こいつ、直接脳内に……!
頭に直接響くような、涼やかな声。
『それ以上踏み込んではいけません』
女の声が、私を引き止めようとする。
「お前は……」
私の知らない声だ。
なのに、耳を傾けずにはいられないのはなんでだ。
『今、私は貴女の脳に直接語りかけています』
「やかましいわ!? お前絶対うちの生徒だろ!?」
分かった。このふざけ方は築城と似たものを感じるんだ。
『ふふ。このセリフ一度言ってみたかったのです』
よそでやれ。
無視だ無視。
こんな連中の相手をしている時間がもったいない。
『あぁ、お待ちください。本当にそれ以上深く潜ると戻れなくなりますよ』
「うるさい! 早くヒナセを見つけないといけないのに……」
『もう一度言います。二度と戻れなくなりますよ』
女の口調は淡々としていて感情が見えない。だからこそ、言葉の重みが真実味を帯びていて、私を踏み止まらせた。
戻れなくなる。
日常に? ーーそれとも、元の世界に?
「で、でも……私の友達がここに……」
ヒナセを放ってはおけない。
連れて帰らなきゃいけないのに。
ヒナセはどこだ?
ここにはいないのか?
それともーーーーもう。
『落ち着いてください。ヒナセ、という方がどなたが存じませんが、少なくともここへは来てはいませんよ』
女の声に、暗く沈みかけた思考に光が灯る。
「本当?」
『誓って。黒名先輩の他に、自力でここへ来られたのは貴女が初めてです』
邦彦くんじゃなくても案外イケるんですね、とどこか感心した様子で独りごちている。
そういえば、気が付いたら築城のヤツの気配がない。はぐれたのか。
「でも……じゃあ、ヒナセはどこに」
ここにいないのなら、影に飲まれたヒナセはどこへ行ったのか。
『貴女がお探しのヒナセさんは間違いなくこちらに?』
「影に喰われたんだ。だから、絶対こっちにいると……」
『ふむふむ。なるほど』
声の主は少し考える間を置く。
『割り込んだ……いえ、すり替えられた……』
「え?」
どういうことだ?
『そういうことであれば……。聞いてください、誰かさん。今ここでは予定外のことが二つ、起きています』
「二つだけな訳ないでしょ!? 学校は変になっちゃうし、鬼は出るし!」
『いいえ、それらは守り神と黒名先輩の喧嘩の結果の出来事。黒名先輩にとっては予定調和の中のお話でした』
マジか。
その黒名先輩とやらは、バケモンか?
『一つは、神様が用意した「供物奉納の儀」がうまくいかなかったこと。本来であればあれは学校にいた全ての生徒を生け贄として捧げるものでした』
「え」
全ての生徒を、生け贄?
血の気が引いて、寒気に震える。
全員を喰うつもりだったのか、ここの守り神は。
そして何より、黒名先輩とやらは全生徒を巻き込むことをも織り込み済みだったということに怖気が走る。
『ですが、失敗した。事前に魔除けが学内中にばら撒かれていたからです。これが一つ目の誤算。そして二つ目の誤算は……守り神の足の封印が、予想より早く解かれてしまったこと』
封印、と聞いてどきりとする。
「た、タヌキの件は悪かったと思ってる……」
『タヌキ? ……端的に言います。黒名先輩の誤算は、貴女です』
「私?」
『はい。貴女は本来こちらに引き込まれるべきではなかったのです。恐らく、ヒナセさんも』
「どういうこと!? 私らが何したっての!?」
『貴女、最近何か拾い物をしませんでしたか?』
そんな、まさか。
嵌めたのか、あのクマ。無害そうな顔をしておいて?
『もしかしたら不確定因子になり得るかもしれないからと黒名先輩は気にしていたようですが、どうやら嫌な予感が的中していたようですね』
『名も知らぬ誰かさん。どうかご協力ください。ーー黒名先輩を出し抜けるかは、貴女にかかっています』
次回12月16日7:00に更新します。
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