愛情
「邦彦くん」
「なんだ」
「邦彦くんは今日の午後から、まだトイレに行っていませんね」
「な、なんなんだよ、いきなり。なんで分かんだよ」
「いえいえ、私と邦彦くんとの仲です。今更でしょう。そんな些末な心の垣根など私たちとの間には、あってないようなもの。そう、これこそ……以心伝心」
「京也、助けてくれ。ここに変態がいる」
「あっはっは、菜子ちゃんはホント邦彦くんのこと大好きだねぇ」
「当たり前です。邦彦くんへのこの想いがラブかライクかと問われれば、間違いなく私はラブと答えます」
「ごめんなさい。赤の他人からお願いします」
「辛辣ですね……」
「邦彦くんと菜子ちゃんってけっこう似合ってると思うよ? 菜子ちゃん、ぼく応援しているからね! がんばってね!」
「ありがとうございます、京也くん」
「帰りてぇ……頼む、平穏な日常に帰らせてくれ……」
「何言ってるの。立派に平穏な日常じゃない。うんうん。平和万歳!」
「お前、これが平穏だというか。一昨日何があったか言ってみろ」
「ぼく、可愛いロリ声の女子と友達になった。やったぜ」
「簡潔なコメントありがとう」
「どういたしまして」
「まさか電話系怪談で有名な某さんとお友達になるとは、京也くんもなかなか侮れない」
「未だに理解できねぇよ。なんであんな状況になったんだよ……」
「いやぁ、本当にねぇ! ぼくもびっくりだよ!」
「…………」
「邦彦くん、息して?」
「俺、なんでこいつとつるんでんだろ」
「あっ。思い出した!」
「なんだ」
「おれ、来月の校内新聞の記事書かなくちゃなんだよね」
「自分のこと書いとけよ」
「なんで校内に私生活晒さなきゃなの(笑)」
「ふむ……では七不思議などどうでしょう? これから夏に向けて、良い具合に学生たちの気を引けるかと」
「それ面白そう!」
「却下だ」
「いえ、邦彦くんが却下してもですね……」
「いーや! どうせ締切間近になって俺に泣きついてくんだよ、こいつは! 嫌だぞ、俺は!」
「ちゃんと手伝ってくれるつもりであるところが、邦彦くんの優しさですね」
「諦めてんだよ……こいつと何年一緒だと思ってんだよ……」
「わーい、ありがとう邦彦くん!」
「お前はもうちょっと反省しろ!」
「じゃあ、反省三秒。……おしまい!」
「なあ晴海。こいつ殴っていいか」
「どうぞ」
「よし」
「えぇっちょっと待って!? 反省したってば! そんな輝くような笑顔で拳を握らないで!? 菜子ちゃんも見てないで助けて!?」
「今ここで京也くんを殴って、後で邦彦くんの人としての尊厳やらプライドやらがしくしく泣いても良いならどうぞ」
「……やっぱやめとく。俺は人間捨てる気はない」
「それが良いかと」
「うーん。でも七不思議かぁ。高校になってもあるんだねぇ」
「華麗に話をぶった切っていったな」
「少々古い学校ならどこでもありますよ? 校歌と七不思議は学校とは切っても切れない関係、いえむしろ七不思議を持ってこそ一人前の学校と呼べると言っても過言では……」
「んなわけあるか!」
「何を仰いますか。学校の女子トイレに花子さんがいるのは常識ですよ? 学校一つにつきもれなく憑いてくる素敵な彼女、貴方の家にもいかがですか? 今ならクーリングオフも可能です」
「いらん」
「それは残念。いたいけな幼女を袖に振るとは、なかなか罪な男です」
「うっせぇわ!? なんなの、お前は俺に何か恨みでもあるのか!?」
「とんでもございません。ただの愛情表現です」
「クーリングオフを頼む!」
「ところで邦彦くん。もうすぐチャイム鳴りますよ。早くトイレに行って来た方がいいのでは」
「お前やたらさっきからトイレ推すな!? 一体何なんだよ!」
「そんなに期待しないでください。さすがの私も男子トイレに押しかけてまで邦彦くんを襲ってしまうほどムラムラしていません」
「口を開くとお前ホント残念だな!?」
「ほら、一分切りましたよ。早くしないと」
「早くしないと?」
「最近絶賛ストーキング中の悪霊さんがさっきの授業で寝ていた邦彦くんの為に付けた真っ赤な手形を、その額に掲げたまま次の授業を受ける羽目に……」
「あんにゃろう、まだ憑いてんのかよ!?もう一週間だぞ!?」
「ちなみにその上から私が愛を込めて肉マークを上書きしておきました」
「だああああああああっ! なんてことしてくれてんだ! え、なに、俺さっきから額に肉印のもみじつけたまんまお前らと会話してたってこと!?」
「あっはっは」
「あっはっは」
「京也ああああ! 気付いてたんなら教えろよおおおお!」
「いやだって面白いし」
「それでもお前は友達かあああ!?」
「あ、ぼくそろそろ教室戻ろ」
「邦彦くん。もう先生が教室に」
「ちっくしょおおおお! 晴海てめぇ後で覚えてろおおおおっ!」
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