餅玉1
わたしが昼休みを屋上で過ごすようになって数日。
「ねえ結女ちゃん、最近お昼ご飯の時いないよね?」
休み時間に、同じグループの子に尋ねられて、どきりと動きを止めた。
「あ、えと……」
「先輩たちとご飯食べてるって本当?」
その質問をグループの他の子達も耳聡く聞きつける。
「先輩って、時々校内見回ってるあの怖い先輩?」
「こないだ箒持って何か追いかけ回してたよね」
「やだなにそれコワ」
「結女ちゃん、あの人に目を付けられてるの?」
「や、ちが。わたしが、その、お世話になっててっていうか」
わたしは否定しようとするが、うまく説明ができない。
だって、わたしが実は憑依体質で。
先輩たちが屋上に匿ってくれているなんて。
「噂で聞いたんだけど、あの人ヤバいらしいよ。昔から変な行動多くて、河童に襲われるからってきゅうりランドセルにぶら下げてたとか」
「は、キチじゃん」
「しかもぶら下げてたら意味ないし! 集まってくるんじゃないの?」
「襲われた時に投げて逃げる用だって」
「あはは、笑える!」
みんなは笑っていたが、わたしは笑えなかった。
隙あらば浮遊霊を寄せ付けるわたしだから分かる。たぶん、邦彦さんは必死だった。
わたしだってきゅうりで浮遊霊が散らせるなら、明日から腰に何本もぶら下げる。
「昼休み、結女ちゃんあの先輩と屋上に行ってるんでしょ?」
悲鳴に似た驚嘆。
「たかられてるじゃん、完全に」
「ヤバいって結女ちゃん」
「何か言われてるんでしょ? 困ってることがあるならちゃんと相談してよ」
心配の皮を被りながら、彼女たちの顔はニヤニヤと笑って面白がっていた。
ああ、嫌だ。
「何も、ないよ」
わたしはなんとかそれだけ言った。
この子達を先輩達に近付けたくない。
だって、あの人達は良い人だ。
邦彦さんは何も言わないけれど、時々わたしが鏡餅になっていないか確認しにきてくれる。
京也さんも菜子さんも、一年生で唯一屋上に出入りするようになったわたしが居づらくならないように気を配ってくれる。
彼女たちの嘲笑いの中に、あの人達を差し出したくない。
不意に私の背後から影が差した。
「え……」
なぜかみんなが、わたしの頭上を見て表情を凍り付かせる。
クツクツ……
喉を鳴らして笑うような音が耳元近くでして、背筋に悪寒が走った。
振り返りたくない。「それ」を見てはいけない。
だけど、見ない訳にはいかない。
わたしはゆっくり、背後を振り返って。
幾つもの口が笑うのを、見た。
『うふふ』
『あはははは……』
「い、いやっ」
「何コレちょっと!?」
「きゃああああっ!!!」
悲鳴をあげて彼女たちが逃げていく。
わたしも逃げればいいのに、足が動かなかった。すくんだ訳ではない。
身体が重い。
いつかのコックリさんの時のように、肺が押し潰されそうに苦しい。
何かがわたしをその場に押さえつけて離さない。
目の前にあるそれを、わたしはよく知っている。
それぞれに笑い声を発して合唱する口を無数にびっしりと貼り付けた……
真っ白な鏡餅だ。
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