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◆高校生(=世界一おバカな生き物)による学校の怪談 【旧:うちの学校はおかしい】  作者: 駄文職人
とある悪魔の場合

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133/146

●●は背を向ける

 ある女子生徒が屋上に殴り込みに来る、十分ほど前のこと。



 所用を終えて屋上に帰ろうとしていると、忠士に鉢合わせた。


 思ったよりもボロボロだ。

 手酷く大鬼にじゃれつかれたと見える。


「大事ないかね?」

「少々小突かれて、屋上から落ちてしまいました……」


 右足を引きずってはいるが、屋上から落ちた割に足を挫いた程度で済んでいるのだから人狼の生命力は素晴らしい。多少荒く使っても壊れないのだから。


「先ほど、次元が揺れた」

「ということは……」

「あぁ。来るぞ、邦彦くんが」


 こちら側と現世側の祠、両方を壊してしまえば守り神を縛るものはなくなる。


 現世に残した邦彦くんが最後の頸木(くびき)を壊してさえくれれば、大鬼・茨木童子は解き放たれるはずだった。


 のだが。


「予想通りといえば予想通りか……。祠を壊さず、異次元側に殴り込みに来るとはな」


 本当に、有望な後輩である。


 少々特殊な目を持っているとはいえ、ただそれだけの男がここまで立ち回るなど尋常ではない。


 そのはず、邦彦くんは強靭な精神力と腕っぷしを武器にこれまで学内のアヤカシたちを制圧してきた。


 だからこそ、私は彼に白羽の矢を立てたのだ。






 彼ならば、我が校の守り神に畏怖することなく対峙できる、と。






「お嬢……」

「何も問題はない、予定通りだ」


 そう、何も問題はない。

 全ては計算の内である。


 だから、忠士がなぜ浮かない顔をしているのかが私には分からない。


「一般学生がこちら側に来ています。恐らく、巻き込まれたものかと」

「ん? あぁ……。把握している。なるべく私の方でも制御したつもりだったのだがな、不幸な生徒もいたものだ」


 恐らく、私とは別に大鬼から恨みを買った者がいたのだろうな。全く、守り神に対して罰当たりな話だ。いや、それは自分のことを棚に上げているか。


 何にせよ、大した問題ではない。


 私の計画への障害になりはしないかとちらと懸念はしたが、一般人が何かを()せるはずもない。放っておいて大丈夫だろうと判断した。


 そんなことよりも、期待通りにこちら側へのこのこやって来た邦彦くんを迎え入れる準備をしなければ、と階段へ足をかけた私の背後から、





「お嬢、もうやめましょう」





 忠士が、声をかけてきた。


 何を言われたのか、一瞬理解ができない。


 私はゆっくりと彼を振り返る。


「やめる、とは?」

「守り神の鎖を断とうと俺の方でも試みましたが、あれは強固すぎる。とても破れるような封印ではありません」


 そうだろうとも。数世紀に渡ってかの大鬼を縛り付けてきた封印だ。人狼一匹が噛み付いたところで容易く破れるようなものではない。


「だからこその邦彦くんだろう。彼ならば封ぜられたままの大鬼を倒せる」

「ですが、犠牲が出る。お嬢は、全校生徒の安寧のために尽力なさってきたじゃないですか。もし死人が出てしまったら、本当に取り返しがつかない……!」

「忠士」


 静かに私は彼を制した。


「私がこの時をどれほど待ち侘びて来たか知っているだろう? なぜやめなければならないというのだ。もうすぐ願いが叶うという、この時に」

「ですが!」

「大きな望みには代償が必要だ、当たり前だろう。そのために私は散々苦労して準備を進めてきた。今更、犠牲が一体何だ?」


 そのような感傷は、『黒名蘭子』の願いを叶える上で重要なことなのか。









「全くもって、くだらない」








「……!!!」


 吐き捨てた私に、忠士が息を飲む。


 くつくつと私は嗤う。


「忠士、お前とは付き合いが長い。私のことをもう少し理解してくれていると思っていたのだがな」

「お、お嬢……」

「『黒名蘭子』は皆から必要とされなければならない。なればこそ、必要があれば人格者の真似事もしよう。アヤカシ対策委員会を設立し、学内での影響力を伸ばした。守り神の席を簒奪するために必要な駒を揃えるためにな。私は、『私』の望みを叶えるためならば手段を惜しまない」


 私が『黒名蘭子』を託されたが故に、『彼女』の願いを何を犠牲にしても成就せねばならない。


 得たものには対価を。


 奪い取ったものには代償を。





 それこそが、(あくま)の存在意義なのだから。





「付き合いきれぬなら、結構だ。忠士、今までご苦労だったな。この数年のお前の尽力には感謝しているぞ」

「あ……」

()らばだ、可愛い私の狼よ」


 何かを言いたげな忠士に背を向ける。



 迷いある者の同道は不要。


 ここから先は、私が一人で舞台を整えるつもりだ。





 花道を歩く気分で、屋上への階段を登る。


 あと少しで、守り神の座を手に入れることができる。


 私が守り神となれば、学内のアヤカシを排除し生徒達に平穏をもたらすだろう。信仰と崇拝を得た『黒名蘭子』は、瑞明高校に通う全ての人にとってなくてはならない存在となる。




 そうしてついに、『黒名蘭子』が存在していてよかったという証明が成り立つのだ。




「ようやく約束が果たせるな、友よ」


 私の内に未だ『黒名蘭子』が生きていたならば、きっと喜んでくれたことだろう。


 私も、やっとこれで胸のつかえがとれる。


 清算の時だ。











 この期に及んで、誰にも邪魔はさせぬ。

次回1月13日7:00に更新します。

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