気付き、そして…
ぼくが迎えに行くと、メイコちゃんは目を真っ赤にして膝を抱えて待っていた。
「ヒナセ、遅い」
ブスッと低く一言。
「にゃあ、ごめんね」
「何話していたの」
「んー、ちょっと恋バナ」
「は? こんな状況で何してんのよ」
「あはは……」
メイコちゃんの隣にずっとついていてくれたらしい千鶴ちゃんに「ありがとね」とお礼を言うと、パタパタと手と首を器用に振った。
「全然! それより、あの、ごめんなさい。お二人の気持ち……わたし考えていませんでした」
何かと思えば、どうやらクマの件で質問攻めにしてしまったことを悔いているらしい。
ぼくは笑ってしまった。
「にゃあ、そりゃ一人で動くクマなんていたらびっくりするもん。仕方ないよ」
そして、ぼくは千鶴ちゃんをじっと見つめる。
「な、何ですかっ?」
視線の圧を感じてしまったのか、たじたじ後ずさる。
「うーん。君も大丈夫なんだねぇ」
「はひっ!?」
「ううん。こっちの話」
初対面で「顔が良い」と言われた時はちょっと警戒したけれど、それ以降千鶴ちゃんも過剰な反応がない。
メイコちゃんみたいに顔に一切の興味がない類とは少し違う。
ーーあぁ、これは別の人に恋しているな。
そういう感覚を覚えてしまった自分が嫌になる。これ以上色恋沙汰に巻き込まれたくなくて、わざと変な奴だと思われるようなキャラ付けまでしたのに。
「あ、そうだメイコちゃん」
「何よ。さっきのことなら謝んないからね」
「そうじゃなくて。前に神隠しにあった時のことなんだけどね」
伊東先輩と話をしていて、思ったことがある。
前にメイコちゃんが消えた時、クマに呼ばれたのではないかとぼくの友達は言っていた。実際にクマを拾った途端、彼女は帰還できた。
今回は屋上にいるという守り神によってぼくらは異次元の学校に迷い込んでいる。
一見、今回とは全く関係のない出来事。
だけど、気になることがあった。
「もしかしてなんだけどさ……」
その時。
「そこの人たち! 後ろ!」
誰かの警告が耳に飛び込んでくると同時に、ぼくらの頭上に影が差した。
つられて見上げると、黒が視界いっぱいに覆う。
いつの間に近づいたのだろう。
部室棟から出てきたのと同じ黒い影が、大きな鬼の腕を模ってぼくたちの上に覆い被さっていた。
タヌキが足止めしていたあの影が追いかけてきたのだ、と分かってしまった。
背筋に冷たいものがゾクリと走る。
(守り神は生け贄を求めた。だから俺たちはここへ呼ばれたんだ)
喰われる、と本能で悟る。
ぼくには、迷っている暇がなかった。
近くにいた二人を、ぼくは強く突き飛ばすしかできなかった。
「ヒナセ!?」
いっぱいいっぱいなのにごめんね、メイコちゃん。
「 」
大きく見開いた彼女の瞳の中で、
ぼくは影に呑み込まれた。
次回12月8日7:00に更新します。
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