非日常はやがて友達になる
「つまり君は誰かにかまってほしかったんだ?」
こくこく。
「でも邦彦くんは怖がるどころかウザがるし、電話に出てくれないし?」
こくこく。
「がんばって百回近くかけてみたけど、あんまり相手にしてくれないから悲しくなっちゃったわけか」
こくこくこくこく。
おれはとりあえず湯のみにお茶を注いで、彼女の目の前に差し出してみた。
おれには残念ながら、メリーちゃんと名乗る彼女の姿は白いもやのようにしか見えない。人型なのはかろうじて分かるけど、なんだか真っ白なワンピース着たマネキンと向かい合っているような気分。
まあ、霊感がほぼないおれにはこれくらいが限界だろう。邦彦くんのそばにいるから結構鍛えられてきたはずだが、おれには邦彦くんの家の前でうずくまっている彼女が女の子だと分かるのに相当時間がかかった。ただかすかに聞こえる泣き声が、どこかで聞いたロリ声だったのだ。
ちなみに邦彦くんは家から飛び出してくるなり、おれら二人をその場に正座させて、人んちの庭先で何をしてんだこのドアホ! と散々説教をし、近所迷惑だからもう来るなと年端もいかぬ女の子を追い返した。ホントひどいよねー。っていうか、なんでおれまで怒られたんだろう? おれはただ通りかかっただけなのに。ふしぎふしぎ。
おれが出したお茶をどうやって飲むのかな、とドキドキして見ていたけれど、彼女はお茶に一切手を付けなかった。ちょっと肩を落として、おれは放課後に買ったおはぎを頬張った。
「どうして他の人にはかけなかったの?」
無言。
「電話番号分かんなかったとか?」
ふるふる。否定か。
「じゃあ、なんで?」
無言。
どうしよう、話が進まない。
「あっ、分かった! 邦彦くんファンクラブとか!?」
あれだけ霊感がある邦彦くんだもの。そっち系の人々の間でファンクラブとかできているのでは?
ふるふる。
違うか。
うーん。
おれは粒あんの中の餅をみょーんと口から伸ばす。
「っていうか、どうしておれの前ではあんまり喋ってくれないの?」
もぐもぐしながら言ったから、何を言っているのか分からなかったらしい。
ちゃんとごっくんしてからもう一度言うと、彼女はもじもじしている様子だった。白いもやがお餅のようにすーっと伸びてきて、おれのスマホに触れた。
あ、なるほど。
「いーよ。かけて」
おれが言うと、ぱっと彼女の周りの空気が明るくなった。
よっぽど邦彦くんに無視られ続けたのが心の傷になってたんだなぁ、と最後の一口を口に放り込み、ややあって震えだしたスマホをタップする。
「はいはーい」
『私、メリーさん』
今朝邦彦くんの電話から聞いた声。
『今、あなたの目の前にいるの』
「うん。知ってるよ?」
そりゃあ向かい合って座ってますから。
なんだか目の前で電話してんのって変な感じ。
「そーいや、君、どうやって電話かけてんの?」
おれには白いもやばっかで電話もさっぱり見えないんだけど。
『……』
「……」
『……』
「……?」
『……』
「…………不思議パワー?」
適当に言うと、メリーちゃんが目の前でこくこく頷いた。
なんと、メリーちゃんは念力で電話をかけることができるらしい。家族割もびっくりだ。
「それで、どうして邦彦くんに付きまとってたの?」
おれがもう一度質問を重ねると。
『…………るから』
「へ?」
『みんな………着信拒否にするから……』
非通知を拒否設定にしている諸君、今すぐ設定を解除してあげてください。
ここで幼女が泣いています。
「あー……邦彦くん、機械音痴だからね」
おれは苦笑した。邦彦くんが使えるのは、おれが教えてあげたメールと電話、それからカメラ機能くらいだ。アドレスの登録方法も教えてあげたんだけど、面倒って言って使う気配がない。
あんまり使いづらそうにしているから、おれが気を遣って簡単携帯にしたら? って勧めたら殴られた。
『それに……』
「うん?」
『みんな……全然、相手にしてくれない……』
まあ今の時代、昔ほど幽霊に怖がることはないかもね。オレオレ詐欺とかもあるし。せいぜい誰かの悪戯だと思われるか。
消え入りそうな声を、おれは精一杯励ました。
「諦めちゃダメだよ!」
『……?』
「きっとみんなの気を引くためには、怖いだけじゃダメなんだ!」
『怖い……だけじゃ?』
「そう! 変わりゆく時代に嘆いているだけじゃ、何も変わらない!」
『……!』
「電話に出てくれるだけじゃなく、むしろみんなが電話をかけ直してくれるくらいにならなきゃ! この厳しい時代は乗り切れない!」
『……う、うん』
「そんな弱気じゃダメ! 返事は大きく!」
『うん!』
「じゃあ、さっそく練習だ、メリーちゃん! 最初の挨拶は!?」
『わ、私、メリーさ……』
「挨拶は人の顔だよ! 元気よく言わなきゃ!」
『私っ、メリーさん!』
「もっと大きく! 腹の底から声を出して!」
『私! メリぃぃぃぃぃさぁぁぁんっ!』
◇
「というわけで、メリーちゃん専属のボイストレーナーになりました」
「何でだよっ!?」
邦彦くんにまた怒られた。
おかしいなぁ。
おれ、人助けをしたはずなんだけど。
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