謁見
伊東忠士
三年A組。お茶メーカーの名前と間違えられやすいことを気にしている。蘭子に心酔しており、いつでも彼女のそばに控えている。
俺にとって黒名蘭子は全てだった。
初めて出会った時のことは忘れられない。腹の底から震える衝撃、電気でも流れたかのように動かなくなる身体。ひとたび瞳に映せば彼女に釘付けになった。
イケナイと頭で分かっていても、俺は黒名蘭子の、お嬢のそばに居ることに決めたのだ。
例えそこが怒れる神お膝元であったとしてもだ。
初めて足を踏み入れる屋上は空気がひりついていた。
本来なら良い景色が広がるであろうに、街並みは暗雲に黒く沈んでいる。そして景色を楽しむ余裕はなかった。
「ぐ……」
奥の祠から放たれるプレッシャーに胸が押し潰されそうだった。
お嬢は涼しい顔で進み出る。
「我が校の守り神よ、お初お目にかかる。ようやくだ。この三年間、私が入ろうとしても威嚇ばかりされて屋上に入れてくれなかったものなぁ」
『……』
「つれないね。私はこんなにも会いたくてたまらなかったというのにさ」
その時、祠の扉が跳ね開けられ赤い腕が猛然とお嬢目掛けて飛びかかる。
「お嬢!」
「案ずるな」
涼しい顔は揺らがない。
「どうせ縛られて動けはしない」
大鬼の腕がギシッと巻きついた鎖に阻まれて動きを止める。
「ふふ。哀れなものだな。元は世界をも飲み込みかねんほどの力を持ったアヤカシであったろうに、今や学校の屋上に縫い止められ、上から睨みをきかせることしかできぬ。……なあ、どんな気分だい?」
「下々と侮っていたモノに、自身の策を逆手に取られるというのは」
祠の向こうからギリギリと歯軋りするような音が聞こえてくる。
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