人が降る日
伸ばした手の先で、ヒナセが黒に飲まれて消える。
「ヒナセ!!!」
叫んだ喉が痛い。
ヒナセを飲み込んだ影が、蛇の形になって鎌首をもたげる。そして水面に飛び込むように、地面の中へとぷんと潜ってしまった。
影が潜った先へ飛びついたが、砂を掻くだけとなる。
無駄だと分かっているのに、掘り起こそうとした爪が剥がれそうになった。
「あのバカ! あのバカ!」
どうして他人なんかかばってしまうんだ。自分が助かるために動くべきだろ、普通は。
なんでそこまで優しいんだ、ヒナセは。
自分だって余裕がなかったはずだろ。
さっき抱きしめてくれた時だって、指先がびっくりするぐらい冷たかった。怖かったのは私だけじゃない。私は無様に他人に当たり散らしていたのに、ヒナセは私のことばかり気にかけて。
なんで、私なんか助けちゃうんだよ……。
不意に私が立ち上がって駆け出そうとすると、隣で尻餅をついていた女に慌てて止められた。
千鶴と名乗った、一年だ。
「待ってください! どこに行くんですか!?」
「決まってるだろ! ヒナセを返してもらう!」
あの影は部室棟から出てきていた。食われたのなら、必ず胃袋に運ばれるから大本に向かうはずだ。
とりすがる千鶴を振り払おうとした。
だが、千鶴も負けじと私の腕をつかんで離さない。
「お、落ち着いてくださいってばぁ!」
「邪魔すんな!」
引き剥がそうと手を上げかけた時。
「ありゃ? 千鶴ちゃんじゃん!」
声のする方を見上げると、金髪の男が二階の窓から手を振っているところだった。
そうだ。
さっきもどこからともなく注意を促すのが聞こえた。誰の声かと思っていたが、上のアイツのものだったらしい。
「京也さん!? どうしてここに!?」
「スマホを貸してもらおうと思って追いかけてたんだけどねぇ……。あ、ちょっと待ってて。今飛び降りるから」
今、なんつった?
そう言ったそいつは、既に窓の枠に足をかけていた。
「「は!?」」
唖然と見上げる私たちの前で、金髪男は窓から文字通り飛び降りた。
「な、な、何してるんですかーーーっ!?」
今日はよく人が降る日だ。
次回12月9日7:00に更新します。
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