露払い
部室棟の前は不気味なほど静かだった。
問題の部屋は扉が開けっぱなしになっていて、真っ黒な口をポッカリ開けている。タヌキの姿はない。
足を踏み出すと、粉々になった陶器のカケラを潰してしまってジャリっと音が鳴った。あのタヌキの末路が想像できてしまう。
「わぁ、おれでも分かるぐらいおどろおどろしいね!」
驚くことに二階から飛び降りても無傷だった金髪男は、興奮して叫んだ。
クラスは違うが学年で有名な変人その一、築城京也だ。千鶴の知り合いらしい彼は、なぜか私たちについてきた。
「さっきはあそこから影がいっぱい出てきたって? ヤバいね! あそこが本丸か!」
なんでそんなにテンションが高いんだ。
千鶴、そして後から合流した大男・夢堂は後ろで息を切らせている。
言い出しっぺは私とはいえ、築城は「えっ影の本体の所に行く!? 何それおれも行きたい!!」と、便乗するどころか舵を横取りして海の上を暴走するモーターボートのように、全員を巻き込んでここまで引きずって来たのである。
そして今、本人はなぜか伸脚でウォーニングアップしている。
「よっしゃ、行くか!」
「待って飛び込む気!?」
コイツの思い切り良すぎて、乗り込む気であった私が逆に心配になって躊躇するレベルだ。
「いや、それがおれが追いかけていた子も影に食べられちゃってねぇ。なんとか助けたいんだけど」
「それ人間だよね?」
「え、違うよ?」
「……」
ダメだ、コイツの行動原理が全く理解できない。
まあ、率先して突っ込んでくれると言うなら、盾代わりに使ってしまおうか。
私はヒナセを取り戻せたら、何でもいい。
「あんまりグズグズしている暇もなさそうだし、ね」
そう付け加えた築城の視線の先で。
扉の暗がりから、先ほどの腕のような影がスルスルと伸びてくる。四方に展開した腕の群れは、まるで日本神話のオロチだ。
「どうやら私たちを近付けたくないみたいね……」
どうやって近付こうか。
すると、身構える私の前に、おもむろに千鶴が進み出た。
「お二人が近付けるように、隙を作ります。露払いは、私たちに任せてください」
少女の体から立ち上った黒い瘴気は、ゆらり、と二本の鎌を形取ったのだった。
次回12月10日7:00に更新します。
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