裏切り
「なんで?」
「なんでって……信じなくたっていいだろ、お前は。……見えないのに」
京也には霊感がない。
だから、普通に生活してりゃアヤカシになんか関わる機会はないんだ。
俺と仲良くしなきゃ、こいつは『普通』に生きられる。
「見えなかったら、信じたらいけないの」
「いや」
「邦彦くんは、おれに嘘を教えたの」
「そうじゃない、けど」
「じゃあいいじゃん。おれが何を信じたって、邦彦くんには関係ないじゃない」
京也は責めるように言った。
仕方がない。
京也にアヤカシが実在すると、教えたのは俺だ。
だけど。
「そういう問題じゃない!」
つい、声が大きくなった。
なんて言えばいい?
どうすれば京也の興味をアヤカシから引き離せる?
「お前まで、一人になることないだろ……」
やっと絞り出した自分の声は、なんとも情けなかった。
俺のせいだ。
俺が一人でいるのは構わない。苦痛じゃないからだ。連中は俺相手なら手を出さない。
きっと、俺は心のどこかで見えない連中を見下していた。だから、あいつらが俺を気味悪がるのを「何も知らないくせに」と一笑に付して放置することができたんだ。
「悪い、俺が間違ってた」
我ながら腹立たしい。
自分のことしか考えてこなかった奴の発想じゃねぇかよ。
「俺が変な目で見られるのは、構わない。お前まで巻き込むなんて思ってなかったんだ」
見えない連中と足並みを揃えるべきだった。
ちゃんと『普通』を装おうとしてこなかったから、俺は唯一信じてくれた奴を傷付けたんだ。
「俺が変なこと言わなきゃ良かった。母さんの言った通りだった。みんなの輪を乱すようなことをしたらいけなかったんだ」
母さんもじいちゃんも、『普通』に生きろと何度も教えてくれていた。
『普通』に生きるってのは、見えない連中とも波風立てずに生きろって意味だ。
他の奴らにとって、視える俺は異質な存在だから。
「他の奴らにとっては『ない世界』なんだ。それで良かったんだ。それを壊そうとするから反感を買う。これからは……俺も気を付けるようにするから」
「もうおばけの話をするのはやめるってこと……?」
信じられない、と京也は目を見開いた。
アヤカシなんて見えなくていい。
これからはちゃんと見えないふりをしよう。
『普通』の皮をかぶろう。
「その方が、みんなにとって平穏なら」
友達を、傷付けないために。
「そうすりゃ、きっとみんなも変な目で見ることはなくなるから。最初っからそうだった俺はともかく……京也なら……。だから、京也も……」
「邦彦くんのうそつき」
聞いたこともないぐらい、冷たい声だった。
はっとして京也の目を見た瞬間、俺はまた間違えたのだと気が付いた。
怒りをたたえた、暗く燃える瞳。
俺のことを心の底から信じているコイツを、俺自身が裏切ってしまったのだ。
次回12月26日7:00に更新します。
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