アヤカシ祓いの心得
「憑依体質かぁ。そういう人いるとは聞いたことあるけど、会ったのは初めてかなぁ」
「私もですね。御守りを肌身離さず持っておくぐらいの対策しか思いつきません」
「そ、そうですか……」
わたしもずっと屋上にいる訳にはいかないので、せめて鏡餅を回避する方法がないかと先輩たちに聞いてみたのだが、その回答はあまり芳しくなかった。
「怪異ホイホイの邦彦くんの方がその辺りは詳しいのでは?」
「誰が怪異ホイホイだ」
邦彦さんはサンドイッチを頬張りながらむすっと答えてくれた。
「まあ、昔っから変なもんに絡まれることは多かったけど、おれの話はたぶんあんまり参考にならんぞ」
「どういうことです?」
「おれの場合は、とりあえず体を鍛えろってジイさんに言われた。よく分からん危ないもんはとりあえず物理で蹴散らせってよ」
脳筋だった。
「邦彦くんのすごいところは、本当に大抵の問題を腕っ節でなんとかしてるってことですよね」
「あのおじいちゃん、獅子は我が子を千尋の谷に落とすを地で行く人なんだよねぇ……」
ぼくも遊びに行った時に滝に放り込まれたもん、と京也さんもその時の寒さを思い出したのか腕をさすっている。
曰く、肉体を鍛えれば自ずと精神も鍛えられる。そして弱みを見せなければアヤカシの類は寄り付かなくなる。一番いけないのは怖がるばかりして連中に隙を見せることだ、と。
「な、なるほど……」
分かるようで分からない。
「というか、邦彦さんって昔からこういうのに遭遇してたんです?」
「家系の体質らしい。俺は特に酷いって言われる」
「そうなんだよ! 小さい頃から、コロポックルとか河童とかと遊んだりしてさぁ! 一人だけ仲良いとかうらやましくない!?」
「仲良くねぇ! 絡まれてたんだよ!?」
その時、予鈴が鳴った。
屋上にいた生徒たちが各々クラスに戻ろうと立ち上がり始める。
わたしも弁当を片付けて立ち上がった時、ふと菜子さんのタッパーの蓋が祠の前に置きっぱなしなのを思い出した。
「あ、わたし蓋を取ってきますね」
「恐縮です」
祠まで足早に向かったわたしは、思わず息を飲んだ。
蓋の上に乗せていたお供物が、綺麗になくなっていたからだ。
ズルリ…
祠の向こうから、舌舐めずりするような湿った音が聞こえた気がした。
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