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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
照間邦彦の場合
7/89

うちの学校の金次郎

 ところで、俺たちの通っている瑞明高校の校内には、二宮金次郎の像がない。


 というのはかつて都市開発計画が大幅に進められた際、大通りを伸ばすために高校の半分、今で言う旧校舎側の土地をごっそりと地ならししてしまったからだ。

 旧校舎そのものはなんとか残留予定地に残っていたため都市開発の餌食になることはなかったが、高校所有の畑と昔の体育館はその時に取り壊された。

 当然、体育館脇に据えられていた二宮金次郎像も撤去される予定だったそうだ。

 しかし学校側の意向により像撤去の工事の度に事故が相次ぐなどのトラブルにより、二宮金次郎像は避けて道路開発は進められ、結果的に学校の敷地外に像だけがぽつんと道端に取り残されるという奇妙な状態が生まれることとなった。


 今では彼は国道沿いのガソリンスタンドの隣にひっそりと佇んでいる。


 そのため、深夜になると高校の塀沿いに二宮金次郎像が走り回っているとかいないとか、そんな噂がご町内で広まっている。




 ある時俺が日直のため、開門時間に登校した日のこと。


 早朝のいわくつきの像の前を通った俺は、偶然二宮金次郎が台座から降りているところを目撃した。

 いつもなら見て見ぬ振りをして立ち去る俺だが、この日ばかりはその姿に目を奪われた。

 なにせ、台座の横で二宮金次郎が体育座りで泣いていたからだ。


 何かと思えば、そいつの足元には見慣れた石の本がばっきりと割れている。台座も心なし傷が入っているような気がする。どうやらガソリンスタンドに入ってきた車に当てられた際、愛用の本を誤って落っことして割っちまったらしい。アホだろ。

 しかし、俺はその日なぜかそいつのことを放っておけなかったんだ。


 あんまり哀愁漂う背中をしていたから、俺はそいつに近付いていった。


 ぽんぽん、と顔を伏せる二宮金次郎の肩を叩く。


 そして俺は、涙の濡れる岩石面に、持ち歩いていたE-PADをすっと差し出した。




「それで彼、電子書籍なんて持ってるんですね」

「仕方ねぇだろ。あんだけ泣かれたらよ」

「金次郎さんも現代的になったねぇ。分厚い書物持ち歩かなくても、あれ一個で何でも読めるもんね」

「たまにあいつ、新しい書籍データをダウンロードしてほしくて俺んちまで来るんだぜ」

「電車五駅の距離を往復しているんですか。大した脚力ですよ」

「もう友達じゃん」

「おかげで俺んちの近所にまで広まったよ、百メートル十秒で駆け抜ける二宮くん伝説」

毎日0時に更新します。

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