いともたやすく行われる非日常②
『邦彦くん』
呼ぶ声が聞こえる。
俺は全力で聞こえないフリをする。心持ち廊下を歩く歩調を早めた。
しかし声はなおも追いすがる。
『邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん聞こえてるんでしょ邦彦くん無視しないで邦彦くん邦彦くんこっちを向いてよ邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん邦彦くん』
振り返ってはいけない。
こういう手合いは相手にしないが吉だと長年の直感が告げている。
すれ違う生徒達が皆ぎょっとして俺の背後を二度見する辺り、血みどろの女子生徒の霊でも憑いているのではなかろうか。
慣れない内は戦々恐々とするが、瑞名高校であれば割と風邪を引くような感覚で悪霊を拾ってしまうのであまり気にしてはいけない。
「あ、邦彦くーん!」
渡り廊下に差しかかった時、今度は中庭の方から声がかかった。
京也である。
俺はちらとそちらを一瞥し。
次の瞬間勢いよく振り返った。
視界の端に映る赤い人影から渾身の力で目をそらし、腹の底から絶叫する。
「何をしてんだよお前はよぉぉぉぉぉ!?」
京也は丁度俺目がけて駆け寄ってくるところであった。
ただしブリッジをしながら。
……ブリッジをしながら。
「気持ち悪いわ!?こっち来んな!!!」
「ちょ……これ結構頭に血がのぼって……あ、あれ?邦彦くんなんで逃げんの!?待って!?」
正直に言おう。しゃかしゃかとうごめく手足がゴキ◯リのそれを連想してキモかった。
時に怨霊より恐怖を覚える幼馴染の奇行。
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