押し通る、邪魔をするな!
学校なのに、学校じゃない。
薄暗い帷に覆われたこの空間に、俺は見覚えがあった。
「懐かしいな、夢堂」
そう声をかけると、夢堂も同じことを考えていたようで神妙に頷いた。
一年前、変な波長が合ってしまった夢堂と、その時たまたま一緒に下校していた俺は、同じ道をぐるぐる巡る小道に入ってしまって出られなくなったことがある。紆余曲折あって脱出成功したが、夢堂と仲良くなったのはその頃からだったな。
ここは、あの時迷い込んだ小道とよく似ている。
同じ場所でも、違う場所。
いつもの世界から少しズレた世界。
常世の隣に存在するという異なる次元である。文字通りの異次元だ。
例えるならば、あの世とこの世が交わる黄昏時、あるいは彼方のモノが此方に紛れるお盆や魑魅魍魎がうろつく十月三十一日。いつもは隔てられているはずの境界が曖昧になり、重なり合った場所を指す。そういう場所では常世のルールは歪められる。
『そういう場所に入っちゃったらね、邦彦。落ち着いて周りをよく見て。どんなに不思議な場所でも、そこはいつもの世界を元に作られているの。分かるわね?』
俺の母さんも、俺と同じで視える人だった。
つーか、俺の変なヤツらに絡まれやすい体質は絶対母さんからの遺伝だと思う。明言されたことはないが、俺は確信している。
何にせよ、昔から苦労してきたという母さんからの助言は、いつも的を射ている。
「邦彦さんっ! 前です!」
結女の警告が飛ぶより先に、振り抜いた箒は前方から襲いかかってきた小鬼を叩き伏せる。
同時に横では小鬼を二体斬り捨てたテケテケが、「ヒヒヒッ」と嬉しそうに笑った。分かった分かった、お前の勝ちでいいよ。
目の前の小鬼たちは日本の妖怪絵巻でも出てきそうなナリをしているが、鬼は西洋ではゴブリンと呼ばれていたはずだ。
ってことは、奥からのっそり出てきたデカめの中型の鬼はホブゴブリンってことでいいのか。
「いい加減、俺もフラストレーションが溜まってんだよ」
ワラワラと廊下を埋め尽くすように次から次へと出てくる鬼どもに向かって、俺は箒を、テケテケは夢堂の前に身を乗り出して鎌をそれぞれ構えた。
「押し通らせてもらうぜ」
口の端を釣り上げた俺の顔は、さぞ凶悪な笑みを浮かべていたことだろう。
母さんは言った。
異次元だろうと、物理で殴り飛ばせば何も問題はない、と。
次回12月23日7:00に更新します。
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