●●の天敵
私の放った魔力は、果たして少女まで届くことはなかった。
直前、彼女の前に壁があるが如く打ち消したのである。
驚いた。
凡人に防ぎ得るはずがない。
これはーー
祝福されている。
私は長らく口の中に収めていた牙を苛立ちに剥いた。
「そうか、クマ……貴様、付喪神か……!!」
大鬼には到底及ばぬ低位の神。
だが、腐っても神である。
神の祝福は邪を祓い、他の神に対抗することをも可能とする。
何より、付喪神は元来人との親和性が高い。
人との絆を得た無機物が命を得て、神格化した存在だからである。
「は、ははは…! これは愉快! よもや作り物の神ごときが鬼を倒し、この私に楯突くか!」
なるほど、拙くも神格を持つ者に邪魔をされれば大鬼の術が失敗するはずである。
神に愛された者であるならば、弱った守護神を殴り飛ばすことも可能であろう。
この私の、一撃をしのぐことさえも。
なんということだろうか。こんな所に最大の障害が潜んでいるなど微塵にも思わなかった。
元来、私にとって神は天敵なのだから。
「狙いは何だ? お前も守護神の座か? それとも大鬼への復讐か!」
「どうでもいいわ!」
クマを肩に乗せた少女が吠える。
「お前らの事情なんて知らん、勝手にやってろ! 私とヒナセに迷惑をかけた分は報いを受けてもらうぞ、先輩!」
「ーーっ!」
目的すらないのか。
強い動機を持たない、ただ目の前の火の粉を払おうとするだけの者たちに、私の夢は邪魔をされたのか。
なんらかの高尚な目的のために立ちはだかる敵であったならば、まだ納得できた。相手にとって不足なし、堂々と私の持てる力全てで叩き潰すまで。
だが、彼女はそうではない。
ただの通りすがり相手では、本気になるより前に私の覚悟すらも白けてしまう。
忠士の言う通りだった。
一般人を巻き込むべきではなかった。不穏分子が紛れ込んだのを確認した時点で、ちゃんと排除しておくべきだったのだ。
侮り、油断し、足元を掬われて。
これではまるで大鬼の二の舞ではないか。
「……ふ、ハハッ。そういうことか」
全ては、私の詰めの甘さが原因か。
褒美を前に舞い上がりすぎて、足元が疎かになった。これでは大鬼を嘲笑えない。
「もう、いい。もう……」
ふらふらと揺らぎそうになる手を小娘に向ける。
「もう、消えろ。私の前から」
私の放った力の奔流が、少女の体を吹き飛ばし屋上の外へと弾き出した。
「ダメだ、お嬢……っ!」
私の背に追いついた忠士が、私をも追い越して少女へと手を伸ばし、
そのまま、真っ逆さまに落ちていった。
次回1月16日7:00に更新します。
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