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うちの学校はおかしい  作者: 駄文職人
結女千鶴の場合

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餅玉8

 屋上には誰もいなかった。


 当たり前だ、さっきチャイムが鳴るのが聞こえた。今は授業中だ。

 わたしは屋上の奥へと足を踏み入れる。


 景色はいつもと変わらずに綺麗だ、と思った。


 青い空の下でいくつも並んだビルやマンションの窓がキラキラと輝いている。

 小高い丘の上にある瑞明高校は、周囲の住宅地を見下ろすことができる。

 その空は何も遮るものがなく、とても広い。


 がらんとした屋上は、横から殴りつける風がいやに強かった。


 キィ


 キィ


 何かが軋む音がする。




『いっしょにいましょう』




 わたしの背後から甘い声が囁く。


 振り返ると同時に、わたしの体はまたその場に縛り付けられる。


 校舎内から鏡餅がムカデのように器用に無数の腕を使って這い出てくるところだった。



『そばにいましょう』

『寄り添いましょう』

『一人にならないように』

『手を繋いで』

『抱きしめて』

『そうして一つになりましょう』

『さあ輪の中へ』



 わたしは息を飲んだ。目がそこに釘付けになる。


 わたしを招き入れようとする手の群れの向こう。優しく微笑み、とろけるほど甘い言葉を吐く無数の口よりも更に奥。






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 キィ…と音を軋ませてゆっくりと左右に観音扉が開くと。


 向こうから、真っ赤で巨大な腕が飛び出してくるのを、わたしは見た。


『ギイイイイイイ!!!』


 鏡餅の悲鳴はすぐに握りつぶされる。


 筋肉質な赤い腕は肘すら見えないほど大きい。鏡餅を一握する手には黒く尖った爪がはっきりと見えた。


「お、鬼……」


 この腕は鬼のものだと、なぜか確信できた。


 わたしが見ている前で、鬼の手は祠へと戻っていく。親指の隙間からわずかに覗いた口は、祠に吸い込まれる寸前にかすかに動いた。







『さみしい』






「あ……」


 祠の扉がバタンッ! と音を立てて閉じた。


 わたしはその場にへたり込む。


 呆然。


 何かわたしの理解を超える出来事が目の前で起きて、そのおかげで脅威は去ったのだということだけは分かった。








 祠の向こうからかすかにクチャクチャ…と何か咀嚼する音が聞こえてくる気がした。

毎日7時に更新しています。

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