桜の忠言
「そんな話を聞かせるために京也くんと私の邦彦くんを引き止めたんですか?」
「誰のだって?」
黙って成り行きを見守っていたやぶにらみの青年が口を挟む。
ずっと気になっていた。私の、と菜子が付けたということは二人の関係はそういうことなんだろう。
あぁ、なんてこと。
「……やっぱり。菜子はこの子と付き合っているのね?」
「付き合ってねぇよ!」
「秒読みだと思うのですが、邦彦くんがなかなかデレてくれないのです」
「何言ってんだよ、お前も!?」
仲睦まじい様子に、私の懸念が現実になりつつあることを知る。
やはり、ちゃんと私が釘を刺さなければ。
「……お二人も、もうすぐ受験でしょう?」
「まあ、な」
「ちょっと早くない?」
まだ高校生だ。
愛を語るには早すぎる。高校生で将来の伴侶を決める人がどれほど少ないか。
友情だってそうだ。一生の友達になり得る人は一握り。どれほど「また会おう」と誓い合っても、ほとんどは卒業すれば交流すらなくなる。
対して知識は蓄積すればするほどに自分の糧になる。学歴は進路の幅を大きく広げる。
簡単な話。
「菜子にとっても大事な時期なの。距離を置いてもらった方がいいと思って」
「……あ?」
どちらに投資すべきかは明らかだ。
友情や恋愛にうつつを抜かす時間はもったいない。高校生活は限られているのだから、有効活用しなければ。
それが絶対に、菜子のためなのだから。
「話になりませんね」
「菜子、私は菜子の将来を考えて……」
「気付いていないんですか?」
「その口ぶり、まるで母さんそのままですよ」
言われて私はハッとした。自分の口を押さえる。
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