餅玉3
だるまさんがころんだ。
誰もが小さい頃に遊んだことがあるだろう、このゲーム。
ルールは単純だ。
掛け声の後、鬼が振り返った時に動いていたらアウト。
京也さんは鏡餅を振り向かせた後もこちらへ走り続けていた。
動き続けていたのだ。
ずぼっと鏡餅の左右から手が生えると、怒り狂ったかのように猛然と京也さんへと向かう。
「京也さんっ!?」
息苦しさも忘れてわたしは悲鳴を上げていた。
飛びかかる鏡餅に対し、京也さんは盗塁でもするかのようにスライディングし、巨体と廊下のわずかな隙間を抜ける。
「あ……」
「千鶴ちゃん、動ける!?」
五体満足でわたしの元へ辿り着いた京也さんは、わたしの手をとる。
いつの間にか、息苦しさが消えていた。金縛りは解けたようだ。
身体が動く。
安堵に泣きそうになった。
「京也さぁぁん」
「もう大丈夫だよ。さぁ、こっち!」
京也さんはわたしの手を引っ張ってくれる。
クラスのモブ。
女子グループの一番端っこ。
そんなわたしを助けに来てくれて、一緒に逃げてくれる人がいる。
それだけで胸が一杯になった。
ずるり……
『ひどい』
『ゆるせない』
『あそぼ』
『あそんでくれないなら……』
もう一度後ろを振り返ると、もたもたと立ち上がろうともがく鏡餅が見えた。
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