブォンー!とどうしてそのような音が出るのかと聞きたくなるような速度で投擲する。
常人ならば避けることもできない豪速。
だが。
「ふんっ」
俺は常人ではないので問題はない。
空中でコンクリート片を拳で叩き割った俺を、初めてそこにいたことに気付いたように守り神は動きを止める。
他の生徒たちに見られる心配がないという点では、異界に飛ばされたのは俺にとって僥倖であった。
大きな鉤爪のついた獣の腕を誰に見られずにすむのだから。
「私は手を噛まれるようなヘマはしない。鬼退治にお供してくれるぐらいには忠義を尽くしてくれるだろう、忠士?」
人の世に住みつき、人に紛れて夜闇において人を噛む。
忌むべき獣の名を、人は『人狼』と呼ぶのだ。
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