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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
夢堂静の場合 リベンジ

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後輩のお願い

「夢堂先輩もお一人ですか?」


 (オレ)は誰も見ていない、と首を振ると千鶴は「そうですか…」と肩を落とした。


「でも、夢堂先輩がいるってことは他の誰かも見つかってないだけでいらっしゃる可能性もあるってことですよね!」


 だがすぐに彼女は暗くなりそうな空気を吹き飛ばして明るく笑った。


 少し前まで浮遊霊に憑きまとわれてクラスの影に隠れるように過ごしていたと聞いていたが、今の彼女を見てそうだとはとても信じられない。

 何か一周回って吹っ切れたような様子である。


 それにしても、照間は「邦彦さん」と呼ぶのに己は「夢堂先輩」なのか。


「どうかしました?」

「ム……」


 何でもない、と手を振って応える。

 怖がられたり距離を取られることには慣れている。


 その時、千鶴が何か聞こえたのか遠くに目をやる。


「こっち? こっちに行けばいいの?」

「……?」


 何やら虚空に向かって話し始める。

 短く言葉を交わすと、千鶴は大きく頷いた。


「誰かいるのね? 夢堂先輩、あっちみたいです!」


 そう千鶴が指差したのはグラウンドである。

 どういうことかと尋ねる前に、「あ、えっとですね」と言葉を繋いだ。


「あの、信じられないかも知れないですけど、わたしに取り憑いている子があっちで何かを見つけたみたいなんです。取り憑いているっていっても、悪い子じゃなくて、さっきも夢堂先輩を見つけてくれたのもこの子で……」


 なるほど、と己は納得した。


 己には見えないが、どうやら千鶴と一緒にいる()()が教えてくれたらしい。


「どうしてかここではこの子が何を言っているのかはっきり分かって……あの、引いたりしないですか?」


 不安げに伺う千鶴に、己は首を振った。


 よそではいざ知らず、瑞明高校においては怪異と友達など珍しくもない。己もトオルくんとは浅からぬ縁だ。


 千鶴は見るからに安堵の息を漏らした。


「良かった。邦彦さん辺りに言ったら怒られそうで、まだ言えてないんですよ。内緒でお願いします」

「……」


 たぶん、照間は気が付いていると思うぞとは言わなかった。

 そういえば今日会った時に千鶴を二、三度振り返って見ていた。いつものやぶにらみを更に細めて確認していたのはそういうことらしい。


「じゃあ、さっそく行きましょう! 夢堂先ぱ……」


 言いかけた千鶴はそこで言葉を止めて考え込んでしまった。


 どうしたのか、と尋ねようとすると「あの、実は……」と千鶴の方から言いづらそうに切り出した。


「わたし、中学から部活入ってないからよく分かってなくて……京也さんがいきなり下の名前呼びだったから、そっちが主流なのかと二年の先輩方のことずっと下のお名前でお呼びしてて。かと言って今更照間先輩とか築城先輩とか呼びづらくてずるずるきてて……それでご相談なんですけど」


 言い訳を並べた後で一息、千鶴は思い切った様子で「お願い」を口にした。


「夢堂先輩のことも、下のお名前でお呼びしても大丈夫でしょうか……!?」

「……」

「いや、失礼ですよね! すいません、忘れてください!」


 己が驚いてかたまったのを否定的に捉えた千鶴が慌てて撤回しようとする。

 どうやら呼び方の違いは、彼女の遠慮と葛藤によるものらしい。もしかするとずっと悩んでいたのかも知れない。


 それに対する己の回答は決まっていた。


「構わん」


 そっけなかったかと心配したが、ぱあっとみるみる笑顔が咲いていくのを見て杞憂だとすぐに知れる。


「ありがとうございます、静さん!」


 部活の後輩からは呼ばれたことのない響きに特別なものを感じる。


 慣れぬそれにどうにも気恥ずかしくなってつい顔を背けてしまう。胸の温かさを持て余し、「行くか」と先を急がせるので己は精一杯だった。

次回は24日7時に更新予定です。

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