トオルくん
「結局、夢堂先輩ほとんど喋りませんでしたね…」
「アイツ口下手だからな」
「口下手ってレベルじゃなかったですよ?」
「よかったな、トオルくんがついてきてくれて。会話が成り立たないところだったぞ」
「それですよ!」
「うお、急に大声出すんじゃねぇよ!」
「今日ずっと気になってたんですよ、トオルくんて誰ですか!?」
「あー……」
「どういう反応です!?」
「いや、やっぱり見えてなかったかと思ってな。仕方ないし、お前がおかしい訳でもないんだけどよ。今からちょっと衝撃的なこと言うけど、驚くなよ?」
「な、なんですか」
「トオルくんな、さっきまで俺らと一緒にいたぞ」
「はい?」
「お前もトオルくんと何度か会話してただろ」
「はいぃぃぃ!? え、いつ!?」
「夢堂の代わりに誰が喋ってたと思ってるんだ」
「誰って、それは……あ、あれ?」
「覚えてないか?」
「あれ? え、どういうことですか? わたし、確かに……」
「トオルくんは運が良い時じゃないと見えないからな。『いた』と認識できるだけ上等だ。大抵のヤツは別れた後、記憶にも残らない」
「邦彦さんも!?」
「『いる』のは分かるし、なんなら会話もしたのは覚えてるんだがな。たぶん明日になったら忘れてる」
「それ、結構なホラー体験ですよね」
「気付かなかったら怖くないだろ?」
「それが怖いんですよ!?」
「トオルくんに会おうとして見つけられるのは夢堂ぐらいだな。あいつ、トオルくんと相性が良いから」
「トオルくんって、何者です?」
「透明人間に近い何かだと俺は思ってるけど、知らん」
「知らんて……」
「幽霊じゃねぇし、マジで謎なんだよ。たぶんお前の存在感を極限まで消したらああなる」
「わたし、あんなに不思議な生態してます!?」
【裏話】
すれ違っても記憶に残らない、目立たない、馴染みすぎて違和感がない。
協調性の究極進化がトオルくんです。
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